犬にマスカットを与えるのは絶対にダメ!
マスカットや様々な種類のぶどうは、ワインにされたり、とても甘くておいしい果物として食べられたり、干してお菓子の材料に使われたりしますよね。良い香りに釣られてマスカットを欲しがる犬も多いのではないでしょうか?
しかし、その可愛らしい目で訴えられて犬にマスカットをあげてしまう行為はとても危険です。
マスカットやぶどうは中毒を起こす果物
マスカットをはじめとしたぶどうは犬にとっては中毒を起こす果物で、日本でも近年、SNSによって犬がマスカットやデラウェア種のぶどうを摂取すると急性腎不全を起こしてしまうといった内容が話題になりました。
急性腎不全とは、何らかの理由で急に腎臓が正常に機能しなくなって作られる尿の量が少なくなる、あるいは全く尿が作られなくなる状態で、尿毒症を引き起こし命にもかかわります。
最悪の場合、死亡するケースもある
アメリカのASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)のAPCC(動物中毒事故管理センター)が1999年頃から、ぶどうやレーズンを食べた犬で急性腎不全が起こることに気付き始めたそうです。
ASPCAは調査を続け、2003〜2004年の1年間では、ぶどうやレーズンを摂取した140頭のうち50頭で何らかの症状が現れ、その内の7頭が死亡した、と2004年4月に報告しています。
犬にとってマスカットはぶどうと同じ危険な果物
ぶどうによる中毒はどの品種のぶどうでも起こるので、マスカットも犬に与えてはいけません。また、ぶどうの実だけではなく、皮だけを食べてしまっても同じように中毒を起こします。
日本では、体重4.2kgのミニチュアダックスフンドがピオーネの皮のみを一房分摂取してしまった翌朝から嘔吐をし、急性腎不全に対する治療を行ったものの、食べてから11日後に死亡した例もあります。
また、体重2.5kgのマルチーズがデラウェアを1房(約70g)食べ、その5時間後から嘔吐が始まり4日後に死亡した例や、体重4.25kgのミニチュアダックスフンドがキャンベルアーリー種のぶどうを2/3房(約230g)食べてしまい、やはり5時間程してから嘔吐や下痢が始まったが治療によって回復した例が報告されています。
参考文献:日本におけるぶどう中毒の症例報告の例|塚田悠貴(2013)
参考文献:ブドウ摂取後に急性腎不全を発症して死亡した犬の1例|伊藤輝夫(2010)
参考文献:ぶどう中毒を発症した犬の考察 岩手県獣医師会会報|藤森康至(2018)
ドライフルーツ(レーズン)や加工品も与えるのはNG!
では、ぶどうを干して作られるレーズンやマスカットを加工して作られたグミやジャム、ジュースは問題ないのかと言うと、答えは「NO」です。ぶどう中毒の原因は特定されておらず、急性腎不全を起こしてしまうと命にかかわります。
そのため、ぶどうを原料として使ってどんな加工品のどのくらいの量なら大丈夫とは現段階では言えず、例え少量であったとしてもマスカット果汁やぶどう果汁が使われている加工品やドライフルーツなどを誤って与えてしまわないよう、また盗み食いをされてしまわないように注意しましょう。
また、例えばレーズンパンなどはレーズンが入っていることがすぐに分かりますが、レーズンが入っているとは一見分かりにくい洋菓子もあります。こういった点からも、人間の食べ物の中でも菓子類は特に犬に与えてはいけません。
犬がマスカットを食べたときの症状
では、続いて「ぶどう中毒」にはどのような症状があるのかをお伝えします。
そもそも、なぜ犬がマスカットやぶどう、レーズンを摂取すると急性腎不全になるのかは未だに解明されていません。ただ、ぶどうについていたカビ毒や農薬、ビタミンD類似物質、重金属や環境中の毒物などが原因物質として考えられていますが、どれも証明はされていません。
ぶどう中毒の症状
ぶどう中毒の症状には、下痢や嘔吐の他に、神経症状として震えや痙攣、運動失調なども見られますが、その主な死因は「急性腎不全」です。急性腎不全は早急に適切な治療を行わないと、尿毒症を引き起こし命にかかわります。
ぶどう中毒の症状としては、まずぶどうやレーズンを食べてしまってから数時間~12時間以内に下痢や嘔吐が見られると言われています。とはいえ、当然その間だけを気を付けていればいいという訳ではありません。
主な初期症状が表れるのは、マスカットを食してから6時間~12時間までの間に、次の症状が発症すると言われています。急性腎不全による症状は、食べてしまってから24時間以内に見られることもあれば数日経ってから現れる場合もあるそうです。
食欲や元気がなくなり、脱水を起こしたり震えたりすることもありますし、おしっこが出ていないことに飼い主が気付く場合もあります。
ぶどうやレーズン、それらの加工品を犬が食べてしまったら、またその疑いがある場合も、すぐにかかりつけの動物病院に電話をして、できるだけ早く連れていきましょう。
ぶどう中毒の原因物質についての補足
上記の通り、犬のぶどう中毒の原因物質はまだ特定されていませんが、現在1つの有力な候補として考えられている原因物質は酒石酸です。
これは、酒石酸水素カリウムを含んだ手作り粘土を食べてしまった犬が、ぶどう中毒と同様の症状を示したことから推測されているもので、2021年4月にASPCAから報告されています(https://doi.org/10.2460/javma.258.7.704)。
酒石酸はぶどうやその加工品に含まれていますが、ぶどうに含まれる酒石酸の量は品種や生育条件、熟れ具合などによって変わるそうです。
犬のぶどう中毒では、中毒症状を現したり死亡した犬の体重と食べた量が必ずしも相関していなかったのですが、それも犬のぶどう中毒の原因物質が酒石酸であれば説明がつくと考えられています。
酒石酸とは聞きなれない物質ですが、製菓材料としてクリームターターの名前でも販売されており、ベーキングパウダーにも含まれています。
犬にとってのマスカットの危険な摂取量
どのくらいの量のぶどうを食べてしまうと「ぶどう中毒」になるのかについては、原因物質が特定されていない以上、どれも「体重〇kgの犬がぶどうをこのくらい食べたら急性腎不全を起こした、または死亡した」という実際にあった事例から計算されただけであり、このくらいなら大丈夫、このくらい食べてしまうと中毒を起こす、と言える数字はありません。
1つはっきりしていることは、食べてしまったぶどうやレーズンの量が多いほど中毒を起こしたり死亡率が高いとは限らず、どのくらいの量を食べて中毒になったか、または死亡してしまったかは事例によりバラバラだということです。
中毒を起こした量の事例
ただし、食べてしまったぶどうの量が分かっている事例の中では、体重1kgあたり約19.6gのぶどうを食べて中毒を起こした例があるそうです。
この量をマスカットにあてはめると、マスカット1粒の重さは10g~12gなので、体重2kgの超小型犬であれば4粒食べただけでもぶどう中毒になる危険性があると考えられます。
しかし、ぶどう中毒とは断定できないものの体重8.2kgの犬が4~5粒のぶどうを食べて死亡した例もあるそうで、もしその犬がぶどう中毒で死亡したのだとしたら、非常に少ない量のぶどうで中毒になったことになります。
レーズンは乾燥されていて成分が濃縮されている分、ぶどうよりも少量で中毒を起こします。体重1kgあたり2. 89gのレーズンでぶどう中毒を起こした例があるそうです。
レーズン1粒は0.5~0.8g程なので、体重2kgの犬でしたら4~6粒のレーズンでぶどう中毒を起こす可能性があることになります。
犬がマスカットを食べたときの対処法
マスカットは犬にとって危険な食べ物です。家の中や散歩のときなど、誤飲しないように日頃からおおげさかな?というくらいの対策をしておくことが大切ですが、それでも誤って食べてしまったときはどのような対処法があるのでしょうか。
すぐに動物病院へ
ぶどうの中毒症状は、食べてから2~5時間内に症状が出るといわれています。 嘔吐、下痢、腹痛、食欲不振、ぐったりするなどの症状が見られた場合は、すぐに動物病院に連絡しましょう。
まだ症状が出ていない場合も、様子を見ずに動物病院を受診しましょう。受診の際は、マスカットを食べた時間、食べた量、現在の様子(中毒症状の有無など)を必ず伝えましょう。
初めて行く動物病院の場合は、既往歴や現在服用している薬の有無、体重等の情報、病院までの時間なども必要です。
いつ食べたかわからない場合
犬に留守番をさせているときなどに食べてしまったなど、いつ食べたかわからない場合、まだ症状が出ていなくてもすぐに動物病院に連絡しましょう。
急性腎不全は、発見が遅れ、治療開始が遅くなると命を落とす可能性のある危険な病気です。少しでも早く動物病院を受診することが大切です。
救急対応可能な動物病院を探しておく
犬が食べたマスカットの量が多い場合には、症状が出ていなくても治療は一刻を争う場合があります。夜間でかかりつけの病院が閉まっている場合は、夜間や休日など救急治療可能な動物病院を事前に調べておくのがおすすめです。
自宅でできる応急処置はない
犬がマスカットを食べてしまったら、飼い主さんが自宅でできる応急処置はありません。
塩を飲ませて吐かせるなどの対応は、塩中毒なども引き起こす危険性があります。自己流の対応は大変危険です。必ず獣医師の指示を仰ぐことをおすすめします。
マスカットは犬が届かないところに置く!
秋の旬の味覚として人々に親しまれるぶどうやマスカットですが、犬にとっては危険な食べ物である以上、保管場所には細心の注意を払う必要があります。
飼い主さんがぶどうやレーズンを、またレーズンが入ったパンやお菓子を犬に与えてしまったりする以外にも、犬が盗み食いをして「ぶどう中毒」になることがあります。普段食卓を家族で囲んで居る際に、大人しく足元で眠っていられるような子であっても、油断してはいけません。
基本的に生のぶどうやマスカットは、冷蔵保存するのが一般的だと思うので、すぐに食べないという場合は、冷蔵庫にしまっておけば問題ないでしょう。
また、その日のうちに食べようと考えていた場合や保存性がある程度効くマスカット入りゼリーやグミといった加工品などは、そのままテーブルの上に置きっぱなしにして外出してしまうなどといったことがないようにしましょう。
レーズンそのものではなく、マスカット入りのゼリーやグミがどのくらい犬にとって危険なものなのかはまだ分かりませんが、ぶどうが犬にとって毒性のある食べ物であることが分かっている以上、そのような加工品も犬は食べない方が良いでしょう。
仮にパッケージに包まれていたとしても、犬が興味を持ったり「食べたい」と思ってしまえば安全ではありません。パッケージを壊して食べてしまいます。マスカット入りのお菓子ではなくても、犬がいるご家庭では、食べ物は犬が絶対に食べられない場所に保管しましょう。
また、食べ終わった後のマスカットの皮なども、匂いが漏れないような密閉できる袋に入れ、可能であればすぐに処分するといった対応を心掛けてください。家の中のごみ箱に捨てる場合は、犬が近づけない場所にごみ箱を置きましょう。
まとめ
今回は、犬にとってのマスカットをはじめとしたぶどうやレーズンの危険性についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
マスカットなどのぶどうは、栄養豊富で甘みにも富んでいるため、犬にとっても魅力的に映る果物かもしれません。小腹を空かせていたり、食いしん坊の子だったりすると、その匂いに釣られたりして飼い主さんが食べているものをもらいに来てしまうこともよくあるでしょう。
しかし、ぶどうは犬にとって毒性のある物質を含む食べ物です。どの物質が原因なのか解明されていないこと、ぶどう中毒によって急性腎不全を起こすと死亡することもあることを考えると、犬にぶどうを与えていけませんし、盗み食いやごみ箱漁りも絶対にさせないようにする必要があります。
保管する場合も犬の手や口が絶対に届かないところに置き、ごみとして捨てたぶどうの皮も犬に絶対に食べられないようにしましょう。飼い主さんの管理や生活環境の整備が重要です。