3歳未満の犬の死亡原因と望ましくない行動
以前、3歳未満で亡くなった犬のうち約3分の1に「望ましくない行動」があったという研究結果がイギリスの研究者によって発表されています。
https://wanchan.jp/column/detail/11790
この度、オーストラリアのシドニー大学獣医科学の研究者が3歳以下で亡くなった犬の診療記録から死亡原因を調査したところ、先のイギリスの研究結果と良く似た問題が浮き上がったことを発表しました。
3歳以下で亡くなった犬4341匹の死因のうち、29.7%が望ましくない行動に関連するものだったというものです。
調査に使用されたのは2013年から2018年の動物病院での診療記録。オーストラリアでは一般の動物病院での診療記録は電子カルテで保存され、匿名化されたデータベースとして各種研究などに利用されているそうです。
なぜ望ましくない行動が死亡原因となるのか
望ましくない行動とされるもののうち、最も多く報告されたのは「攻撃性」でした。飼い主や他の犬への攻撃が度重なったり怪我をさせたりという事例などが含まれます。攻撃性は飼い主が健康な犬の安楽死処分を決断する理由の主なものだといいます。
望ましくない行動に関連する死因の中で安楽死処分は最も多いものでした。安楽死処分に次いで多かったのは交通事故死で、これは脱走や呼び戻しができないことに関連します。
この調査では3歳以下の犬を対象としましたが、1〜2歳の年齢が望ましくない行動に関連する原因で死亡する確率が最も高いことが分かり、避妊去勢済みの犬は未処置の犬に比べて行動に関連する死亡率が高くなっていました。
犬種別で最もリスクが高かったのは、オーストラリアンキャトルドッグ とアメリカンスタッフォードシャーテリアだったといいます。また雑種犬は純血種の犬と比較するとリスクがやや高くなっていたそうです。
研究結果はどんなことに役立つのか
犬の行動に悩む飼い主のうち、かかりつけの獣医師に相談した場合にはそれも診療記録に残されています。行動に関する症例のうち11%で担当の獣医師が行動療法の専門家やトレーナーを紹介し、5.9%の症例で薬理学的な治療を試みていました。
死亡原因が行動に関連していた犬のほとんどの臨床記録に獣医師の介入は示されていませんでした。このことから行動療法や薬での治療を行った場合には犬の死亡という最悪の事態は避けられる可能性が推測されます。
また、犬の望ましくない行動について最初に医療記録で言及された年齢の中央値と、行動に関連しての安楽死の年齢の間には、わずか6ヶ月の違いしかありませんでした。これは行動療法や薬理学治療にじっくり取り組んだ飼い主の少なさを示しています。
研究者は、飼い主から行動上の相談を受けた獣医師がその内容を医療記録に残していない割合の高さも指摘しており、飼い主と獣医師の両方が犬の問題行動に対応する治療について知識がなかったことも伺えます。
この研究結果は、犬が示す望ましくない行動が犬と人間の両方の福祉に悪影響を及ぼすこと、行動上の問題が大きくなる前に予防する方法などの教育啓蒙において重要なデータになります。また臨床獣医師から行動治療の専門家へのアクセスがうまく機能していないことも示しているため、システムを整備する助けになるとも考えられています。
まとめ
オーストラリアの獣医療記録から3歳以下の犬の死亡原因では「攻撃性など問題行動に関連する安楽死」「脱走などの行動に関連する交通事故死」が大きな割合を占めているという研究結果をご紹介しました。
2018年にイギリスで発表された研究とよく似た結果が出ているのですが、地理や文化の違う場所でも同じような結果が出ている点が重要であると考えられます。
日本では犬の行動上の問題が起きたとき、自ら安楽死処分を選ぶよりも保健所に引き渡す例が多いと思われますが、それも最終的に犬の死亡原因となります。イギリスやオーストラリアの研究結果を他所のこととせずに自国の例に引き寄せて考えることも大切です。
犬の望ましくない行動は、身体的な疾患に飼い主が気づいていない(痛みや痒み、内臓疾患など)、体罰やネグレクトなど不適切な対応など、飼い主によって作り出されていることもあります。早い段階での信頼できる専門家への相談が、犬にとっても人にとっても不幸を回避することにつながります。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/11/2/493/htm