犬にトマトジュースを与えても問題ない?
人間にとって、健康にいいとされているトマト。その栄養素を手軽にとることができるトマトジュースは、健康のために飲んでいる人も多いですよね。「人間の体に良いから愛犬にも飲ませたい」という飼い主さんもいると思います。
答えとしては「犬にトマトジュースは飲ませても大丈夫」です。ただし、飲ませる前に犬にはどんなトマトジュースを選んだ方がいいのか、など詳しく説明していきます。
飲ませるなら無塩タイプがベスト!
一般的な野菜ジュースやトマトジュースには、色々な添加物が入っているものもあります。その中でも、トマトジュースの塩分については注意が必要です。
人間でも加塩のトマトジュースを1本飲むことで、1日に必要な塩分の半分近くを摂取できるものもあるようで犬にももちろん塩分は必要ですが、人間よりはるかに体の小さな犬に加塩のトマトジュースを飲ませてしまうと、塩分過多になる心配があります。
大型犬や超大型犬だとしても、必要な塩分が含まれているドッグフードを食べている上にトマトジュースでさらに塩分を摂ってしまうと、過剰摂取になる可能性があります。塩分の過剰摂取は血液中の塩分濃度を薄めて早くナトリウムを尿中に排泄しようとしてお水をたくさん飲むことになります。
すると血液が薄まって血流が増えることにより高血圧になり、心臓や腎臓に負担がかかってしまうと考えられます。また、人間において塩分の過剰摂取が身体に悪影響を与える他のメカニズムも複数あると考えられています。
犬でも若くて健康であれば一時的に体の負担を増加させるだけかもしれませんが、もともと心臓や腎臓の機能が低下している犬では、病気を悪化させてしまう恐れがあるので特に注意が必要です。
手作り食を与えている場合には、必要となる栄養素量をきちんと計算して加塩のトマトジュースを食材の一つとして用いることができるかもしれませんが、ドッグフードが主食の場合には塩分はそれだけで充分摂取できていますので、必ず無塩トマトジュースを選びましょう。
栄養補給目的ならストレートタイプ
トマトジュースには2種類のタイプがあります。
【ストレートタイプ】
収穫されたトマトから絞り汁を裏ごししたもので、生のトマトの成分に近いジュース
【濃縮還元タイプ】
絞ったトマトを乾燥・濃縮したものを、水分を足して濃度調節してつくったジュース
どちらも無塩であれば飲ませても問題ないですが、栄養補給の目的であればストレートタイプの方が良いかもしれません。濃縮技術の発達により、濃縮還元ジュースでも損なわれる栄養素は少なくなっているようですが、食物繊維やビタミンCの量は濃縮還元タイプより、ストレートタイプの方が多く含まれていることがあるようですので、成分の面から考えてストレートタイプを選んだ方が良いこともあるでしょう。
犬がトマトジュースを飲むことで得られる健康効果
トマトジュースに含まれる優れた栄養素について説明していきましょう。犬の健康によい成分がたくさん含まれています。ポイントが4つあります。
ビタミンが豊富に含まれている
ビタミンA、ビタミンC、ビタミンPというビタミンが豊富に含まれています。ビタミンは過剰に体力を消耗しているとき、疲れているときなどは、多めに摂取したい栄養素になります。
《ビタミンPとは》
ビタミンPとは植物の色のもとになっている色素(フラボノイド。ポリフェノールの一種)の総称です。ルチンやケルセチンなどがあり、トマトにも複数のフラボノイドが含まれています。ビタミンPは、正確にはビタミンではなくビタミン様物質となります。
脂肪燃焼作用があるかもしれない成分が含まれている
トマトに含まれる「13-OXO-ODA」という成分は、脂肪燃焼効果がある可能性があります。この成分は、腸内の温度を上昇させたからエネルギー代謝を促進していると思われ、ダイエットにいい!などと報道されたことがあります。
しかも、生のトマトよりもトマトジュースに多く含まれていると考えられます。しかし、この成分の作用についてはまだマウスにおける実験で示されただけで、人間や犬において効果があることはまだ証明されていません。
ベータカロテンが含まれている
ベータカロテンは抗酸化作用があり、疲労回復などにも効果があります。ベータカロテンはトマトの赤い色のもととなっている色素で、カロテノイドと総称される物質の一つです。犬の体内でビタミンAに変換されます。更にトマトジュースには、別のカロテノイドであるリコピンという成分も豊富で、高い抗酸化作用が期待でき、老化を防ぐ効果も期待できます。
カリウムが含まれている
カリウムは体内の水分量に関係し、カリウムを多く摂取すると尿からの排泄が促され血流を良くする効果があります。トマトジュースを飲ませて水頭症の症状が改善したという例があるとの記事を多くみかけますが、トマトジュースが利尿剤としての役割を果たしたのかもしれません。
水頭症は、脳の中にある空間(脳室)や脳と頭蓋骨の間のすき間に、脳脊髄液が異常にたまってしまって、脳を圧迫してしまう病気です。根本的な治療には手術が必要となりますが、利尿剤によって体内の水分量の調整を行い、脳脊髄液がたまり過ぎないようにします。
トマトジュースによる水頭症の治療法が確立されているわけではありませんし、カリウムは摂り過ぎもよくありませんので、実際に何らかの持病をもっている場合は、与えてもいいかどうかはしっかりと獣医師に確認を取るようにしてください。
犬がトマトジュースを飲むその他のメリット
犬がトマトジュースを飲むと、栄養面で多くのメリットがあることがわかりました。では、その他の効果はあるのでしょうか。ここでは、トマトジュースの栄養面以外のメリットを紹介します。
水分補給ができる
「愛犬の熱中症予防に水を飲ませたいけど、なかなか飲んでくれない…」という飼い主さんも多いですよね。そんなときには、トマトジュースで水分補給ができます。
トマトジュースは100gあたり94%が水分です。栄養と水分が同時に補給できるので、トマトが大好きな犬にとっては最高の食材と言えるのではないでしょうか。
また、夏バテ気味の犬や、噛む力が弱い高齢犬の水分補給としても最適です。もちろん、トマトジュースだけでは不十分なので、常に新鮮な水を飲めるように準備しておきましょう。
がんの予防効果が期待できる
トマトには、強力な抗酸化作用を持つ「リコピン」という成分が入っています。
リコピンは、がん細胞の成長を抑制する力があることが証明されていて、人間だけでなく犬への効果も期待されています。
また、血液の流れを改善して、高血圧を予防したり血管系の病気を防ぐなど、リコピンを摂ることで多くのメリットがあります。
がん予防には、肥満防止や不妊手術、定期的な健康診断などが大切ですが、毎日の食事に少量のトマトジュースを加えてみても良いかもしれません。
犬がトマトジュースを飲んでも大丈夫な量
犬にトマトジュースを与える場合どのぐらいの量を与えればいいのでしょうか?
ドッグフードを主食としている犬に主食以外の食べ物を与える具体的な量の目安としては、1日の必要なエネルギー量の10~20%以内にするのがベストです。(例:5kgほどの避妊・去勢手術済みの成犬の場合、ジュース200~400mlに相当します。ドッグフード以外に与えるものがトマトジュースだけの場合、それだけの量を与えることができることになります。
適量であっても一度に与えるのは、胃腸に負担がかかり下痢する可能性もあるので数回に分けて与えるといいでしょう。
食欲を促したり腸の調子を整えてくれる効果もあるかもしれないので、夏バテしている犬に控えめの量で与えて、食欲を増進させ普段の食事のペースを取り戻すこともできるかもしれません。
ただし、いくらトマト好きの犬だとしても、水代わりのように無制限にトマトジュースを飲ませることはやめてください。体にいい野菜ジュースであることには間違いないですが、それなりにカロリーもありますし、どんな食材でも摂り過ぎはよくありません。
あくまでも、栄養摂取の基本はフードから。そして、補助食品としてトマトジュースを活用するのがおすすめです。考えかたは、人間がサプリメントで食事の栄養を補ったり、何かおいしいもので食欲を増進させたりするのと同じ考え方でいいと思います。
犬にトマトジュースを飲ませる時の与え方
犬にトマトジュースを与えるには、水と同じようにお皿に入れても良いですし、ドライフードと混ぜて与えても良いです。ドライフードと混ぜれば、硬いフードが苦手な高齢犬にも安心して与えられます。
他の野菜も好んで食べるようなら、野菜スープにしてあげても良いでしょう。ただし、調味料や添加物が入っているインスタント食品は与えてはいけません。
また、完熟トマトを加熱して、ミキサーにかけてから与える方法もあります。トマトに含まれる「リコピン」は、加熱すると吸収率がアップするため、犬の健康のためにも出来るだけ加熱するようにしましょう。
緑色の未熟なトマトには、毒性のある「トマチン」という成分が含まれています。少量食べただけでは中毒になることはありませんが、必ず完熟トマトを使うようにしてください。
犬にトマトジュースを与える時の注意点
初めてトマトジュースを与える場合や、普段から与えている飼い主さんでも、犬の体調や持病によっても注意する点があります。簡単にまとめましたので確認しておきましょう。
与えすぎると持病を悪化させたりすることがある
トマトジュースの与えすぎはカリウムの過剰摂取となる可能性があります。腎臓病や心臓病の犬がカリウムを過剰にとりすぎると、心臓や腎臓に負担がかかり病状を悪化させる可能性があるので注意が必要です。
アレルギー症状を起こす可能性がある
犬でのトマトアレルギーは非常に稀だと考えられますが、アレルギー症状として、下痢や体の痒み、湿疹などの症状がでることがあります。初めて飲ませる場合はもちろんですが、体調が悪い時などは症状が出やすいこともあるので注意してください。
また、トマトに含まれるアレルゲンはスギ花粉に類似した構造を持ち、スギ花粉にアレルギーを持つ人がトマトを食べた場合、口腔内にアレルギー症状(腫れやイガイガ感など)を起こすことがあり、口腔アレルギー症候群(OAS)として知られています。
トマトを食べてOASを起こしたと考えられる犬についての報告もあり、スギ花粉のアレルギーをもつ犬の場合は、トマトを食べるとOASを起こす可能性が考えられます。
もし心配な場合は、トマトジュースを飲ませる前に獣医師に相談することをおすすめします。飲ませた後で変わった様子があればすぐに病院の診察を受けましょう。
【犬のOASについての論文】
Fujimura, M., Ohmori, K., Masuda, K., Tsujimoto, H., & Sakaguchi, M. (2002). Oral allergy syndrome induced by tomato in a dog with Japanese cedar (Cryptomeria japonica) pollinosis.
The Journal of veterinary medical science, 64(11), 1069–1070.
https://doi.org/10.1292/jvms.64.1069
※この報告では、4~10月に重度の皮膚炎が見られる犬で、アレルギー検査ではスギ花粉とトマトに対して陽性反応が見られ、生のトマトを与えた際にOASと考えられる症状が見られたそうです(トマトジュースではOASの症状は見られなかったそうです)。
手作りの食事に加える場合は与すぎに注意する
手作りレシピで犬の食事をつくる飼い主さんも多くいます。トマトジュースでアレンジするのもとても食欲をそそりそうですよね。ただし、食事を毎回トマトジュースでアレンジするなどの与え方はさけましょう。
食事と一緒に与える水分量が多すぎると、水分で満腹になり、食事を食べきれない場合に摂取すべき必要カロリーや様々な栄養素がとれなくなることがあります。手作り食の場合、正しく計算したカロリーや栄養をきちんと摂取できるように、ドッグフードを主食としている場合はそれ以外の食材を与え過ぎないようにしましょう。
フードに水分としてプラスする場合は、カサが増えて満腹感が増したり水分摂取量が増えるなど良いこともありますが、逆に水分を摂り過ぎたりその影響で食べきれなくなることがないように注意した方が良いでしょう。
まとめ
トマトジュースは犬に与えて大丈夫です。そして栄養としては、
- ビタミン各種
- ベータカロテン、リコピンなど
- カリウム
など、さまざまな栄養素が含まれています。トマトジュースはトマトよりも調理が簡単で手軽に与えられますが、与える量にも十分注意する必要があることを中心にまとめてみました。
持病を持っている犬に与える食べ物やアレルギーについては、どの食品も気を付けるべき点なのですが、トマトジュースは特に心臓病や腎臓病の犬の飼い主さんは気を付けていただきたいと思います。
少し酸味のあるトマトは犬は苦手かな?と思っていたのですが、トマトが好き!という犬も多く驚きました。家で甘い完熟のトマトで新鮮なジュースを作ってあげたら喜んでくれそうですね。今回ご紹介した点にも注意しながら試してみても良いですね。