※ここでは、漢字表記の「犬」「猫」はペットの犬猫を表し、カタカナ表記は犬猫を含めた野生種の科学的なグループを表します。
イヌ科動物とネコ科動物の大きさ比べ
どうして、イヌのなかまには、トラのようなサイズのものがいないのでしょうか。
イヌのなかまとネコのなかまはもともと同じ祖先から発生した動物ですが、それぞれ異なる歴史をたどり、別の捕食動物へと進化しました。身体的にも生態的にも異なるところはたくさんありますが、単純に大きさもちがいます。基本的にネコ科動物のほうがバリエーションが豊富で、最大種もネコ科に軍配があがります。
古今東西、イヌ科の最大種とされるのはダイアウルフという、13万~1万年前に北米に生息していたオオカミのなかまです。体高80㎝、頭胴長130㎝と、体格は今のオオカミとそれほどかわりませんが、体重は70㎏程度と大型亜種のオオカミの平均よりも10㎏程重いといわれています。
いっぽう、ネコ科の最大種は現生のアムールトラで、体高120cm、頭胴長250cmとオオカミよりもずっと大きく、体重も300㎏をゆうに超えます。また、ネコ科にはそれほど大きくはなくても、オオカミより大きな種類はけっこういます。
食肉目を代表する捕食者同士、どうしてこのような体格差がうまれたのでしょうか。
狩りの方法の違いが体格差を生んだ?
ネコのなかまは、もともと森林の木陰に潜んで、やってきた獲物に一瞬で飛びかかって仕留める、待ち伏せ型の狩りを行います。この狩りに必要なのは瞬発力と獲物を力づくで抑え込むためのパワーです。瞬発力やパワーは基本的に筋肉(瞬発力を生み出す種類の筋肉)の量が多くなれば増加するため、体が大きくなったほうが、獲物を捕らえやすくなります。また、体が重ければ獲物を抑え込むのにも有利に。そのため、体の大きな種類が現れるようになったと考えられています。もちろん、捕食者として成功したために、多様化が進んだという面もあります。
イヌはどうでしょう。イヌのなかまは、長い間獲物を追跡して、獲物が疲れてきたところを襲う、追跡型の狩りをします。この狩りの方法には、瞬発力よりも持久力が求められます。体が大きくなって体重が増えれば、持久力が落ちてしまいますし、ネコのように相手を力づくで捕まえる必要がないため、体の重さが狩りに有利には働きません。そのため、イヌはネコほどは大きな体にはなりませんでした。持久力が必要なマラソンランナーに、ボルト選手のようなムキムキで大柄の選手がいないのはそのためでもあります。
ちなみに陸上最大の哺乳類は、肉食動物ではなく、草食動物であるゾウです。植物をエネルギーに変換するには大量に食べる必要があり、消化するには長い腸が必要なため、草食動物の体は大きくなる傾向があります。また、体が大きいほうが捕食者に狙われることが少なくなるメリットもあります。そのため、一般に陸上動物では草食動物のほうがより体の大きな種類が多く現れます。
ペットだったら、猫のほうがずっと小さい
ペットの犬猫の体のサイズを決定するのは、主に人為的な交配です。犬はさまざまな用途・目的にあわせてさまざまな犬種がつくられ、そのなかで超大型犬も生まれました。いっぽう、猫の使役目的はネズミ捕りくらいです。ネズミを捕るためにしても、むしろ大型でないほうがよく、そのために犬のように大きな種類はつくられませんでした。また、捕食者としての殺傷能力や命令に従わない性質を考えれば、巨大なサイズの猫はどんなに家畜化していようと、犬に比べてずっと危険にちがいありません。それを考えれば猫の大型種はつくらないほうが身のためということなのでしょう。
まとめ
動物の体のサイズには、意外とちゃんとした理由があったのですね。野生の場合、イヌのほうが種類が少なく、体も小さいのですが、ペットだと種類も豊富でサイズも大きいというのは面白いことだと思います。犬が人にとっていかに役立ってきたかを表しているのでしょう。