犬に噛まれた時の応急処置
犬に噛まれると、ほとんどの人が驚いて犬を振り払おうとします。しかし、勢いよく離れようとすると、離さないようにとより強く噛んだり、裂傷をつくったりする原因となってしまいます。
周りに人がいる場合はすぐに手伝ってもらい、犬の口を開くようにしてから離れましょう。
一人の場合は、噛まれている部分を犬の口の中に押し込みます。そうすると吐きそうになり口が開きますのでその瞬間に犬から離れるようにしましょう。
犬が離れた後は迅速に傷の応急処置をしましょう。
流水で傷口を5分以上洗い流す
犬の口腔内には、たくさんの菌が存在します。どんな小さな傷でもそこから体内に菌が侵入してしまいますので、まずはしっかり流水で洗い流しましょう。
溜めた水の中で傷口を洗ってしまうと水の中に菌がとどまり、傷口は清潔にはなりませんので必ず流水で洗浄しましょう。
小さい傷の場合は、5分以上流すことで止血される場合もありますので、しっかり流すようにしましょう。
止血をする
犬に噛まれた場合には圧迫止血が有効的です。清潔なガーゼやタオルをあて、傷口を心臓よりも高くし、じっと圧迫しましょう。目安は10分程度になります。
病院を受診する
止血までしっかり応急処置をし痛みがひいてくると、もう大丈夫と思う人も多いと思います。しかし、噛まれたことによる感染症のリスクは傷の大小や痛みの有無には関係しません。
抗生剤治療やワクチン接種などが必要になるケースがほとんどですので、どんなときでも犬に噛まれた場合には病院を受診しましょう。
犬に噛まれることで起こるケガや感染症
人獣共通感染症(ズーノーシス)という言葉を聞いたことはありますか?
これは1975年、世界保健機関(WHO)により「脊椎動物と人間の間で通常の状態で伝播しうる疾病(感染症)」と定義づけられています。
簡単にいうと「動物から人」もしくは「人から動物」との間で感染する病気のことです。こういった感染症は、ペットとして飼われている犬からも感染することがあります。
早期治療や予防によって感染症を防いだり、病気やケガの悪化を食い止めたりすることができますので、どのような病気やケガが起こり得るのかしっかりと把握しておきましょう。
破傷風
破傷風とは、土の中に存在する破傷風菌に感染することにより発症する病気です。
例えば、破傷風菌が存在する土を舐めた犬に噛まれることで傷口から体内に破傷風菌が侵入し感染します。潜伏期間は3日から14日程度といわれています。
破傷風を発症すると、まず口が開きづらくなり物を飲み込むのが難しくなります。その後、顔の筋肉がこわばり無意識に笑ったような表情になったり、腕や体の大きな筋肉のけいれんが起こったりします。
重症になると、全身のけいれん発作や自律神経の異常が起こり命にかかわることもあります。
破傷風の主な治療法は、ワクチン接種です。日本人は幼少期に破傷風のワクチンを接種しているため、破傷風菌に感染しても発症する可能性は少なく、日本での破傷風発症例は年間100人程度といわれています。
しかし、最後の接種から10年経つと次第に効果が低下してくるため、念のためワクチンを追加接種することが多いです。発症し症状が進行してしまうとワクチン接種での治療に効果が現れないことがありますので、速やかなワクチン接種が重要になります。
狂犬病
狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染することにより発症する病気です。狂犬病ウイルスに感染した動物に噛まれることで傷口から狂犬病ウイルスが体内に侵入し感染します。
狂犬病は発症するとほぼ100%死に至るとても恐ろしい病気です。潜伏期間は1か月から3か月といわれていますが、数年という例もあります。
狂犬病の初期症状は発熱・頭痛・筋肉痛・悪寒といった風邪のような症状を発症し、その後、意識障害や錯乱・幻覚、そして特徴的な水や風を怖がるといった症状が起き、やがて全身のけいれんや不整脈、各臓器の障害が起こり、死に至ります。
致死率がほぼ100%であることと、発症後の治療が難しいことから狂犬病は発症させない予防が大切とされています。
日本では、飼い犬のワクチン接種が義務付けられています。そのためワクチンの接種率が非常に高く、日本では未だに狂犬病患者は確認されていません。
しかし、野良犬や野良猫、その他の野生動物からも感染する可能性はありますので接触には注意しましょう。
万が一、他人の犬に噛まれた場合にはその犬が狂犬病ワクチンを接種しているか必ず確認するようにしましょう。
パスツレラ症
パスツレラ症とは口腔内常在菌であるパスツレラ菌に感染することにより発症する病気です。
パスツレラ菌は猫:約100%、犬:約75%が保有している菌で、引っ掻き傷や咬傷から感染しますが、犬や猫に口を舐められたり、キスしたりすることによっても感染する可能性があります。
パスツレラ症はいわゆる日和見感染症(免疫力が下がっている際に発症するもの)ですので、感染しても無症状の場合もあります。
免疫力が低下している場合は、噛まれてから30分から数時間程度で傷口が赤く腫れ、発熱や痛みが現れます。重症になると炎症が広がり、骨髄炎・腱鞘炎・関節炎・呼吸器感染症などが起きる場合もあります。
免疫力が低下している高齢者や持病のある人は重症化しやすいので注意しましょう。
パスツレラ症の主な治療法は抗生物質の投与になります。抗生物質の投与はパスツレラ症の治療にとても効果的で、早期に治療が進められればほとんどの場合が重症化することなく回復へと向かいます。
また、発症していない場合にも予防的に抗生物質を投与することがあります。
内出血
犬に噛まれたときに起きるケガの症状のひとつに内出血があります。
内出血とは、噛まれた衝撃により皮下組織や体腔内に血液が溜まってしまった状態をいいます。痛みや腫れを伴い、悪化すると熱を帯びてきます。 まずは炎症を抑えるために、患部を冷やし、腫れが引いてきたら血行を促進させるために温めましょう。
内出血とはいえ、犬に噛まれているのですから見えない小さな傷がないとは言えません。内出血の場合も感染症を引き起こすリスクはありますので、早めに病院を受診しましょう。
裂傷
裂傷とは、犬に噛まれた際に皮膚や粘膜などが裂けた状態の傷のことをいいます。ほとんどの場合、傷口から出血し悪化してくると傷口から細菌が繁殖して化膿してくる場合があります。
また、裂傷は犬の牙で裂かれるようにしてできた傷になるので、傷の断面が不規則にギザギザした状態になります。これにより傷が治るのに時間がかかり、傷が残りやすくなってしまいます。
そして、傷口から様々な感染症にかかるリスクもあります。傷が大きい場合には縫合処置が必要になる場合もありますので、応急処置をした後に、すぐに病院を受診しましょう。
犬に噛まれたら病院へ行くべき?何科を受診すればいい?
犬に噛まれたら傷の大小や痛みの有無などに関わらず病院へ行くことをおすすめします。
正しい治療を怠ると傷が治りにくくなったり、感染症に有効的な治療を受けられなくなったりすることもあります。また犬に噛まれた際に何科を受診すべきかも知っておきましょう。
傷の大小に関わらず病院を受診する
傷の大小に関わらず病院を受診するべき理由はいくつかあります。
まず、犬に噛まれた場合はどんなに小さな傷でも感染症にかかってしまう可能性があるからです。潜伏期間がある感染症は発症前に治療することでその後の発症を防ぐことができる場合もあります。
次に、犬の牙は鋭く長いので傷口が小さく見えても実は深くまで傷が及んでおり、靭帯や骨を傷つけている可能性があります。
最後に、病院へ行かずに自宅で絆創膏を貼ったり包帯を巻いたりといった処置をすると細菌が傷口にとどまり、悪化することもあります。
ワクチン接種をしている飼い犬に噛まれたとしても、傷から細菌が侵入することを防ぐことはできません。そのため、すぐに病院を受診し適切な処置を行ってもらうことが大切です。
救急外来を受診する
犬に噛まれたら救急外来を受診するのが良いでしょう。受診する病院は、破傷風ワクチンが確保されているか、総合診療科・救急科や外科、皮膚科の診療経験があるかが目安になります。
もちろん外科や皮膚科、整形外科などでも治療してもらえますが、傷が骨まで達しているほど深い場合などは対処できないことが多いので、救急外来を受診することをおすすめします。
野良犬に噛まれたら必ず病院を受診する
野良犬はどのような環境でどのようなものを食べて生活しているのか分かりません。外で生活している野良犬の爪や牙は非常に不衛生で飼い犬よりも感染症にかかる可能性も高いです。
たとえ引っかき傷であろうと、野良犬に接触しケガを負った場合は必ず病院を受診しましょう。
飼い犬に噛まれた場合は病院に「行くべき」ですが、野良犬に噛まれた場合は病院に「行かなければならない」という認識でいたほうが良いでしょう。
まとめ
「犬に噛まれる」という事故はペットを飼っている人はもちろん、飼っていない人にも起こり得る事故です。そして、どんなにお利口な犬でも突然噛んでしまうことはあります。
犬に噛まれて一番注意すべきは感染症です。噛まれると痛みや驚きから焦ってしまうからこそ、対処法や感染症について知っていて損はありませんよね。
知識があることで自分だけではなく周りの人が噛まれてしまった際も冷静に対処することができるでしょう。