イングリッシュセッターの歴史
 
- 犬種名:イングリッシュセッター(English Setter)
- 原産国:イギリス
- 分類:中型~大型犬(鳥猟犬/ガンドッグ)
- 体高:オス 65〜68cm/メス 61〜65cm
- 体重:オス 29〜36kg/メス 20〜30kg
- 被毛:ダブルコート(長毛・飾り毛あり)
- 毛色:ベルトン(ブルー・オレンジ・レモン・レバー・トライカラーなど)
- 性格:穏やか・愛情深い・活動的・知的・社交的
- 寿命:10~14歳
- 役割:鳥猟犬(特にセッティング=獲物の位置を知らせる役割)
イングリッシュセッターは、14〜15世紀ごろのイギリスで誕生したとされる古い鳥猟犬の一種です。スパニエル系をもとに、スペイン原産のポインター系などの血統を掛け合わせて発展しました。
銃が普及する以前の狩猟では、獲物(主に鳥)を見つけると伏せて位置を知らせる「セット(set)」の動作を行い、ハンターが網をかける手助けをしていました。これが「セッター」という名称の由来です。
19世紀にはエドワード・ラヴェラック氏が改良を重ね、気品ある外見と優れた作業能力を併せ持つ系統を確立。現在のイングリッシュセッターの基礎を築きました。
日本では頭数が少なく、主に犬舎を構える専門ブリーダーや狩猟愛好家の間で飼育されています。その美しい姿と忠実な性格から、今も世界中で根強い人気を誇る犬種です。
イングリッシュセッターの特徴
 
イングリッシュセッターの外見は、美しい飾り毛と気品ある立ち姿が最大の魅力です。
猟犬として活躍してきた歴史があるため、筋肉質で引き締まった体つきと、家庭犬としても愛されるエレガントな姿が共存しています。
また、よく比較されるアイリッシュセッターとの違いとして、アイリッシュが単色でスリムな印象なのに対し、イングリッシュはベルトンと呼ばれる斑点模様の被毛を持つ点が挙げられます。
被毛
イングリッシュセッターの被毛は、長く柔らかい上毛(トップコート)と、密度のある下毛(アンダーコート)からなるダブルコートです。特に耳や胸元、脚の後ろ側、尾にはフェザリングと呼ばれる豊かな飾り毛が生え、優雅さを強調しています。
一方で抜け毛は比較的多く、特に春と秋の換毛期には大量の毛が抜けるため、日常的なブラッシングは欠かせません。週に数回、スリッカーブラシやコームを用いて丁寧に手入れをし、換毛期にはラバーブラシで抜け毛を効率よく取り除くと効果的です。
顔立ち・尾の形状
イングリッシュセッターの顔立ちは、知的で優しげな印象を与えます。
マズル(鼻先)は長めで、額から鼻筋にかけての段差(ストップ)は比較的明瞭です。長く垂れ下がった耳には豊かな飾り毛が生え、尾も付け根から先端に向けて細くなりながら美しい飾り毛が特徴的に伸びます。
これらの飾り毛は月1回程度のトリミングで整えることで、見た目を美しく保ちながら毛玉や汚れの防止にもなります。
体格
イングリッシュセッターの体型は筋肉質で均整が取れており、狩猟犬として培われた高い運動能力を誇ります。
胸が深く腰がやや高い体型で、広大なフィールドを長時間走り回るスタミナと瞬発力を備えています。運動不足はストレスや問題行動の原因となるため、日常的に十分な運動時間を確保する必要があります。
イングリッシュセッターの性格
 
イングリッシュセッターは、家庭内では穏やかで愛情深く、外では活発に動き回る二面性を持つ犬です。
人とのつながりを大切にし、家族に深い愛情を示しますが、外では鳥猟犬としての本能が強く表れ、好奇心旺盛でエネルギッシュに行動します。
知的で学習能力が高い一方、自立心もあり、時に頑固な面を見せることもあります。そのため、しつけは一貫性を持って行うことが大切です。
感受性が豊かで、厳しい叱責よりも褒められることで伸びるタイプです。十分な運動とスキンシップを通じて心身が満たされると、穏やかで従順なパートナーになります。
愛情と時間をしっかり注げる飼い主にとって、イングリッシュセッターは優しく忠実な家族の一員となるでしょう。
イングリッシュセッターの大きさ
 
イングリッシュセッターは中型〜大型犬に分類され、均整の取れた筋肉質な体格を持ちます。成犬の平均体高はオスで65~68cm、メスで61~65cm、体重はオスが29~36kg、メスが20~30kgほどです。
子犬の成長は早く、生後半年〜1年で骨格がほぼ完成し、1歳半〜2歳頃にかけて筋肉が発達して成犬らしい体つきになります。子犬期には過度な運動を避け、関節に負担をかけないよう注意が必要です。
また、室内飼育も可能ですが、体格が大きいため広めの生活スペースと、滑りにくい床など安全面の配慮が求められます。
イングリッシュセッターの毛色の種類
 
イングリッシュセッターの毛色は非常に特徴的で、「ベルトン」と呼ばれる白地に細かな斑点模様を持つのが基本です。
子犬の頃は白一色に見えますが、成長につれて徐々に美しい模様が現れます。成犬になる頃には個体ごとに異なる魅力的な色合いが完成します。
主に公認されているベルトンカラーは、以下の通りです。
- ブルー・ベルトン
- 白地に黒色の細かな斑点模様が混ざり合い、白黒のコントラストが美しい色合い。
- オレンジ・ベルトン
- 白地に鮮やかなオレンジ色の斑点が散りばめられ、明るく華やかな印象。
- レモン・ベルトン
- 白地に淡い黄色(レモン色)の柔らかな斑点があり、優しい色合い。
- レバー・ベルトン
- 白地に濃い茶色の斑点模様が入る、落ち着いた印象の色合い。
- トライカラー
- ブルー・ベルトンまたはレバー・ベルトンの模様に加え、目の上、マズル(口周り)、脚などにタン(黄褐色)のアクセントが入る配色。
被毛の色柄は犬の個性を引き立てますが、団体や国によって認可される色の範囲が多少異なる場合があるため、特定の目的(ドッグショー出場など)がある場合は事前の確認が推奨されます。
また、白の面積が多い個体は清潔感がありますが、汚れが目立ちやすいため、日常的なお手入れが重要です。
イングリッシュセッターの価格相場
 
イングリッシュセッターの子犬の平均価格は25万〜30万円ほどです。親犬がチャンピオン血統だったり、人気の毛色(トライカラーやオレンジ・ベルトンなど)の場合は、相場より高くなることもあります。
国内ではペットショップでの取り扱いが少なく、多くは専門ブリーダーや犬舎から直接迎える形になります。その際は販売価格だけでなく、健康診断やワクチン接種、マイクロチップ装着などの初期費用が別途必要になる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
イングリッシュセッターのブリーダーを探す方法
 
イングリッシュセッターは国内での飼育頭数が少なく、ペットショップで見かける機会はほとんどありません。迎え入れる際は、犬種の特性を理解している専門ブリーダーから直接譲り受けるのが一般的です。
ブリーダーを探す際は、インターネットのマッチングサイトのほか、ジャパンケネルクラブ(JKC)や犬種クラブに問い合わせる方法も有効です。
購入を検討する際は、実際に犬舎を訪問して、親犬の健康状態や性格、飼育環境を自分の目で確かめることが大切です。特に、股関節や肘関節の評価、PRA(進行性網膜萎縮症)やBAER(聴力)検査の実施状況を確認すると安心です。
また、保護団体や里親募集から成犬や保護犬を迎える選択肢もあります。その場合は、性格や生活歴を丁寧に聞き取り、家庭との相性を慎重に判断しましょう。
どの方法で迎える場合も、健康と信頼を第一に、責任ある飼い主として準備を整えることが重要です。
イングリッシュセッターの飼い方
 
イングリッシュセッターは猟犬としての歴史を持ち、運動量が非常に多い犬種です。
そのため、飼育環境を整える際には広々としたスペースの確保や毎日の散歩など、飼い主が積極的に運動欲求を満たしてあげることが重要になります。
また、適切な環境を用意することで健康や精神状態が安定し、結果として飼いやすさにもつながります。
運動量
イングリッシュセッターは毎日十分な運動を必要とします。1回60分程度の散歩を1日2回、ジョギングや広い場所での自由運動などを取り入れ、日常的にエネルギーを発散させるようにしましょう。
運動が不足するとストレスが蓄積され、無駄吠えや破壊行動などの問題行動につながることがあります。狩猟犬として培われた本能を刺激するノーズワークやボール遊びなども効果的です。
飼育環境
イングリッシュセッターは家族との触れ合いを好むため、屋外飼育よりも室内での飼育が望ましい犬種です。ただし、中型~大型の体格であるため、室内でもゆとりあるスペースを確保する必要があります。
また、床が滑りやすいと関節への負担や怪我のリスクが高まるため、カーペットやマットなどの滑り止めを敷くなど、安全面の工夫を行いましょう。
散歩後の注意点
イングリッシュセッターの被毛はダブルコートのため寒さには比較的強い犬種ですが、濡れた被毛がそのまま冷えると体調不良の原因となります。
雨や雪の日の散歩後は、速やかに被毛をタオルやドライヤーで乾かし、冷えによる体調悪化を防ぐよう心がけましょう。特に耳や胸、腹部の飾り毛は濡れやすく、乾きにくいため注意が必要です。
日常のお手入れ
長く美しい被毛は、毎日のブラッシングに加えて、月1回程度の定期的なトリミングを行うことで清潔で整った状態を維持できます。
特に耳や胸元、尾の飾り毛は毛玉になりやすいため、プロによる部分カットを行うとケアがしやすくなります。定期的なお手入れは被毛の美しさだけでなく、皮膚トラブルの早期発見にも役立ちます。
イングリッシュセッターのしつけ方
 
イングリッシュセッターは賢く感受性が高いため、しつけでは信頼関係を築くことが何より大切です。厳しく叱るよりも、できたことを褒めて伸ばす「ポジティブトレーニング」が効果的で、良い行動を繰り返し定着させることができます。
猟犬の本能が強いため、散歩中に鳥や小動物に気を取られることがあります。特に子犬のうちから「呼び戻し」の練習を根気強く行い、名前を呼んだら戻ってくる習慣をつけましょう。初期の段階では安全のためロングリードを使い、段階的に難易度を上げると効果的です。
また、運動不足だと集中力が落ちてしつけが入りにくくなるため、十分な運動時間を確保することも重要です。イングリッシュセッターは愛情深く学習意欲の高い犬種なので、楽しみながら訓練を続ければ、穏やかで従順なパートナーへと成長します。
イングリッシュセッターの寿命
 
イングリッシュセッターの平均寿命は一般的に10歳〜14歳程度とされ、中型〜大型犬としては比較的長寿な傾向があります。ただし、寿命は個体差や飼育環境により大きく影響を受けます。
健康的な生活を送り、長生きするためには日常的な運動と栄養バランスに優れた食事、そして定期的な健康診断が欠かせません。
また、美しい被毛や皮膚、耳のケアをこまめに行うことでも、病気の早期発見につながります。運動不足や肥満、ストレスを避け、愛犬が心身ともに健康な状態を維持できるよう日頃から心がけましょう。
イングリッシュセッターのかかりやすい病気
 
イングリッシュセッターは、一般的な犬種がかかりやすい病気のほかに、大型犬や猟犬特有の遺伝的疾患にかかるリスクがあります。
愛犬が長く健康的な生活を送るためには、これらの病気について十分な知識を持ち、定期的な健康診断や日頃の健康管理を徹底することが大切です。
股関節形成不全
股関節形成不全は大型犬に多く、関節が正常に発達せず痛みや歩行障害を引き起こす病気です。
遺伝的要因が大きいため、ブリーダーから子犬を迎える際には親犬の検査結果を確認しましょう。早期発見と適切な体重管理で進行を抑えることができます。
胃捻転
胸が深い体型の犬に多く見られる胃捻転は、胃がガスで膨らんでねじれてしまう疾患で、緊急性が非常に高く、短時間でショック状態に陥ります。
予防として食後は激しい運動を控え、食事を1日2〜3回に分割することが有効です。
進行性網膜萎縮症(PRA)は
進行性網膜萎縮症(PRA)は網膜が徐々に萎縮し、最終的に失明に至る遺伝性の病気です。
初期症状として夜間の視力低下(夜盲症)が現れるため、定期的な眼科検診を受けて早期に発見し、適切なケアを行うことが推奨されます。
甲状腺機能低下症
中高齢以降に発症しやすい甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足して新陳代謝が低下する病気です。
「元気がない」「太りやすい」などの症状が現れますが、血液検査による早期診断と適切な投薬治療で管理することができます。
外耳炎や皮膚炎
垂れ耳や豊かな飾り毛のあるイングリッシュセッターは、外耳炎や皮膚炎になりやすい傾向があります。
こまめなブラッシングや定期的な耳掃除を習慣化し、日頃から被毛や皮膚、耳の中の状態を確認して清潔を保つことで予防が可能です。
先天性難聴
イングリッシュセッターは先天性難聴のリスクも抱えており、生後間もない段階でのBAER(聴覚脳幹誘発反応)検査によって、聴力に問題があるかどうかを判断できます。
迎える際にはこの検査結果を確認することをおすすめします。
まとめ
 
イングリッシュセッターは、穏やかで人懐っこい性格と活発でエネルギッシュな猟犬気質の両面を併せ持った犬種です。
家庭犬として飼いやすいと感じる方も多い一方、毎日2時間以上の散歩や定期的な運動が欠かせないため、十分な時間を確保できる家庭が適しています。また、美しいダブルコートの被毛は日々の丁寧なケアやトリミングが必要です。
しつけにおいては強く叱るより褒めて伸ばすことが重要であり、信頼関係を築くことで愛犬の良さが引き出されます。運動と愛情をしっかり与えられる環境であれば、イングリッシュセッターは素晴らしいパートナーとなるでしょう。



 
				 
					 
		 
				 
				