犬が尻尾を噛む原因
犬が尻尾を追いかけてくるくる回る行動は英語で「テイルチェイシング」とも呼ばれます。
行動そのものは特段珍しいものではなく、子犬や若犬がやっている場合には多くが年齢と共に落ち着きます。
ただ、原因によっては自分の尻尾を追いかけるだけではなく「噛む」という行動が加わったり、エスカレートして異常にこの行動を繰り返すようになる場合もあります。
そのような場合には原因を突き止めて、取り除き、必要があれば治療を行う必要があります。
ただ遊んでいるだけ
子犬や好奇心旺盛な活発な犬では、ただ遊んでいるだけの場合もあります。
遊びで尻尾を追いかけているだけの場合は、年齢と共に落ち着くことが殆どですが、退屈によるストレスをためないためにも、自分の尻尾以外で遊ぶことを教えるためにもおもちゃを使った遊びや散歩などの運動を十分にしてあげるよう心がけましょう。
飼い主さんに構ってほしい
飼い主さんや家族に構ってほしいがために、尻尾を噛んでいる場合もあります。
尻尾を噛んでいれば飼い主さんが止めに来てくれる、おもちゃで遊んでくれるなどと学習してしまった場合、「飼い主さんに構ってほしい」時や「おもちゃで遊んでほしい」時に尻尾を噛むようになります。
行動がエスカレートする前に「尻尾を噛む=構ってもらえる」という図式を、なるべく早く取り除く必要があります。
十分な運動と遊びを行ったり環境を整備して精神的なストレスがないようにし、尻尾を追いかけそうになったら、実際に追いかけたり噛んだりし始める前にやめさせ、実際にその行動を始めてしまったら無関心であることを示しましょう。
しかし尻尾が傷つくほど噛んでしまっている場合には無関心でいられないでしょうから、そのような場合には、後で説明します病気やストレスがないかを調べるためにもまずは動物病院を受診しましょう。
ノミ、ダニ
ノミ・ダニなどの寄生虫に感染して、痒みがある場合があります。痒みや痛みなどの不快感で、尻尾を噛むという行動に繋がっているケースです。
尻尾そのものが痒い、痛いのではなくても尻尾を追いかけまわしたり噛んだりするのにつながることがあります。
定期的なノミ・ダニ駆除薬の投与を行っていない場合は、なるべく早くかかりつけ医を受診し、検査と駆除薬の投与を行う必要があります。これは尻尾を噛んだりといった問題行動がない場合でも犬を飼う上で最低限必要なことの1つです。
怪我をしている
尻尾、または尻尾の付け根やお尻に傷や痛みがある場合、気になって噛んでしまうことがあります。
散歩中や遊んでいる時などに尻尾などに怪我を負ってしまうと、痛みや不快感などで傷口を執拗に噛んでしまうことがあります。
放置すると傷がひろがったり、二次感染を引き起こしたりする可能性があるため、怪我の状態を確認し、かかりつけ医を受診したり、エリザベスカラーなどを使用して傷口を保護するなどの対処を行ってください。
皮膚炎
アレルギーなどが原因で、尻尾や尻尾の付け根、お尻の皮膚に炎症が起こっている場合があります。
炎症があって痒みや痛み、不快感があると、前歯で擦るようにして皮膚を噛んだり、体の他の部位も足でかいたり床にこすりつけたりして、脱毛や皮膚の赤みなどが見られます。
このような状態は原因が何であれ治療が必要になりますので、絶対に放置せず、症状が悪化する前にかかりつけの動物病院を受診してください。
日頃のこまめなブラッシングやボディチェックで、皮膚トラブルの早期発見を心がけましょう。
てんかんなどの病気
「てんかん」が原因となっている場合があります。てんかんの分類には色々ありますが、原因で大きく分けると「症候性てんかん」と「特発性てんかん」に分けられます。
どちらも脳に異常が起こり発作を起こすのですが、その発作の起こり方として、激しく唸ったり吠えたりしながら尻尾を追い、噛み付くという行動が見られることがあります。
「症候性てんかん」とは何か別の原因によって脳に異常が起こり見られるてんかん、「特発性てんかん」とは脳そのもの以外には異常が見られないてんかんです。
てんかん発作といえば、痙攣や意識消失などをイメージされることが多く、「尻尾を追いかけて噛む=てんかん発作」とは思わずに、長期間悩み続ける飼い主さんも少なくありません。
この場合、発作中に飼い主が犬の顔の前に手を近づけると、噛まれて大怪我に繋がる可能性があるため発作が収まるまで待ちましょう。
もし「てんかん」かも、と思われる場合にはかかりつけの動物病院を受診してください。
ストレス
ストレスが原因で、尻尾を追いかけ回したり噛むことがあります。
一言にストレスといっても、生活環境や飼い主さんとの関係性、運動不足や過度のたいくつ、社会化不足による強い恐怖や不安などその要因は様々です。
人間にとっては些細な出来事でも、犬にとっては大きなストレスに繋がっているケースもあります。
そのため、まずは生活環境や習慣、犬種の特性などについて改めて見直してみることが大切です。
犬がストレスを感じたときにする行動については、下記の記事も合わせてご参考ください。
一時的なストレスによって起こり、尻尾を追いかけ回したり噛んだりする行動も軽度で一時的であれば、そのストレスを取り除くことによって尻尾を噛んだりするのもなくなります。
しかし、ストレスが強く長く続くと、尻尾を追いかけ回したり噛んだりという行動が異常に多く見られる、尻尾にひどい傷を負ってもやめない、いつまでもやめないという状態になります。
そのような状態は強迫性障害にあたり、ストレスの原因を取り除くと共に精神面に対する薬物療法が必要となることがあります。
強迫性障害として尻尾を追いかけ回したり噛んだりする行動の原因は様々ですので、いつ、どんな時にその行動が見られるのかを飼い主さんがよく観察することが原因を突き止めるために非常に重要になります。
留守番の時間が多過ぎる、精神的にたいくつ過ぎることがストレスになっているようであれば、まずはよく遊びよく運動させてあげれば良いのでしょうが、葛藤(犬はやりたいのにできない)や環境の変化がストレスの原因である場合には、飼い主さんがその原因に気づき辛いこともあります。
昼間飼い主さんがいない時間に行われている工事がないか、去勢していない雄犬の場合近くに雌犬の存在ないかなど、あらゆる可能性を考える必要があります。
強迫性障害として尻尾を追いかけ回したり噛んだりする行動が見られやすい犬種として、柴犬やブルテリア、ダックスフンド、ジャーマンシェパード、などがあげられています。
それぞれの犬種としての特性の他に犬ごとの性格と要求を飼い主さんが見極め、テイルチェイシングを含めた強迫性障害が起こらないよう、犬にストレスがたまらない飼い方をしましょう。
ストレスと似ていますが、転位行動としてテイルチェイシングが見られる場合があります。
転位行動とは、何か犬が葛藤することや困ったこと、不安を感じることがあった時にとるその出来事とは関係のない行動のことです。
カーミングシグナルと呼ばれるものも多くはこの転位行動であり、舌をペロペロしたり、体をかいたり、などがあります。
犬が尻尾を追いかけ回し始める時、直前に何か犬が葛藤したり不安を感じるような出来事がないか考えてみてください。
転位行動の原因となる出来事がその時限りなら良いのですが、その原因が頻繁に起こるまたは長期間持続すると、犬のストレスが重度となり強迫性障害としてのテイルチェイシングに発展してしまう可能性もあります。
脳の前庭という部分に異常が起きて一方向にぐるぐると回ってしまうことがあり、尻尾を追いかけているように見えることがあるかもしれません。
前庭障害の場合には、顔や体が回る方向と同じ向きに傾いていたり、回っている時もしっぽが下がっていたり、歩き方がとぼとぼ、よろよろしています。
犬が自分の尻尾を噛む場合の対策
エリザベスカラーを使う
原因を除去することも大事ですが、どうしても自分のしっぽを噛んで傷つけてしまう場合は、エリザベスカラーをして噛めないようにしましょう。
従来型のエリザベスカラーもありますが、今はクッション型などもありますので、愛犬に合うサイズや素材、形のエリザベスカラーを是非選んであげて下さい。
ノミ・ダニ対策をする
愛犬が過ごす環境が清潔である、寄生虫に感染させないという事も大事です。
毎年忘れずにノミ、ダニのお薬で予防してあげましょう。環境によっては通年の予防が望ましいこともあります。
包帯で患部をガードする
2,3日に1回のペースで、上記に写っている処置道具などで患部をガードする方法もあります。
- 包帯
- 包帯止めテープ
- 脱脂綿
- 油紙
- 軟膏
- 消毒液
このような処置が必要になるほどの傷がある場合、まずは動物病院を受診して適切な軟膏や消毒液を処方してもらうと共にやり方も教えてもらいましょう。
ベビーパウダーを使う
もし愛犬にオムツをする場合、人間の赤ちゃんのようにオムツかぶれや、蒸れたりする事が、時期によってあるかもしれません。そんなときは、「ベビーパウダー」を使ってみましょう。
使用する際は、愛犬の体質をよく把握した上で使ってください。傷の状態によっては、まず動物病院を受診して治療を受け、ベビーパウダーを使っても良いかを聞いた方が良いでしょう。
(我が家では、愛犬に使ってみたところ、驚くほどかぶれや蒸れがなくなりました)
日頃から体のチェックをする
大切なのは、どんなに忙しくても愛犬とのコミュニケーションや運動時間を毎日十分にとってあげる事です。スキンシップをしながら、身体のチェックをしてみましょう。
そして、愛犬が精神的なストレスを抱えないように、生活環境を定期的に見直して不安や恐怖となる原因がないようにしてあげましょう。
尻尾を噛むのをやめさせる処置や治療法
強迫性障害(常同障害)を発症している場合では、尻尾を噛みちぎってしまうほど傷が重症になるケースもあるため、原因の究明と早期治療がとても重要となります。
ストレスを緩和する
まず第一に、先に説明した通り愛犬にとってのストレスの原因を突き止め、環境の改善に努めてください。
退屈な時間が長いことや、運動不足が原因となっているケースが非常に多いそうです。
十分な運動時間の確保はもちろん、知育トイを活用したノーズワークなどの知育遊びを取り入れたりフードをボールに入れて食べさせるのではなく知育トイなどを使って時間をかけて食べさせることで、日常生活の中でも程よい暇つぶしと刺激を与えることを意識しましょう。
頭を使うと精神的な疲労をもたらし犬の満足感にもつながります。
簡単なことでも構わないので、普段の生活の中で「役割」を与えてあげるなど、楽しくトレーニングを行ったり、新しいことに挑戦することもとても良い刺激になります。
専門家に相談して強迫性障害(常同障害)を治療する
強迫性障害(常同障害)が強度である場合は、専門家の協力を得て治療を行いましょう。
状態によって、問題行動治療法のひとつである行動修正法や、抗うつ薬を用いた薬物療法などが行われます。
かかりつけの獣医師はもちろん、問題行動を専門としているドッグトレーナー、ドッグビヘイビアリスト(犬の行動学専門家)に相談することで原因の解明、飼い主さんとの関係の再構築などができる可能性もあります。
相談する際は、愛犬が尻尾を噛む行動を「いつ」「何分間くらい」「どんな風に尻尾を噛んでいるのか」を伝えられるように、メモや動画で記録しておくと良いでしょう。
異常行動の原因となっている病気を治療する
犬が尻尾を噛む原因がてんかん発作である場合は、抗てんかん薬を使用した治療などが主な治療になります。
てんかんは、生涯に渡って付き合っていかなければならない可能性の高い病気です。
そのため、信頼できる獣医師としっかり相談をして、飼い主さんが納得できる治療方針を定めていくことが大切です。
症候性てんかんが原因の場合には、原因となっている病気の治療が必要となります。
皮膚炎が原因で尻尾を噛んでしまう場合は、抗ヒスタミン剤や免疫抑制剤、駆除薬の投与、薬用シャンプーによるスキンケアなど、皮膚炎を起こしている病気に対する治療を行います。
とくにアトピー性皮膚炎やノミアレルギーによる皮膚炎などでは、腰や尻尾、肛門周辺にも症状がみられることが多いため、尻尾を噛む行動に繋がりやすいそうです。
我が家の愛犬が尻尾を噛むようになった事例
筆者の愛犬は、ミニチュアダックスフンドの女の子です。ある行動が原因で、結果的に愛犬の尻尾は半分になってしまいました。
愛犬が自分の尻尾を噛むようになったきっかけ
ある日、愛犬がちょっと気になる行動をし始めました。それは「私の目を盗んでカーテンの中に隠れる」という行動でした。
最初は、たいした行動だとは思わず気にもとめなかったのですが、あまりにもカーテンの中に隠れる事が多かったため流石に「おかしい」と思いはじめました。
そして数日後、意を決した私は恐る恐るカーテンの中を覗いてみました。すると愛犬は、カーテンの中で自分のしっぽを噛んでいたのです。
その時はその場で叱り、愛犬もしっぽを噛むのを諦めてくれたように見えました。
しかし実際はそう簡単に止めてくれたわけではなく、「カーテンの中で隠れて自分の尻尾を噛む」という異常行動はしばらく続きました。
悪化する尻尾の症状
そんな日が何日か続いたある日、しっぽを噛んだ勢いが強かったのか、傷口から血が出てしまいました。私は慌てて、かかりつけの動物病院に愛犬を連れて行きました。
その頃はまだ重症ではなく、獣医師さんに診察してもらった結果も「それほど酷い傷ではない」とのことで、消毒液と軟膏を処方してもらいました。
大体1ヶ月ぐらい、そのまま様子を見ていたのですが、やはり愛犬はまだしっぽを噛んでいました。
今度は噛んだ傷口が炎症を起こしてしまったのか、赤く腫れてしまい、動物病院で診てもらいました。
その頃から消毒液と軟膏の他に、痒み止めの飲み薬(抗生物質配合)やステロイド注射を、打ってもらうようになりました。
獣医師さんに熱心に診察してもらっていたにも関わらず、愛犬のしっぽは徐々に症状を悪化していきました。
傷口部分にバイ菌が入らないように、尻尾に包帯が巻かれる処置が追加されました。
愛犬の尻尾がちぎれた日
ある日、愛犬を連れて出かける用事があり、用事を終えて帰宅しました。
出先では何ともなかったのですが、帰宅後、愛犬が突然『キャン!』と鳴き声をあげました。その直後、巻いていたはずの包帯がポロッと床に落ちました。
おもわず床に落ちた包帯を視線で追うと、そこには目を疑うモノが転がっていました。
なんと床に転がっていた包帯は、先端部分から半分が折れた「愛犬のしっぽ」でした。
あまりにも予想外の展開で、パニックになりながら、かかりつけの動物病院へ向かったのを覚えています。
獣医師さんに診察してもらったところ、愛犬のしっぽは壊死していました。
愛犬は嬉しくなると必要以上にしっぽを振る癖がありました。その際に、壊死していた部分に力が加わりポキッ!と折れてしまったようです。
それからは1週間に1度の通院がしばらく続き、診察ではしっぽの状態がどうなっているのか時々レントゲンを撮ったりもしました。
尻尾がちぎれた後の治療
しっぽは半分になったものの、しっぽの先の部分は少し骨が見えていたので、肉を盛り上がらせようと、また別の軟膏を処方されるようになりました。
1週間に1度だった診察も、症状が落ち着いてくるようになると2週間に1度、3週間に1度、4週間に1度と徐々に診察の間隔があくようにはなりました。ステロイド注射は、診察する度に打ってもらっていました。
これまでに処方されたものは、飲み薬・消毒液・軟膏・処置用ガーゼ・食塩水、などがありました。
(飲み薬を飲んでいる期間中は、生理が止まってしまいました。飲み薬を中断したらまた生理は再開しました)
軟膏の効果があってか、無事に肉が盛り上がり毛が生えてきたものの、やはり衛生面の事もあり、伸びてきた毛は獣医師さんにバリカンで刈ってもらいました。
しっぽの症状は良くなったり、悪くなったり(赤く腫れたり、化膿したところがグジュグジュしたりする症状)が続いていたので、しっぽの診察で通院する期間は5年ほどかかりました。
原因は生理用オムツによる「ストレス」
今思い返せば、愛犬が自分のしっぽを噛むようになった時期に、ちょうど生理中でオムツをしていました。
愛犬にとっては、生理の出血で陰部が気になり、舐めたくてしょうがないのに、オムツをしていたので陰部が舐められず、その葛藤が「ストレス」となって自分のしっぽを噛んでしまったようです。
この事例に関して、原因が生理用オムツであることがはっきりしたのならば、「ストレスの原因」を取り除く方法としてまず行うべきことは、オムツをしなくて済むように避妊手術を受けさせることになります。
また、将来老犬となった時にオムツをする必要が出てくるかもしれませんが、このわんちゃんにとってはオムツが強いストレスになることが分かっているので、トイレの場所や形状を工夫したり、椎間板ヘルニアになりにくい生活をさせること、筋力を維持できる生活をさせることなどで、出来るだけオムツが必要とならないようにしてあげるのが良いでしょう。
まとめ
おかげさまで今はもうしっぽの怪我は完治したものの、しっぽを噛んでしまった結果、日々エリザベスカラーをつけながらの生活が続いている状況です。
皆さんの愛犬がもし、自分でしっぽを噛んでしまった場合、傷の程度によっては我が家の愛犬のように尻尾の一部が壊死してしまったり手術が必要になるという事も考えられます。
また、治療が必要な病気のせいで尻尾を追いかけ回したり噛んだりすることもありますので、ちょっとした事でも愛犬の様子がいつもと違うようであれば、どんな時にどの様に違っているのかを注意して見て下さい。
そしてテイルチェイシングや傷ができていても尻尾を噛むというようなおかしな行動をしていたら、それは何かのサインと考え、動物病院を受診してください。
症候性てんかんの原因として、脳腫瘍や事故などによる脳へのダメージなどがあります。てんかん以外には、肝臓や腎臓の病気、何かの中毒、末しょう神経障害などが考えられます。