「老いた犬に新しい芸を教えることはできない」?
英語の言い回しに、「You can't teach an old dog new tricks」というものがあります。老いた犬に新しい芸を教えることはできない=長年つちかってきた習慣や性格を変えたり、長年のやり方に変わって新しいスキルを教えたりすることは、とても難しいという意味ですが、いざ本物の犬の話となると、決してそんなことはありません。
犬はいくつになっても、新しいことを学習することができます。もちろん若い頃よりも学習するスピードがゆっくりになる場合はありますし、遠距離を投げたボールを「モッテコイ」するなどは難しくなりますが、新しいトリックを覚えるという精神と、身体の両方の刺激はシニア犬にとって大きな意味があります。
シニア犬の精神とトリック
犬の訓練を行う人の中には、「オスワリやマテと違って、ハイタッチやマワレなどの芸を教えることには、犬にとっては意味がない」という意見も時折見かけます。
けれども、ポジティブ強化の方法を使ってトリックを教えることは、シニア犬にとって大きな意味があります。新しいことを覚えることで、脳に刺激が与えられ認知機能の低下を防ぎます。ある条件を達成することで、取っておきのトリーツをもらえるというワクワク感も、犬の精神にとって大きな刺激になります。
そして何よりも、新しいことを教えられることで飼い主と犬の関係が強くなること、飼い主が犬にしっかりと向き合うことが、犬にとってはとても嬉しいことだというのは大きなポイントです。
これは感覚的にそのように思われるというだけでなく、2017年のウィーン獣医科大学による研究で、ポジティブ強化の訓練を行うことが、犬を認知の低下から遠ざけることが示されています。
シニア犬の身体とトリック
シニア犬にトリックを教えることは、身体的な面でもメリットがあります。
外で長時間の散歩をしたり、走り回ったりすることが難しくなった犬にとって、できる範囲で体を動かすことは健康のためにとても大切です。
例えば、犬がその場でくるりと回るマワレやスピンのトリックは、右回りと左回りの両方向で行うことで、体の両側の筋肉を均等に使うことができます。
また、踏み台の上り下りを教えておくことで、ソファーや車に乗るときに補助が必要になったときの移行がスムーズになります。
けれども、もしも犬が嫌悪感や躊躇を示した場合には、決して無理強いはしないようにしてください。シニア犬の場合は、それが痛みや不快感を表していることもあり得ます。
また犬の訓練には、ジェスチャーを使った指示が効果的だという研究結果が、2018年にイタリアのナポリ大学の研究者によって発表されています(https://wanchan.jp/osusume/detail/9725)が、シニア犬の場合は、聴覚が衰えている可能性があるのでジェスチャーによる指示はより重要です。
まとめ
シニアになった犬に新しいトリックを教えることは、精神的な面でも身体的な面でもメリットがあることをご紹介しました。
犬が歳をとってできなくなることはいろいろありますが、それを理由に犬に構う時間が少なくなったり、ただ嘆いていたりするだけでは、犬の老化をさらに進めてしまいます。
長い時間を一緒に重ねてきた大切なシニア犬だからこそ、工夫したり加減したりしながら、落ち着いたシニア犬ならではのゴールデンタイムを楽しみたいものだと思います。
《参考》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnagi.2017.00100/full