犬にチンゲン菜を与えても大丈夫!
チンゲン菜は、中国野菜の中でも日本人の食生活になじみが深い野菜です。白菜の仲間で、輸入された当初は色々な名前で呼ばれていましたが、農水省によって青い軸のものを「チンゲン菜(青梗菜)」、白い軸のものを「パクチョイ(白菜)」と呼ぶことが定められました。
シャキシャキした食感や甘みもあって美味しいチンゲン菜は、犬に有害な成分が入っていないので、愛犬が食べて良い野菜です。ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富なので、チンゲン菜を食べることで健康上のメリットも得られるかもしれません。
ただし、どのような食べ物でも適量や与える際の注意点を守る必要があるので、それらを十分に確認したうえで食べさせるようにしましょう。
犬がチンゲン菜を食べてもいい量
チンゲン菜を犬に1日に与えていい量は、その子の体重や活動量などによって異なります。愛犬の体に合った量を越えないように気をつけましょう。
ドッグフードを主食としている犬の場合、ドッグフード以外のものを食べる量は一日に摂取するカロリーの10%、多くても20%におさめるのが良いと一般的に言われています。
カロリーで計算するのはなかなか面倒ですが、 与える量の目安として、体重が4kg未満の超小型犬は15~20g(葉1/2)、体重が10kg以下の小型犬だと1日に30~60g(葉1枚~2枚)、体重が25kg以下の中型犬は70~120g(葉2枚~3枚)ほど食べても大丈夫です。体重が25kg以上ある大型犬になるともう少し多め、体重30kgの犬で130~140g(葉3枚~4枚)であれば与え過ぎにはならないでしょう。
基本的には愛犬の体重から適量を考えて、多すぎない量を与えれば問題はありません。体重過多の犬の場合には、理想体重から主食やその他の食べ物を与えて良い量を計算します。ただし、子犬の場合はまた消化器官が発達途中であるため、消化不良を起こしやすいかもしれません。子犬にはあまり負担になる食べ物を与えない方がいいでしょう。
チンゲン菜は、犬が必ずしも食べる必要のある食材というわけではないので、少しでも心配があるなら成犬になってから与えれば良いでしょう。
チンゲン菜に含まれる栄養素と犬への健康効果
シュウ酸やゴイトロゲンといった場合によっては気になる成分も含まれていますが、チンゲン菜は栄養豊富な野菜です。適量を守って食べれば、ドッグフードのトッピングや手作り食の食材として活用できるでしょう。
βカロテンやビタミンCが豊富で免疫力アップ
チンゲン菜が持つ栄養素の中でも、特に注目したいのがβカロテンです。強い抗酸化作用があるβカロテンの摂取は、免疫力アップやがん予防に効果的とも言われています。チンゲン菜は他の野菜と比較してもβカロテン含有量が多い食材になります。
また、チンゲン菜にはビタミンCも含まれています。ビタミンCも抗酸化作用があり、免疫力アップや皮膚や粘膜を健康に保つ効果が期待できます。
ミネラルが豊富で健康維持をサポート
チンゲン菜にはカリウムやカルシウムといったミネラルも含まれています。カリウムは、摂り過ぎを注意しなければいけない場合もありますが、体内の余分な塩分を排出してくれる働きがあります。チンゲン菜は生の状態で100gあたり260mgのカリウムを含むそうで、特別にカリウムが多い野菜ではありません。
カルシウムは、骨や歯の健康維持、体の様々な機能を正常に保つのに欠かせない栄養素です。現代日本人でカルシウム不足が問題とされていることから、カルシウムをたくさん摂取することは良いこと、とのイメージを持つ方も多いかもしれませんが、カルシウムも摂り過ぎはよくありません。
特に子犬期、その中でも大型犬・超大型犬の子犬期には、適切なドッグフードを主食としている場合にカルシウムを添加するのは避けるべきことです。もちろん、過剰でなければチンゲン菜を子犬、成犬ともに与えることができます。チンゲン菜は、100gあたり100mgと野菜の中では割と多くのカルシウムを含みます。手作り食の場合には、チンゲン菜はカルシウム源としても活用できる野菜になるでしょう。
チンゲン菜には、ビタミンKも含まれます。ビタミンKは骨にカルシウムが沈着するのに欠かせない栄養素です。他にも、たんぱく質の代謝や血液凝固にも必要となります。
また、あまり聞きなじみがない「モリブデン」というミネラルもチンゲン菜には少量ですが含まれています。モリブデンは微量元素の一つで、通称「血のミネラル」と呼ばれており、たんぱく質や鉄の代謝にかかわり、血液をつくりだすのを促す働きをしています。鉄欠乏性貧血の予防に効果のある栄養素のひとつと言われています。
グルコシノレートで炎症をストップ
チンゲン菜などのアブラナ科の野菜は「台所のドクター」とも呼ばれています。その理由の一つは、アブラナ科の野菜には、グレコシノレートというイソチオシアネートのもととなる成分が豊富に含まれ、抗炎症作用や抗がん作用が期待できると言われているからです。
炎症は様々な病気とかかわりが深く、人間では、アブラナ科の野菜をよく食べる人で死亡リスクが低いといったデータもあるようです。
またアブラナ科の野菜をよく食べる人では部分的にがんによる死亡リスクが低かったというデータもあるようで、グルコシノレートの抗炎症作用、抗酸化作用から抗がん作用があるのではないか、と言われているそうです。
《参考論文》
Mori, N., Shimazu, T., Charvat, H., Mutoh, M., Sawada, N., Iwasaki, M., Yamaji, T., Inoue, M., Goto, A., Takachi, R., Ishihara, J., Noda, M., Iso, H., Tsugane, S., & JPHC Study Group (2019). Cruciferous vegetable intake and mortality in middle-aged adults: A prospective cohort study. Clinical nutrition (Edinburgh, Scotland), 38(2), 631–643.
https://doi.org/10.1016/j.clnu.2018.04.012
犬にチンゲン菜を与える時の注意点
犬が食べても大丈夫なチンゲン菜にも、与える時に注意したい点がいくつかあります。体にいい成分が含まれているからといって、いつでもどれだけでも与えて良いわけではないことを理解し、愛犬の体調や体質に合うかどうか考えたうえで食べさせてください。
シュウ酸に注意
チンゲン菜にはシュウ酸が含まれています。シュウ酸は尿路結石の原因となることがある成分です。シュウ酸は水に溶けるので、茹でて水にさらすとその量を減らすことができます。
チンゲン菜に含まれるシュウ酸の量はそれほど多いわけではありませんが(ほうれん草に比べればかなり少ないと考えられます)、シュウ酸カルシウム結石の治療や予防が必要な犬ではチンゲン菜を積極的にあげない方が良いのでは、と考えられます。場合によっては全く与えない方が良いかもしれませんので、持病がある場合には指示されたもの以外の食べ物を犬に与えて良いかかかりつけの獣医師に相談すると良いでしょう。
ゴイトロゲン
ゴイトロゲンとは、甲状腺ホルモンの産生に干渉して甲状腺腫を引き起こしてしまう作用のある成分の総称です。人間において、もともとヨウ素の摂取量が不足している人でより甲状腺腫の発生率を高めたり、非常識なほどに大量の生のアブラナ科野菜を長期間にわたって食べ続けた人で甲状腺機能低下症を引き起こしたことがあると報告されています。アブラナ科の野菜には、ゴイトロゲンの一つであるグルコシノレートが含まれます。グルコシノレートは、酵素によってゴイトロゲン作用を持つイソチオシアネートに変換されます。
ただし、これらの条件は日本で通常の生活を送っている犬にはあてはまりませんし、甲状腺ホルモンの合成阻害が示された動物実験では、普通では摂取することのできない量のチンゲン菜に相当するほどの高濃度のゴイトロゲンが投与されています。しかも、チンゲン菜を加熱すればイソチオシアネートへの変換は起こらないので、仮に甲状腺への影響が心配だとしても加熱して与えれば問題ないと考えられます。
念のため、甲状腺機能低下症を治療中の犬では、チンゲン菜を与えて良いかかかりつけの獣医師に確認したり、アブラナ科ではない野菜を与えると良いのではないでしょうか。
健康に問題のない犬でも、またどんな食材や栄養素でも、過剰摂取はよくありません。チンゲン菜を与える場合にも、普段の餌に少し混ぜる程度、または手作り食の材料の一つとして色々な食材と併せて与えるのがよいでしょう。
繰り返しになりますが、チンゲン菜は十分に茹でて与えましょう。人が食べる場合と同様の茹で加減で良いと思います。手作り食の場合には、少量の油で炒めるのも良いでしょう。きちんと加熱することで、胃腸への負担も少なくなります。茹でる時間が長すぎるとビタミンCは流れ出てしまいますが、βカロテンは加熱した方が、さらに油炒めなどで油と一緒に摂取した方が吸収率が良くなります。
犬用の手作りフードとして、チンゲン菜と豚肉で雑炊をつくったり、チンゲン菜と鶏肉で中華ご飯をつくったりしている飼い主さんもいます。健康のために、このような適量のチンゲン菜を加熱調理したレシピに挑戦するのもおすすめです。
食物アレルギーに注意する
人間において、チンゲン菜に対するアレルギーは非常に稀だそうです。犬でもチンゲン菜に対するアレルギーの報告はこれまでのところないようですが、慣れない食べ物を与える際は様子を見ながら与えましょう。また、嘔吐や軟便、下痢、体の痒みや脱毛などの症状が、何かを食べたタイミングと関係がありそうなら、食物アレルギーを疑うことができるでしょう。
はじめて食べさせる時には、ごく少量を与えてみましょう。その後、嘔吐や下痢、アレルギーではなくても、体質や食べ合わせによって何かしらの問題が起こることもあります。また食物アレルギーであれば、初めて食べた時は何の問題も起きず、2~3回目、または継続的に食べさせたときに症状が出てくるようになります。人間の食べ物を与えた後、初めての食材を与えた際は体調に変わりがないかいつも以上に気にしてあげてください。
チンゲン菜を食べさせた後、何か体調の異変が起きた場合は、それ以上チンゲン菜を食べさせるのはやめましょう。症状の程度や続く期間によっては、早めに動物病院で診察を受けてください。
農薬が心配な場合には、犬に与える前に流水でよく洗ってあげましょう。また、内側にある葉のほうが農薬の心配が少ないかもしれません。
まとめ
βカロテンやビタミン、ミネラルなどの健康に良い栄養素を含むチンゲン菜は、人間だけでなく犬にも良い野菜です。
ただし、犬の体に合った適量を守ることや、必ず加熱してから与えるなどの気をつけるべきポイントもあります。子犬や尿路結石に問題を抱えている犬には食べさせないほうが安心でしょう。甲状腺の病気がある場合には、茹でたものを適量であれば与えても問題ないかもしれませんが、敢えてチンゲン菜を与える必要はありませんし、念のためかかりつけの獣医師に与えて良いかを確認すると良いでしょう。
愛犬が美味しく栄養を摂取できるように、餌にトッピングしたり犬用フードを手作りするのに、チンゲン菜を活用することができます。飼い主さんも愛犬も、正しい食生活を送って一緒に健康体を目指しましょう。
《参考記事》