犬の視力は犬種によって違うらしい

犬の視力は犬種によって違うらしい

犬は視力が弱いと聞いたことはありませんか?一緒に生活している愛犬の視力がどのくらいのものなのか、気になりますよね。今回は犬の視力についてご紹介していきたいと思います。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

犬種によって視力の違いはあるの?

正面を向いたシェパード

結果からお伝えすると、犬種によって視力の違いはがあるようです。犬は「近視」であると長く言われてきましたが、最近の研究によると、犬は平均的にわずかに遠視である、という結果が出ているそうです。

しかし、ジャーマンシェパードやロットワイラーでは近視の犬が強く多かったという研究結果やオーストラリアンシェパードとアラスカンマラミュートなどでは遠視が強かったとする研究結果も出ています。また、鼻ぺちゃのつぶれ顔の犬種では目がより前を向いて離れてついていて、鼻がとても長いサイトハウンドでは目がより横向きについているので、顔の形・犬種によって見える範囲に違いがあるだろう、というのは分かりやすいですよね。

よって、犬種によって視力の違いがあるかと聞かれたら、答えはYESでしょう。また、犬種に関係なく高齢になるにつれて核硬化症により近視になる傾向が強いそうです。そして、白内障をはじめとする視力に影響を及ぼす病気になったり生まれつき目が見えない犬もいるでしょう。そのような場合でも犬は、少しのサポートは必要かもしれませんが、嗅覚や聴覚を使って周りの状況を判断することが出来、問題なく日常生活が送れるようになります。

また犬は、物をはっきり見る、という意味ではあまり視力が良くない分、優れた動体視力を持っています。狩りをする、というもともとの生態に合った視覚の特徴を持っているのですね。

犬の視力はどのくらいあるの?

犬の目アップ

では、人間の視力にあてはめると実際に犬の視力はどの程度あるのでしょうか。これは0.1~0.2だそうです。また、飼い主である自分の顔もどのくらい認識できているのかと不安になるかもしれませんが、顔形がどれだけはっきり見えるかは人間にはとても重要でしょうが犬にとってはそれほど重要ではなく、適度な距離では人の動きをきちんと認識し、親しい人の表情を区別できることが研究によっても示されているようです。

また、人よりはるかに鋭い嗅覚を使っても多くの情報を得ているので、人間で言えば0.2程の視力も人と犬がコミュニケーションをとり信頼関係を築くのに問題となることはないのです。

遠いところから呼ぶと嬉しそうに走ってくるのは、ちゃんと飼い主さんだとわかっている証拠ですね。ぼやけて見えていても、動き方や声などからもちゃんと他の人と区別しているのです。

犬は暗い場所でもへっちゃら?

暗闇の中にいる犬

視力が弱いということは暗闇にも弱いのかと疑問に思いますが、実はそんなことはありません。

犬には薄暗い光の中でも人間よりはるかに高い対象物を捉える力が備わっているそうです。この犬と人間の目の大きな違いは、「タぺタム層」と呼ばれている眼の奥にある鏡のような層にあります。犬の目にはこのタペタム層があり、人間の目にはありません。

この光を反射させる層によって神経に伝わる光の情報が増えるため、薄暗い中でも、驚きの認識力を発揮できるのです。ただし、タペタム層を持つことは良いことばかりではありません。タペタム層によって光が分散してしまうので、明るいところでは対象物がよりぼやけて見えてしまいます。

犬は人間とは違う色の世界が見えている

犬とカラフルな食器

犬の視力やその特性についてご紹介してきましたが、人間が見ている世界と犬が見ている世界が他にも異なっていることはご存知ですか?

それは”色”です。

人間の網膜には色を識別する細胞が3種類ありますが、犬の網膜には2種類しかなく、波長の長い色(赤)を識別する細胞がありません。全ての色をグレーと黄色、青のグラデーションで識別していると考えられています。

昔は犬が見ている世界は白黒だと言われていましたが、研究を重ねることでこれだけの色が認識できていることがわかりました。少しの色でも見えていると思うと嬉しいですよね。

そして、色の見え方が人間と違う、見える色の種類が人間より少ないとしても、犬は色の区別はよくできているようです。緑、赤、青の色も緑、赤、同じ色合いの青とは見えていないけれどもその3色を違う色として認識できているようです。

愛犬に与えるおもちゃも上記の色を参考にして選んであげることで、認識しやすく遊びや運動もよりスムーズにできるのではないでしょうか。

【犬の色覚についての補足】

犬が見えている色は、緑と赤が区別しにくいタイプの色盲の人が見ている色に近いと言われています。しかし、人間のレンズには黄色の色素がありますが犬のレンズにはないため、もう少し青寄りの色が見えていると考えられています。

犬は光の三原色である赤、青、緑とグレーをよく区別していて、赤=青みがかった黄色(グレー)、青=薄い青、緑=黄色みがかったグレー(赤で見えるグレーより薄い)として見えているようです。しかし、波長が中間~長い色である黄緑から黄色、オレンジ、赤を区別することが苦手です。

また、青緑とグレーの区別も苦手です。ですので、緑の芝生の上に赤いおもちゃがあっても気づきにくいかもしれません。「犬にとって濃い青」に見える、「人間にとっての濃紺や紫」が犬にとって一番認識しやすい色だと考えられます。

獣医師:木下明紀子

まとめ

芝生で飼い主と遊ぶ犬

いかがでしたでしょうか?犬の視力は多くの点で人間と違うのですね。

犬の視力の特性を知ることは、おもちゃの選び方や遊び方を考え直し、愛犬との生活をより良くする上で大切なことだと思います。

監修獣医師による補足

昔の研究結果(古いものでは1909年)では、犬は近視だと考えられてきました。しかしここ数十年の研究結果から、犬は近視でも遠視でもない(正視)またはわずかな遠視であることが分かりました。しかしその中にも、近視が多いというデータが出た犬種があり、ジャーマンシェパードでは30頭中53%が、ロットワイラーでは14頭中64%が、ミニチュアシュナウツァーでは8頭中50%が近視だったという報告があります。

しかし、人間と同様に犬の近視にも家族性が見られ、このデータの中には家族である犬が複数いたため、データのとり方によってはこの3犬種においても近視の犬の確率は大きく変わってくるかもしれません。また、盲導犬として働いている53頭のジャーマンシェパードでは19%だけが近視であることも分かり、盲導犬としての育成・選別過程で視力による振り分けが結果として行われている可能性も指摘されています。また、オーストラリアンシェパードとアラスカンマラミュート、ブービエ・デ・フランドルでは犬種としての平均が遠視だったという報告もあります。

犬種による差は、近視か遠視かについてだけではなく、①視野、②立体視できる範囲、③眼におけるある種の神経細胞の分布、④タペタムにおいても認められています。

①視野については、顔の形と目の位置が大きく関係しています。一般的に人間の視野は横に200°程度とされていますが、例えばラブラドールレトリーバーのような中頭種の犬では視野は240~250°と言われています。サイトハウンド(ウイペットやボルゾイなど)のように顔(鼻)の長い長頭種の犬では、視野はさらに広く、パグのような短頭種では少し狭い人間に近い視野を持つことが推測されます。また、長頭種の犬は下を見た時に自分の長い鼻が邪魔になって見えない部分がある可能性が考えられますが、パグのような短頭種ではそのような部分はないでしょう。

②立体視できる範囲についても視野と同様に、顔の形と目の位置が関係しています。人間の視野のうち、両眼視できる範囲は約120°と言われていますが、中頭種の犬では両眼視できる範囲は約60°と考えられています。長頭種ではそれよりさらに狭く、短頭種では人間が両眼視できる範囲に近い広い範囲で両眼視できると推測されます。

③詳細は省きますが、ある種の神経細胞の分布が犬種によって異なり、視野の中でどの部分がよく見えるかに差があるようです。これも長頭種と短頭種で違いが認められていて、長頭種では視野の中で水平方向によく見える部分があるようですが短頭種では人間に類似した正面のある部分がよく見えるようです。

④小型犬と大型犬では、体の大きさの違いに比べ眼球の大きさの違いが小さいのですが、タペタムの大きさは大型犬よりも小型犬で小さいという報告があります。また、ラブラドールレトリーバーでは体の大きさから想定される大きさよりも小さいタペタムを持っている犬が多い、という報告もあります。また、タペタムのない血統がいくつかの犬種で報告されていますが、視力や生活に支障はないようです。

このように犬種によって色々な差が認められていますが、だからと言ってこの犬種はこういう動作や行動が苦手だ、ということはないようです。その他、犬の視力に関して分かっていることを簡単にまとめますと、

  • 薄暗い環境で物を見るのに必要な光の量:猫は人間が必要とする光の約1/6の量の光で物を見ることができ、犬は猫よりは劣るが人間よりははるかに少ない量の光で物を見ることが出来ます。
  • 動体視力:14頭の警察犬で調べた結果、「810~900m先の動いている物は認識できた。止まっているものを認識できた距離は最大585mだった。」という1936年の研究があります。
  • 点滅光について:光が点滅している場合、人間が「点滅」だと認識できるのは明るい場所で50~60ヘルツ(1秒間に50~60回の点滅)と言われていますが、犬は70~80ヘルツもしくはそれ以上の頻度の点滅光を点滅として認識できるそうです。ハイビジョン放送の周波数が60ヘルツなので、犬はテレビを見ていても画像の点滅として認識しているのかもしれません。
  • 近くを見る正確さ:犬は33~50cm離れている対象物ははっきり見えるけれど、それ以上近くにある対象物はぼやけて見えると考えられています。そのため、自分の非常に近くにある対象物に対しては臭いをかいだりなめたりして視覚による情報の少なさを補っていると考えられています。
  • 犬の視覚は狼とも異なっています:神経細胞の数から考えると、狼の方が犬よりも物を詳細に見ることができるようです。
  • 紫外線が見える?!人間の眼のレンズは紫外線を通しませんが、犬の眼のレンズは紫外線を通すことが分かっています。可能性が考えられているに過ぎませんが、もしかしたら犬は紫外線が見えているのかもしれません。
  • 磁気を感じられる?!最近の研究で、犬の眼の青色を感知する細胞の中にクリプトクロム1という光受容性たんぱく質の存在が認められました。クリプトクロムは渡り鳥の眼の細胞でも認められているたんぱく質で、磁場の変化を感知します。渡り鳥が長距離の渡りを正確に行えるのはこのたんぱく質によって地球の磁場が見えるから、という説がありますが、もしかしたら犬も磁気を感じることが出来るのかもしれません。

≪参考文献≫

Miller PE, Murphy CJ. Vision in dogs. Journal of American Veterinary Medical Association. 1995; 207: 1623–1634.

Byosiere, S., Chouinard, P.A., Howell, T.J. et al. What do dogs (Canis familiaris) see? A review of vision in dogs and implications for cognition research. Psychon Bull Rev 25, 1798–1813 (2018).

C J Murphy, K Zadnik, M J Mannis; Myopia and refractive error in dogs. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 1992;33(8):2459-2463.

Melissa A. Kubai, Ellison Bentley, Paul E. Miller, Donald O. Mutti, and Christopher J. Murphy. Refractive states of eyes and association between ametropia and breed in dogs. American Journal of Veterinary Research. 2008 69:7, 946-951

獣医師:木下明紀子
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