シーザーミラン著「あなたの犬は幸せですか」を紐解く

シーザーミラン著「あなたの犬は幸せですか」を紐解く

シーザーミランの「あなたの犬は幸せですか」に関して、著者はドッグビヘイビアリストとして名を馳せた、シーザーミラン氏。彼は他方からの批判を受ける事もしばしばありますが、優秀な専門家であることは周知の事実でしょう。シーザーミランのこの本をどう読むべきなのか検討します。

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シーザーミランの「あなたの犬は幸せですか」という本を知っていますか?


あなたの犬は幸せですか

この本では、シーザーミランが自身の経験を元に、愛犬とどのように向き合っていくべきか、という事を語っています。
彼の独自の分析や経験の元で、犬がどのような動物なのか、犬にとって自然とはどんなものなのか、犬がどのように物事を感じ取るのか、そして、私たち人はどのように犬と向き合うべきなのかという点が、この本では紹介されています。

この記事では、本書に対して中立的な立場でご紹介します。

一般的なしつけ本と違うのは、”スワレやマテ”などの教え方や、トイレトレーニングの教え方などを紹介するものではなく、ヒトと犬が、どのように暮らしていくのが、共に幸せになるために必要なのか、という点で書かれているところでしょう。

シーザーミランは、犬を問題犬にするのは、他でもなくヒトであると進言しています。
とくに犬を人間化(一般的には擬人化)することによる問題点を突いています。

本書の中に、”犬を人間化することにより、わたしたちは彼らを精神的におかしくしてしまうのです。(第5章:誰が犬をおかしくしているのか p123)”とあります。
シーザーミランが今までに相談を受けた様々な問題犬がどのようにして作られたのか、その要因は殆どの場合でヒトにあるという事が、実例に基いて語られています。
これらの実例から、ヒトの接し方のミスによって、犬は簡単に問題犬となってしまうのが解るでしょう。

愛犬を幸せにするために、また、愛犬と暮らすヒトが幸せになるために、どんな事に気をつけるべきなのかが本書のテーマになっています。
その主眼の元、散歩をどのように行なうのが良いか、リーダーシップとは何か、正しい愛情の与え方、というハウツーにも触れています。

その他にも具体的なハウツーとして最後の章では、犬の選び方、家への導き方、来客へのマナー、人の出産に備える、動物病院への連れて行き方、共に旅行に行く、ドッグランの使い方、引っ越しの方法、新しい犬を迎える方法、老いと死、などの犬を飼う上で、我々が直面する様々なケースについても触れられています。
こうした点からも、一般的なしつけ本とは、少し違った角度で書かれているのが解ります。

もし、あなたが、犬に物を教える方法が知りたいと考えているのなら、本書は適さないでしょう。そうではなく、愛犬ともっと絆を強めたいや、犬の事を知りたいと思っているのなら、役に立つかもしれません。

シーザーミランの「あなたの犬は幸せですか」総評

シーザーミランは言わずもがな、世界一成功したドッグビヘイビアリストです。
彼については後述しますが、その影響力はとてつもないほどです。

その一方で、彼のやり方や考え方を批判する人も多くいます。
本書のタイトルの印象とは反対に、彼のやり方を虐待だとしている人もいるほどです。
犬について、あまり知識のない方が読めば、「なるほど!」と感じる事もあるかと思います。
しかし、実際には彼の本やTV番組を参考にして実践したところ、かえって問題行動が悪化したというケースもあることも知っておきたい所です。
これは彼の主張を誤解することによる影響だと考えられます。

この本の意を盲信するのではなく、多くの書籍を読み、その中の一冊として捉える必要があると思います。

その点でみれば、この本は飼主に役立つ情報が多く書かれていると言えるでしょう。

カリスマドッグトレーナー「シーザーミラン」

シーザーミランはメキシコの片田舎で、農場を営む家族の元、様々な動物と暮らしていました。
その中でもっとも彼の気を引いたのは、農場で働く犬達です。

シーザーミランは幼い頃から、自身で犬の群れの観察を行い、犬が個体間でどのように序列を保っているのか、どうやってコミュニケーションをとっているのかが興味の対象だったようです。
そうして育った彼は、自身の観察や経験の元、犬とのコミュニケーション方法を身に付けていきます。
そして、青年になった彼は、世界一のドッグトレーナーになるという夢を抱き、アメリカへと旅立ちました。

その後、世界放映されているナショナル・ジオグラフィックチャンネルでDog Whisperer(邦題:さすらいのドッグトレーナー~あなたのダメ犬しつけます / カリスマドッグトレーナーの犬の気持ち解ります)という番組を持ち、世界中に彼の存在が知れ渡りました。
現在ではTV番組の新シリーズと共に、世界中に出向いてホールクラスのライブを通じ、犬への接し方を教える活動もしています。

シーザーミランの実績で特筆すべきは、他のドッグトレーナーに「この犬はもうダメだ」や「手遅れだから殺処分するしかない」と言われた犬を、数多く救ったことにあります。

特にシーザーミランが得意とする、攻撃的な犬へのアプローチは高い評価ができると思います。
彼はレッドゾーンと言われる、超攻撃的な犬もたちまちに矯正することができ、その能力は否定できないものです。

シーザーミランの主張でもっとも目立つのは、犬は群れで生きる動物だとしている事でしょう。

犬の群れ

シーザーミラン批判について

シーザーミランが批判を受ける理由の一つに、彼がよく言う「リーダーシップ」や「支配する」や「犬をコントロールする」という彼の主張がやり玉に挙げられることがあります。

これは、1970年代にアメリカを始めとして流行り、現在は否定されている「支配性理論」に似通った思想が感じ取れるからだと考えます。
しかし、彼のやり方は支配性理論とは少し違ったものであるのが、彼の言動や方法論を研究すると見えてきます。
というのも、彼は生物学的な理論をベースにしているのではなく、あくまで自身での行動観察を元に実践してきた経験から理論を確率しています。
なので、一般的に言われる様々な理論と相容れないことが多々あります。

普通のドッグトレーナーは勉強をしてから実践へと移りますが、彼は、犬の群れの中から感じ取った経験があり、その後にドッグトレーニングや、心理学、脳機能について勉強してきたようです。この点も一般のドッグトレーナーとは違っている点です。

また、先述のTV番組の中で、飼主にアドバイスをしている時の言動を取り上げて批判をする声もあります。
シーザーミランが飼主にアドバイスしている時の言動を、全シリーズで比較してみると、様々な矛盾があったりするのです。

ある飼主には「黒だ」と言って、一方では「白だ」と堂々と言っていることがあります。

実はこれにはトリックがあります。
シーザーミランは、ドッグトレーナーとして、人の性格分析がとても上手です。
なので、ここで彼が発している言動は一般論ではなく、その飼主が理解しやすいベストな方法で語っているためです。
主眼は変わらないものの、言動が違ってくるのはこのためです。
彼の番組や本を参考にする場合は、彼から直接に指導を受けないのなら、相当な研究が必要だと言えるでしょう。

なにより彼自信、自分への批判も知った上で、反対意見を持つ專門家と対談もしています。
そして彼は自分を批判する專門家の意見を否定していません。
もちろん彼らへの批判も行っていません。ここも注意したい点であります。

犬の群れ2

シーザーミラン「あなたの犬は幸せですか」まとめ

「あなたの犬は幸せですか」では、犬を迎えてから、犬の一生の最後までの間、我々飼主が気をつけなければならない点を明示してくれています。
その意味では飼主に多くの知識を与えてくれるでしょう。
特に、本書で指摘されている犬への人間化は、多くの飼主が起こしやすいミスです。

これは動物行動学でいう擬人化に当たります。
犬を擬人化することにより、我々はつい犬を人として見てしまう事がしばしばあります。

犬を擬人化することは、犬を犬として尊重しないことになり、愛犬とのコミュニケーションに大きな悪影響を及ぼすことは、シーザーミランや多くの動物学者が指摘する通りです。

そうした観点を知るうえでは、本書は大いに役立つでしょう。
また、その他に沢山の本を読んでみて、その上で本書を読むと見え方も違ってくるのではないでしょうか。

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ユーザーのコメント

  • 投稿者

    20代 男性 go

    テレビシリーズでシーザーミランの大ファンになりました。犬を犬だと理解することは、じつはとても難しいことなのかもしれません。うちに犬が来たばかりで、なかなかしつけが上手くいかない時に、彼のテレビシリーズを見ては驚嘆していました。彼が、飼い主が手が付けられないような凶暴な犬を、彼のドッグファーム(?)の先輩犬たちに教育させた回を観たときに痛感しました。犬たちには、人間社会のルールではなく、犬たち自身の言語や決まりがあるんだなと強く思いました。なので、根気強く、犬の習性を知ったうえで躾をしないといけないんだと。また、彼が常に口にする「リーダーシップ」という言葉には、愛犬に対する大きな責任や愛情、覚悟のことなのだと思います。
  • 投稿者

    女性 Kai

    この本のタイトルは聞いたことがあったのですが、詳しくは知りませんでした。人と犬がどうやったらお互いに幸せに生きていけるのかというヒントがたくさん書いてあるのだと思います。「犬を人間化することにより、わたしたちは彼らを精神的におかしくしてしまうのです」というのは、現代社会では結構重要な問題になっていることではないでしょうか。賛否両論あると思いますが、犬を同等と考え、甘えるだけ甘えさせてしまう人たちも世の中にはいると思います。確かに、犬にとっては生まれてからリーダーがいることは当たり前のことだと思うので、それが無くなった時にバランスが崩れるのかもしれません。この本は犬好きとしては、ぜひ読んでみたいです!
  • 投稿者

    30代 女性 のんのん

    シーザーミランさん、私はテレビシリーズで初めて知りとても素敵な方だなぁと感じています。犬種やその子の性格、また飼い主さんとの関係性を見極める能力はすばらしいと思います。そして、本当にわんちゃんの不安を取り除いたり問題が解決していくので不思議ですよね。
    わんちゃんの育て方やしつけの方法はトレーナーの方により異なり、いろいろな本を読んでも情報を集めてもおおまかな枠組みはできますがこれが正解!という答えはない気がします。ですが、わんこの性格等を考慮するとそれも納得します。私はシーザーミランさんの方法で成功したものとうまくいかなかったものと両方あります。ですが、それは私とシーザーミランさんの違いでもあると自分で感じています。機会があればぜひうちのわんこにもシーザーミランさんに会わせてあげたいと願っていますが、それまでは私が愛犬の最良の飼い主でありリーダーになれるようしっかりと観察をして日々を過ごしていきたいと思います。
  • 投稿者

    50代以上 女性 ベータママ

    私はこれまで何匹も犬を飼い、しつけ教室にもパーソナルトレーナーにも通いましたが、シーザーミラン流のドッグトレーニングがベストだと思っています。
    一般的なしつけ教室やパーソナルトレーナー、そしてこの記事を書いているライターのトレーナーもそうですが、しつけの方法がシーザーミランのように普遍的で、整合性のあるものではなく、全て各論になっているのが非常に理解に苦しみます。このサイトでももはや迷信に近い「天罰」や「無視」などほとんど意味のないしつけ方法をのうのうと記事にするライターが多くビックリです。
    シーザーの教えは群れの原理から体系的に解きほぐされており、全てに整合性が取れていると思いますよ。

    「吠え」にはこう、「食糞」にはこう、「分離不安症」にはこうなどという各個別の方法ではなく、なぜそのような事態が起きるかを犬の心理・群れの心理から説き解決していくのが素晴らしいのです。

    端的に言ってしまえば飼い主にしっかりしたリーダーシップがあり、犬と信頼関係が築ければ問題行動など「絶対に起きない」のです。

    このライターのトレーナーさんはシーザーミランを知っているのに、なぜ取り入れないのでしょう?
    記事をみる限りではシーザーミランの教えを知ってるとは思い難いです。
  • 投稿者

    40代 女性 SUSU

    カリスマドッグトレーナーとしてとても有名な方ですね。この本は読んだことはありませんが、NHKやケーブルテレビの特集番組を何度か見たことがあります。
    狂暴だとされているワンコや怖がりなワンコなど、問題行動のあるワンコを短時間で矯正していく様は見事だと思います。
    考え方によってしつけの方法は様々あり、シーザーミランさんのやり方は賛否両論あるようですね。実際、我が家では彼のやり方は採用していません。
    反対だというわけではなく、彼のやり方は素人が真似をするにはとてもリスクが高いと感じたからです。
    「犬を人間化することで彼らを精神的におかしくしてしまう。」という本来は意味はどういうことなのか?この意味を理解するのはとても難しいことだと思うのです。人間化する=私達と対等だと思い接することが、何でも言うことを聞いて甘やかすことだと捉えるのか、人間化する=本来の犬の本質を無視する、彼らが使う言葉を理解しようとしない、ということなのか、捉え方によってずいぶんと変わってきてしまうのではないかと思います。

    シーザーミランさんのトレーニングの方法を見ていると、犬同士のコミュニケーションの取り方を研究し、彼自身が行動して見せているように思います。ここが一般的なドッグトレーナーさんとは違い、人間が犬に対して行う上下関係の教え、服従訓練とは違うと感じるところなのだと思います。その意味で、犬にとっては伝わりやすい対応であり、問題行動の矯正も早いのだと思います。
    ただ、私が何度か見た限りですが、相手のワンコが出すシグナルにはあまり説明がないことも多いように感じました。止めてほしい、少し落ち着いて、紳士的なシグナルを出しているワンコに対しても真っ正面から見据えたまま解説をしているため、そのワンコはとても窮屈そうな表情をしていました。ワンコ同士であればそこですっと立ち去る場面だと思われるところでも、番組の進行上、そのまま進めてしまったのかもしれません。この行動に対し唸ってきたり、攻撃してきたりする犬をまた抑えようとすることから、虐待や威圧的といった意見が出てくるのかもしれません。
    このまま素人が真似をしてしまうと、ワンコからのシグナルをうまく拾えずに失敗してしまうのではないだろうかと思ってしまいました。物事の一部分だけを見て真似することはとても危険な行為です。

    人間化することは犬本来の性質を無視し、人間に合わせさせてしまうことであり、とても危険なことです。犬の尊厳、存在を軽視することは問題行動を起こす原因にもなります。ただ、犬は群れで生活するからといってもそれは本来、犬同士の話であり、そもそもそこに人間が入れるのだろうかという素朴な疑問も生じてしまうのも正直なところです。
    家庭犬として迎えたワンコに対して、人間の下だというワンコにとっては誰が決めたかは分からない理論を振りかざすこともまた、時として犬の意思を無視することもあり、問題行動を起こすきっかけにもなります。

    シーザーミランさんのようなカリスマトレーナーになれば、熱狂的に支持する人がいる一方で、躍起になって批判する人も多いと思います。どちらがどうということはそれぞれの考え方であり、執拗に攻撃する必要もないのではと思います。ただ、そのやり方を取り入れるのであれば、自分で決めた方法に責任を持ち、彼のすべてを勉強をしてから実践することが必要なのではないかなと思うのです。
  • 投稿者

    40代 女性 大型犬

    筆者であるドッグビヘイビアリストの田中先生と、シーザー・ミラン氏の共通するところが多くあるように思います。変わるべきはヒトだ。や、穏やかに堂々とした姿勢で。などなど…どちらも、出会えた犬やヒトは幸せですよ~
  • 投稿者

    40代 男性 匿名

    シーザーミラン氏のコンセプトは私の経験・研究と合致する点が多く、とても役に立っています。

    日本人の飼い主って、本当に犬の飼い方を勉強しないんですよね。犬を溺愛する余り、過干渉、甘やかしの度が過ぎて、他人のアドバイスには耳を傾けてません。自己反省がないから、トラブルが起こっても解決できないんです。
    特に女性の飼い主・ドッグトレーナーが犬を擬人化してしまい、しつけを断念する傾向がありますね。節度ある犬と人間の関係って、大切だとつくづく思います。
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