犬が人間用のガム(キシリトール入り)を食べると危険?
結論から言うと、犬がキシリトールを含む人間用のガムを食べることは、命に関わる非常に危険な行為です。人間にとっては虫歯予防などに役立つキシリトールですが、犬の体内では毒として作用します。
なぜ犬にだけ有毒なのか
犬の体内にキシリトールが入ると、膵臓から「インスリン」というホルモンが急激かつ大量に分泌されます。インスリンは、血液中の糖分(血糖)を細胞に取り込ませ、血糖値を下げる働きを持つホルモンです。
人間の場合、キシリトールを摂取してもインスリンの分泌はほとんど起こりません。しかし、犬の場合はキシリトールをブドウ糖と勘違いしてしまい、インスリンが過剰に分泌されます。その結果、血液中の糖分が急激に減少する「低血糖症」という危険な状態に陥ります。低血糖症は、脳のエネルギー不足を引き起こし、ぐったりする、痙攣(けいれん)を起こすなど、深刻な神経症状の原因となります。
肝臓への深刻なダメージ
キシリトール中毒のもう一つの恐ろしい点は、肝臓への影響です。大量のキシリトールを摂取した場合、数時間から数日以内に、肝細胞が破壊される重篤な肝不全を引き起こすことがあります。肝不全は一度発症すると治療が極めて困難であり、命を落とす可能性が非常に高い危険な状態です。
犬が人間用のガム(キシリトール入り)を誤飲した場合に考えられる症状
キシリトール中毒の症状は、摂取後30分から1時間程度という非常に短い時間で現れることがあります。しかし、製品に含まれる他の成分によっては吸収が遅れ、半日以上経ってから症状が出る場合もあります。
初期症状(低血糖による症状)
まず現れることが多いのは、低血糖による症状です。これらは脳へのエネルギー供給が不足するために起こります。
- 元気がなくなり、ぐったりする
- 嘔吐や下痢
- 歩行がふらつく、うまく立てない
- 虚脱(ぐったりして動けなくなる状態)
重症化した際に見られる症状(神経症状)
低血糖がさらに進行すると、中枢神経系に異常をきたし、以下のような深刻な症状が現れます。
- 震え
- 筋肉の痙攣
- 意識の混濁
- 昏睡状態
これらの症状が見られた場合は、一刻を争う事態です。
遅れて現れる症状(肝不全)
急性の低血糖症状が落ち着いた後でも、安心はできません。摂取後24時間から72時間後に、肝不全の症状が現れることがあります。
- 食欲の完全な消失
- 持続的な嘔吐
- 黄疸(おうだん):白目や歯茎、皮膚が黄色っぽくなる状態
- 血液凝固異常によるあざや出血
症状が全く見られない場合でも、体内で中毒が進行している可能性があります。食べたことが確実な場合は、無症状でも必ず動物病院を受診してください。
犬はどのぐらいの量のガム(キシリトール入り)を食べると危険?
犬にとって危険なキシリトールの量は、ごくわずかです。
一般的に、犬の体重1kgあたり0.1g(100mg)以上のキシリトールを摂取すると、急性の低血糖を引き起こす危険があるとされています。
さらに、体重1kgあたり0.5g(500mg)以上を摂取した場合は、重篤な肝不全を起こす可能性が高まります。
しかし、これはあくまで目安です。個体差も大きく、これより少ない量でも重篤な症状を示す犬もいます。
ガム1粒でも危険な可能性がある
問題なのは、市販のガム1粒に含まれるキシリトールの量が、製品によって大きく異なる点です。含有量が多い製品の場合、たった1粒でも小型犬にとっては致死量に達する可能性があります。
例えば、体重3kgのトイプードルやチワワの場合、わずか0.3gのキシリトールで低血糖を起こす計算になります。体重10kgの柴犬やフレンチ・ブルドッグでも、1gで危険な状態です。
製品パッケージに含有量が記載されていないことも多いため、「キシリトール入りのガムを1粒でも食べた」時点で、危険な量を摂取した可能性があると判断し、行動する必要があります。
犬が人間用のガムを食べた場合の対処法
愛犬がキシリトール入りガムを食べてしまった、あるいはその疑いがある場合、飼い主さんの冷静で迅速な行動が愛犬の命を救います。以下の手順で対処してください。
最優先で動物病院へ連絡する
何よりもまず、かかりつけの動物病院、もしくは夜間救急対応の動物病院へすぐに電話してください。自己判断で様子を見るのは絶対にやめましょう。中毒は時間との勝負です。
電話の際には、以下の情報を獣医師に正確に伝えてください。
- 犬種、年齢、おおよその体重
- 食べたガムの製品名と、食べたおおよその量(「〇〇というガムを△粒」など)
- 食べてからどのくらいの時間が経っているか
- 現在の犬の様子(症状の有無、あれば具体的に)
獣医師が状況を把握し、来院の要否や来院前の注意点を指示してくれます。
自己判断で吐かせない
インターネットなどで「塩やオキシドールで吐かせる」といった情報を見かけるかもしれませんが、絶対に真似しないでください。素人が無理に吐かせようとすると、吐いたものが気管に入ってしまう「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を起こしたり、食道を傷つけたりする危険があります。催吐処置は、必ず動物病院で獣医師の管理下で行う必要があります。
病院へ向かう際の準備
獣医師の指示に従い、病院へ向かう準備をします。
まず、食べたガムのパッケージを持参しましょう。キシリトールの含有量や他の成分を獣医師が確認するための重要な情報源となります。食べたものと同じ製品があれば、必ず持参しましょう。
移動する際は「安全に移動する」ことをこころがけましょう。車で移動する際は、犬がふらついたり痙攣を起こしたりしても安全なように、キャリーケースに入れるか、助手席の人がしっかりと抱きかかえてください。
低血糖の応急処置方法(獣医の指示があった場合のみ実施)
もし病院への移動中に意識がはっきりしている状態で、低血糖症状を和らげるために砂糖水やガムシロップなどを少量、歯茎に塗りつける応急処置を行うことがあります。
ただし、これは獣医師の明確な指示なく行ってはいけません。指示があった場合に限り対応しましょう。
まとめ
キシリトールは、犬にとって命を脅かす猛毒です。その危険性は、飼い主さんが想像している以上かもしれません。
最も重要なことは、誤飲を未然に防ぐことです。キシリトールを含むガムやタブレット、歯磨き粉などは、犬の届かない場所に徹底して保管してください。バッグの中に入れっぱなしにしたり、テーブルの上に出しっぱなしにしたりすることは絶対に避けましょう。
そして、万が一、愛犬がキシリトール入りの製品を口にしてしまった場合は、症状が出ていなくても、迷わず、すぐに動物病院に連絡し、指示を仰いでください。飼い主さんのその迅速な行動が、愛犬のかけがえのない命を守ることに繋がります。