動物介在教育とは
動物介在教育の定義
活動を積極的に行っている主な団体をピックアップして、ご紹介します。
動物介在教育とはAnimal Assisted Education=AAEと省略されて呼ばれます。
「小学校等に動物と共に訪問し、正しい動物とのふれあい方や命の大切さを子供たちに学んでもらうための活動。生活科や総合学習などのプログラムとして取り入れる学校も徐々に増えています」
動物病院福祉協会(略称JAHA )HPより
「動物を教育のツールとして活用し、教育の普及および学習意欲を高めることを目的として行われる教育」
特定非営利活動法人 動物介在教育・療法学会(略称ASAET)HPより
団体により表現に違いはありますが、要するに犬を中心とするコンパニオンアニマルを、教育、学習の場面で介在させ、子どもたちの精神面、学習環境などに好影響を与えることにより、様々な成果を上げるということです。
ちなみにコンパニオンアニマルとは「伴侶動物」の意味で、単なる愛玩ペットではなく「人間にとって人生の伴侶」として、共に社会の中で暮らす、犬や猫、ウサギなどのことをいいます。
誰に対してどのように?
対象となるのは、主に下記のように個人、集団に分かれます。
上記のような団体の他、動物の専門学校などでも幼稚園や小学校への定期的訪問を行っています。
特定の個人
不登校、引きこもり、または発達障がいなど、同年代の複数の子ども達の中で、同じ進度で学ぶことが難しい状態の生徒の学習に寄り添う。
難読症や吃音のある子どもが犬に読み聞かせをする「読書犬」などの活動も含まれる。
教師と専門家、犬の飼い主が協力し合い、学習の目的・目標を定め、計画に沿って行う。
グループやクラス
複数の子ども・生徒などへの、「命の教育」や「ふれあい方」の啓蒙など。子ども達に向けた「将来の職業」選択の授業として、訓練士などが犬と共に学校を訪問することもあり、これも広義の意味で動物介在教育といえる。
どのような意義があるの?
直接的な「治療として効果を上げる」「成績、能力を上げる」などの目的というより、言葉を介さない動物と関わることによって、結果的に他者への思いやりや優しさ、友達との気持ちの共有、個性や生きる力が引き出されることに期待がかけられます。
- 命に対する思いやりと責任感の内的成長を促す
- 道徳観を養う
- 個々の感受性を豊かに育み、表現力を養う
- コミュニケーション能力を養う
- 動物が寄り添うことで、子ども達の精神的な拠り所となり、結果的に学習意欲の向上を促す
- 犬(およびその他のコンパニオンアニマル)との触れ合い方を学ぶ
どのような人が関わるの?
団体によって異なりますが、主にボランティアによってなされます。
例えば、JAHAでは、動物の適正確認、獣医による健康診断を受けて認められた動物と飼い主が共に活動に参加します。
その後、レベルアップを目指して、他のボランティアの模範となるためのCAPP認定パートナーズという資格を設けています。
※CAPP=JAHAが行っている動物介在教育含め、病院や施設を訪問する動物介在活動(AAA)、医療現場における専門的治療行為として行われる動物介在療法(AAT)の総称。
ASAETでは、初・中・上級と段階を設け、動物介在教育インストラクターを育成しています。
動物介在教育の実例「吉田さんとバディの場合」
学校に犬がいたら楽しいだろうな」
東京・杉並区の立教女学院小学校の吉田太郎先生は、ある不登校だった生徒のひとことで、学校に犬を招き入れる決断をしました。
でも、まだどこも動物介在教育を導入していない頃のこと。何事も先駆者たるのは大変なことです。
まず、犬という同部を学校内に入れる様々な問題をクリアせねばなりません。
- ずっと学校に置いておいたら犬はストレスで人を咬むんじゃないか
- そうすると、誰かが家に連れ帰り、世話をしないければならない
- その犬が学校犬として適さなくなったら、どうすればいいのか
吉田さんが奥さんを説得して出した答えが、
「そうなったら飼えばいいかな」
バディ登場!
他の教職員や保護者への説明という段階を経て迎え入れたのが、エアデール・テリアの「バディ」。バディとは英語で「相棒」の意味です。
エアデール・テリアはイギリスなどヨーロッパでは警察犬としての歴史があり、日本でもかつて軍用犬として用いられたこともある優秀な犬種。丈夫、勇敢、忠実な気質はまさに「相棒」と呼ぶにふさわしい!
犬が一頭いるだけで・・・
毎朝、吉田先生とともに登校して一日を学校で過ごし、再び一緒に帰宅する毎日。学校にはバディの世話をする「バディ・ウォーカー」という生徒がいて、バディの待機部屋「バディ・ルーム」も用意され、子ども達の仲間として共に活動。
実は、当時の杉岡校長先生、大の犬嫌いだったそうですが、大人しくしているのを毎日見ていて気持ちに変化が生まれ、バディを迎えて1年後には触れるようになったそう。
校長先生ご自身も、知らぬ間に動物介在教育の恩恵にあずかったようです。
バディは2015年1月に亡くなり、そのバディが生んだリンクも学校犬を務めた後、やはり同年の3月に亡くなり、現在は東日本大震災で被災した福島より迎えたウィルとブレス、そしてエアデールテリア三代目となるペローナがバディの後を継いでいるそうです。
現在、1才を迎えたベローナの活躍の様子、学校のブログにも掲載されています。学校行事など、まるでいち生徒のように参加するベローナと、子どもたち、先生の笑顔が印象的です。
学校犬がもたらしてくれた宝もの
吉田先生いわく「バディたちは、一歩を踏み出す勇気や、折れかかった心を励まして多くの人にさまざまなきっかけを与えてくれたんです。杉岡先生もそうですし、犬にアレルギーのある子も、家では飼えないからバディ・ウォーカーになりたいと言って、ゴーグルにマスク、手袋までして世話をしてくれることもありました」。
こうしたいきさつ、吉田先生によって本に著されていますので、ご興味のある方、ご覧になってみてください。
動物介在教育に関するまとめ
教科書と教室だけでは学べないことを教えてくれる
動物介在教育は、まさに教科書や黒板では教えられない「こころ」を、しっかり伝えることができるという意味で、立派な教育として成立するといえます。
「命を大切に」と言っても、命の何たるかを、言葉や理屈で吞み込むには経験的な材料が少なすぎる子どもたち。
でも、そこに1頭の血の通った温かい犬がいるだけで、子どもだからこその柔軟さによって肌で受け入れ、本能的な「弱いものを守る」という優しさが発動するのではないでしょうか。
ましてや、犬の寿命は人のそれよりずっと短い。自分たちがすっかり大人になる前に年老いていく姿、そして消えて行く命に触れることは、なにものにも勝る命の教育と言えるのではないでしょうか。
日本における動物介在教育に期待すること
欧米では動物介在教育が、教育の中できちんと位置づけられて導入され、成果を挙げているのに対し、日本では動物とのふれあい教育のほうが多く、吉田先生がスタートさせた犬が普通に校内に滞在する「学校犬」はまだ珍しいようです。
ふれあい活動もまた、動物を飼っていない子どもやアレルギーで飼えない子どもにとっては貴重な時間となるのかもしれませんし、犬との正しい接し方などを学ぶことも大切です。
でも、「犬ってこんなに可愛いんだ」「犬ってこんなに賢いんだ」で終ってしまうには、もったいないことです。
今の日本の子どもたちは、半世紀前の子ども達に比べて、自殺も増えているなど、信じられないほど大きなストレスにさらされています。
そのために、大人のほうも子どもとの接し方に腰が引けてしまうような風潮の中、ひたすらストレートに子ども達の心に入っていける犬は貴重かつ有用な動物と言えます。
日本でなかなか導入が進まない理由は、
- 衛生
- アレルギーのある子どもへの対応
- 専門家の不足
などがあるようですが、吉田先生が起こしたアクションが、すでに12年も続いている事実を見れば、他でもできないはずがありません。
この夏、鎌倉市立図書館による「学校が死ぬほどつらい子は図書館へ」と流したツイートが話題になりました。
何事もアクションを起こせば、最初は議論の的になるかもしれない。けれど、確実にそれを必要としている子どもがいる以上、大人がやるしかない!
できることから始めよう!
今後、ますます必要性が高まると共にボランティアをはじめ、動物介在教育のプログラム作成や現場で活動する専門家などの育成が求められるようになるでしょう。
私たち、普通の飼い主にできること、それは吉田先生のような人が播いてくれたタネがどんどん育つよう、土壌を育てること。
最低限必要なしつけをする、散歩中の排泄物を片付けるなど、犬の飼い主としてごく当たり前のことを行い、犬という動物が社会で好意的に受け入れてもらえるようにすること、そして公における犬の市民権を獲得していくことも、小さいけれど大切なアクションではないでしょうか?
ユーザーのコメント
20代 女性 ゆず
恥ずかしながらこの記事を読むまでAAEの活動について知りませんでした。今回、知ることができて本当に良かったです。様々な問題があるかもしれませんが、今後もっとこの活動が広まってゆくと良いですね。
主にボランティアで行われているということにも感銘を受けました。活動資金など自分に協力できることがあったら是非援助したいと思いました。
また、バディちゃんの活躍が本当に素晴らしいですね!犬には自然と心を許してしまう不思議な魅力があると思うのですが、もしかしたら言葉を交わさないからこそ人の心に寄り添うことができるのかもしれませんね。バディちゃんの本もぜひ拝見したいです。