軍用犬(ぐんようけん)とは?
人間と犬の歴史は長く、犬は人間の仕事を手伝うために、様々な役割を与えられてきました。その中でも特に危険を伴うのが「軍用犬」としての役割です。人間が与える犬の仕事はどれも人間の都合ではありますが、その中でも犬の優れた能力を「武器」として扱っているのが軍用犬と呼ばれる犬たちです。
兵士と戦場へ赴き様々な任務を受け持つ。この軍用犬は現代においてもその与えられた役割を果たしています。いったい、どういった仕事をして、どういった犬が軍用犬となるのでしょうか。今回は「軍用犬とは?」を考えてみたいと思います。
軍用犬に適した犬種9選
犬の優れた身体能力と、人間の役に立つことに喜びを感じるという習性を利用している軍用犬ですが、犬種によっても適している犬種がいるのだそうです。
ジャーマン・シェパード
軍用犬・警察犬といえばジャーマン・シェパードですよね。服従心と忠誠心をもち、攻撃のオンオフをハンドラーの命令一つでこなせる高い知能を持ちます。
ロットワイラー
日本ではあまり聞かない犬種ですが、アメリカでは人気の犬種です。牛を追い立てたり、荷車引きをしていた犬種なので、番犬として優れた能力と高い牽引能力とを持っています。そのため軍人の護衛や警備、物資の移送などを行う軍用犬として適しています。
ベルジアン・マリノア
ヨーロッパでは、ジャーマン・シェパードを抜いて警察犬・軍用犬の利用率が1位の犬種です。ジャーマン・シェパードよりもコンパクトな体を持ち、股関節形成不全という病気の発症率が低いことから利用率が高くなっています。
ドーベルマン
ドーベルマンはもともと警備犬として生み出された犬種です。厳しい訓練に耐えられる賢さと忍耐力・忠誠心があり、高い警戒心と縄張り意識を持っているため、軍用犬として適しています。
ジャイアント・シュナウザー
人間の頭脳を持った犬と言われるほど賢く、軍用犬としては伝令や救護犬としての役割を与えられました。
ジャーマンショートヘアードポインター
持久力と粘り強さをもち、獲物のにおいを追って回収作業もこなせる、狩猟犬としての高い能力を評価され、軍用犬として利用されてきました。俊足で体力もあり、泳ぐことも得意な犬種です。
ブラッドハウンド
全犬種の中で1番といわれるほどの優れた嗅覚を持つ犬種です。主に獲物のにおいをたどり、見つけることが得意なので、敵の兵士の捜索などで軍用犬として利用されました。
ボクサー
狩猟犬として生み出された犬種で、獲物に噛みついたまま押さえつけておくという役割を与えられていました。強靭なアゴと獲物に飛び掛かる勇敢な気質、多くのスタミナをもった犬種です。
ラブラドールレトリーバー
高い労働意欲を持ち、温厚で従順なため作業犬として高い能力を持つ犬種です。軍用犬としてはその優れた嗅覚を利用して、戦闘追跡部隊として負傷兵や敵兵を発見する役割を与えられていました。
軍用犬の主な仕事
軍用犬は以下のような仕事をしています。
- 伝令犬:戦闘中に伝令を届ける
- 輸送犬:戦時中に必要な弾薬や医療役を輸送する
- 探知犬、検知犬:爆弾や地雷などの探知、検知を行う
- 追跡犬:テロ犯や敵の追跡、味方や負傷者を追跡、捜索する
- 警備犬、哨戒犬:警護や見張りを行う
- 対戦戦車犬:敵の戦車に潜り込ませて自爆させる
- 戦闘犬:直接的に敵へ攻撃をさせる
- セラピー犬:負傷者や兵士のケアを行う
現在においては、探知犬や検知犬、追跡犬として活躍することが多いそうですが、現代である2007年頃にも爆弾を背負った犬が軍事利用されるという最悪の事態も起きています。一方、セラピー犬として、負傷者や傷ついた兵士のケアを行う仕事も大きな役割として注目されています。
軍用犬の歴史
軍用犬の歴史は古く、日本においては戦国時代から、世界においては紀元前である古代エジプトやギリシャなどで使用されていた記録が残っているのだそう。また、近年においては、その多くが世界大戦時に使用され、現在でもその歴史は続いています。
昔は「伝令犬」としての役割だけでなく、旧ソ連軍による「対戦車犬」としての非人道的な役割も担っていました。この対戦車犬の役割は爆弾を背負って敵の戦車に向かって走り、爆破させるというもの。軍用犬は人間の都合によって生み出された役割ですが、この対戦車犬はその中でも特に非人道的な軍事兵器としての役割を与えられていたのです。犠牲になった軍用犬がいることは忘れてはならない歴史です。
現在においては「追跡犬」や「探知犬」、「検知犬」としての役割を担うことが多く、テロ犯や爆発物の探索、負傷者の捜索や救出において活躍をしています。厳しく特殊な訓練を受け、数多くの人間の命を救ってくれているのが軍用犬なのです。
また、軍用犬は必ずしも可哀想な存在ではなく、その相棒となるハンドラーの人間とは強い信頼関係を築き、絆で結ばれているのだそう。犬は人間の役に立つことが大好きな動物です。
だからこそ役割を与えられ、活躍することは犬の喜びにも繋がるのだそう。もちろん人間の都合で犬の命の危険が伴う役割を与えていることは間違いありません。
しかし、実際に軍用犬として活躍している犬とハンドラーである兵士の姿を目にすると、そこには確かな絆があるように思えてなりません。
日本の軍用犬
By 不明 - 毎日新聞社「昭和史第8巻 日中戦争勃発」より。, パブリック・ドメイン, Link
日本で軍用犬が本格的に運用されたのは、第一次世界大戦以降にジャーマン・シェパードの移入が行われてからになります。1928年(昭和3年)には、日本シェパード犬倶楽部(現・日本シェパード犬登録協会)という民間団体が発足し、1933年(昭和8年)には社団法人帝国軍用犬協会(現・日本警察犬協会)も発足し、軍や警察へ軍用犬の供給が行われていました。
軍用犬は戦場において伝令犬や警備犬として活躍を見せ、人間の兵士同様に犬の出征が行われるようにりました。最盛期には3500頭以上の軍用犬が飼育されていましたが、太平洋戦争以降は連合軍の軍用犬戦術が向上し、日本側の軍用犬の活躍は次第に見られなくなっていきました。
2010年12月18日に放送されたNHKでドラマ「さよなら、アルマ~赤紙をもらった犬~」では実際に軍用犬として活躍した、ジャーマン・シェパードのアルマの物語が描かれています。
アメリカの軍用犬
By N/A (U.S. Army photograph) - http://farm4.static.flickr.com/3636/3364818319_c1b97f199c_o.jpg, Public Domain, Link
アメリカでの本格的な軍用犬の運用は、第二次世界大戦期から始まりました。日本人だけを選別して殺傷する目的で、軍用犬部隊が訓練・組織されましたが、軍用犬が従順すぎた事と、砲撃の際の轟音に弱かったため、攻撃犬としての運用は取りやめになりました。
こうした第二次大戦中、チップスという軍用犬はハンドラーを守る為にイタリア軍の陣地に突入しそのまま陣地を陥落させる活躍をしました。その活躍に対し、殊勲十字章やパープルハート章、シルバースターが授与されています。
その後は爆発物を検知する検知犬や、警備犬として運用され、現在でも多くの軍用犬が存在しています。2011年には海神の槍作戦(ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害)でマリノア犬の「カイロ」が参加し、成果を挙げています。
アメリカでの軍用犬に対する扱いは手厚く、軍用犬にはハンドラーと同等以上の階級が与えられていて、犬に対して非道な扱いがあった場合、軍法会議へかけられることもあります。
また、「軍事作業犬の帰還プログラム」があり、軍用犬が里親の元で飼い犬として生活するための取り組みが行われています。2015年には退役した軍用犬の物語を描いた「マックス/MAX」という映画が放映され、人々との絆や戦争問題も考えさせられる感動作となっています。
軍用犬の訓練方法
軍用犬の訓練では、まずハンドラーとの絶対的な信頼関係を作ることから始まります。その後カリキュラムに沿って、様々な訓練がされました。軍用犬の訓練とはどのようなものがあるのでしょうか。
脚側行進(きゃくそくこうしん)
犬を兵の左側につけて一緒に歩く訓練です。 犬の前足と兵の足が並んで、犬の首だけが前に出るという姿勢が正しい姿勢になります。
脚側停座(きゃくそくていざ)
兵が立ち止まった時に傍に座らせる訓練です。
据座(きょざ)招呼(こしょう)
「すわれ」「待て」「来い」のことです。命令ですわり、次の命令までそのまま動かず、呼べば立って駆けつける訓練です。
伏臥(ふくが)
「伏せ」のことです。犬とって苦しい訓練の1つですが、敵弾をかわすためなど実戦では大事な姿勢をとるための訓練です。
匍匐(ほふく)
伏せのまま姿勢を低くして移動する訓練です。
持来(もちかえり)
投げた物品を持ってきて口から離す訓練です。
捜索
嗅覚を使って物品や人物を探し出す訓練です。
前進
脚側行進の延長行動の訓練です。首輪のひもを引いて「前へ、前へ」の号令で前進します。
休止
犬が楽な姿勢で休むことです。伏せの姿勢をくずした形で休みます。
咆哮(ほうこう)
不審者を見つけたら吠える訓練です。警戒犬にとっては最も重要な訓練です。
監視
物品を守るために監視して、近づく不審者を威嚇する訓練です
襲撃
何事にも恐れない気の強さを養う精神的訓練です。
拒食
他人のくれる食べ物を食べたり、ひろい食いをしないようにする訓練です。敵の毒餌にかからないようにするために大切な訓練です。
高跳び
「跳べ」の命令とともにハンドラーと一緒に跳ぶ訓練です。
濠の飛越(ごうのひえつ)
濠とは堀や溝のことで、それを飛び越える訓練です。
板壁飛越
垂直な板壁を飛び越えるようにする訓練です。
これらの訓練をマスターすると、鉄砲音や爆音にならす訓練を行ない、軍用犬として運用されていきます。
軍用犬と兵士の関係と絆について
軍用犬の装備
軍用犬とハンドラーである兵士は、戦友・友人・同士として大切なパートナーとしての深い絆で繋がっています。
軍用犬にも兵士と同様に装備が支給され、45口径の弾丸にも耐える防弾チョッキに、遠隔から映像を確認できるように、暗視スコープ付きカメラを取り付けた専用の犬用アーマー兼ハーネスを着用して戦地に赴きます。
兵士と同等
軍用犬が戦死した際には葬儀が行われたり、戦死した軍用犬のための慰霊碑が建てられたりもしています。このように軍用犬は兵士と同様に扱われ、ハンドラーと同等以上の階級も与えられています。活躍した際には表彰もされ、勲章も授与されるんですよ。まとめ
軍用犬には残酷な歴史もありますが、人間の命を救ってくれているという現実もあります。軍用犬の相棒となるハンドラーとの間には確かな絆がありますが、人間の都合で危険な仕事を担ってくれているという事実も同じくあります。
過去に起きた過ちである非人道的な扱いがされることがないよう、せめて私たちはこれらの歴史や事実を知ることが大切なのかもしれません。
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