ボルドー・マスティフの特徴
- 正式名称: Dogue de Bordeaux(ドーグ・ド・ボルドー/ボルドー・マスティフ)
- 原産国:フランス
- 分類:超大型犬(モロサス系)
- 体高:オス 60〜68 cm/メス 58〜66 cm
- 体重:オス 50 kg以上/メス 45 kg以上(大型個体は70 kg超)
- 被毛:短毛・滑らかで光沢あり
- 毛色:フォーン(濃淡の差あり/マスクは黒・茶・なしのいずれか)
- 性格:穏やかで忠実・警戒心が強いが温厚
- 寿命:5〜8年(近年は10年を超える個体も)
- 役割:家庭犬・番犬・護衛犬
ボルドー・マスティフ(正式名:ドーグ・ド・ボルドー)は、その堂々とした外見と存在感が際立つ超大型犬です。
がっしりとした骨格、たくましい筋肉質な体格は、古くから力仕事や番犬として活躍した歴史を物語っています。その迫力ある見た目の詳細を、体格や被毛の特徴、顔立ちに分けて解説します。
力強く堂々とした超大型犬
ボルドー・マスティフはFCI(国際畜犬連盟)の基準によれば、オスで体高60~68 cm、最低体重50 kg、メスで体高58~66 cm、最低体重45 kg以上とされています。
中には70 kgを超える個体もおり、非常に重量感がある犬種です。その巨体から醸し出される迫力は、この犬種の最大の魅力の一つです。
なめらかな短毛と温かみのある毛色
被毛は細く短毛で、光沢があり滑らかな手触りをしています。換毛期はありますが、抜け毛の量は短毛種としては中程度で、週に1〜2回のブラッシングによって管理可能です。
基本の毛色は単色(セルフカラー)のフォーンで、濃い赤褐色(マホガニー)から薄い黄褐色(イザベラ)まで幅があります。また個体によって、鼻先に黒色の「ブラックマスク」や茶色の「ブラウンマスク」が見られる場合もあります。
愛嬌ある顔立ちとよだれの多さ
ボルドー・マスティフの顔立ちは「典型的な短頭種(短い鼻口部)」で、非常に大きな頭部に深いしわが刻まれています。
この顔の構造から、よだれが非常に多い傾向にあります。特に食事後や飲水後、または興奮時には大量のよだれを垂らします。毎日のこまめなケアが欠かせません。
また、この短頭種特有の呼吸構造から、大きないびきをかくこともよく知られています。
ボルドー・マスティフの性格
ボルドー・マスティフは、その威厳ある姿とは対照的に、穏やかで愛情深い性格を持つ「心優しき巨人」です。
家族への忠誠心が非常に強く、特に子どもに対しては寛容で優しく接する傾向があります。家庭では落ち着きがあり、安心感を与える存在となるでしょう。
一方で、番犬としての本能から警戒心や防衛意識が強く、家族や縄張りを守る意識を持っています。しかし、むやみに攻撃的になることはなく、冷静で堂々とした態度を保つのがこの犬種の特徴です。見知らぬ人や他の犬には慎重な面を見せるため、幼犬期からの社会化トレーニングが重要です。
適切な環境で育てられたボルドー・マスティフは、穏やかで忠実、そして頼れる家庭犬となります。大きな体に秘めた優しさと落ち着きは、家族に深い安心感をもたらしてくれるでしょう。
ボルドー・マスティフの寿命
ボルドー・マスティフの平均寿命は5〜8年程度とされており、ラブラドール・レトリーバーなど大型犬(10〜12歳)や他の超大型犬(8〜10歳)より短い傾向があります。これは、体の大きさによる心臓や関節への負担、遺伝的な疾患の影響などが要因と考えられています。
ただし、近年は飼育環境や食事、健康管理の向上により、10歳前後まで生きる個体も見られます。体重管理や定期健診、適度な運動や温度管理を徹底することで、寿命を延ばす可能性を高めることができます。
愛犬と長く過ごすためには、子犬の頃からの健康的な生活習慣づくりと、獣医師による定期的なチェックが欠かせません。日々のケアを怠らず、健康を守ることがボルドー・マスティフの長寿につながります。
ボルドー・マスティフの飼い方
ボルドー・マスティフは超大型犬のため、その特性を考慮した飼育環境や運動、日常的なお手入れが必要です。特に体格が大きいため、日頃の運動管理や健康面への配慮、暑さ対策が非常に重要になります。
運動量と散歩の目安
ボルドー・マスティフはその巨体に似合わず、大量の運動を必要としません。むしろ激しい運動は関節や心臓に負担がかかるため、1日に2回、それぞれ30分程度のゆったりとした散歩が理想的です。特に成長期には関節の健康を考慮し、激しい運動や長時間の運動は避けましょう。
暑さ対策と温度管理
ボルドー・マスティフは典型的な短頭種のため、暑さに極めて弱い特徴があります。夏場の日中の散歩は避け、早朝または夜間など涼しい時間帯に行います。
室内ではエアコンを常時稼働させ、適切な室温を維持して熱中症を防ぐ必要があります。一方で寒さには比較的耐えられますが、家族とのコミュニケーションを大切にする性格上、室内飼育が推奨されます。
お手入れと衛生管理
被毛は短毛で抜け毛も中程度のため、週1〜2回のブラッシングで十分です。ラバーブラシなどを使って抜け毛や汚れを取り除きましょう。
特に重要なお手入れは顔のしわとよだれのケアです。しわの間に汚れが溜まると皮膚炎の原因となるため、毎日湿らせたタオルで拭き取り、その後乾いたタオルでしっかり乾燥させます。よだれも常にこまめに拭き取って清潔に保つことが必要です。
また垂れ耳のため、外耳炎を予防するために耳の内部を定期的にチェックし、汚れがある場合はイヤーローションで清掃してください。
ボルドー・マスティフのしつけ
ボルドー・マスティフは高い知能と忠誠心を持つ犬種のため、しつけへの反応は比較的良好です。しかし力が強く、頑固な一面も持ち合わせているため、子犬期からの社会化や一貫性あるトレーニングが必要となります。
信頼関係を育むしつけの基本
ボルドー・マスティフをしつける際は、飼い主がリーダーシップを持ち、毅然とした一貫性のある態度を保つことが重要です。叱るのではなく、おやつや褒め言葉などを使った「正の強化(ポジティブ・リインフォースメント)」という手法を活用すると、よりスムーズに学習が進みます。
穏やかな性格を育てる社会化トレーニング
ボルドー・マスティフは縄張り意識や警戒心が強いため、子犬期の社会化トレーニングが極めて重要です。早いうちからさまざまな環境、人、犬、音などに慣れさせることが、将来的に穏やかで友好的な性格を育てるカギとなります。パピークラスなどを活用し、積極的に外の世界と交流させましょう。
力の強い成犬を制御するための基本しつけ
成犬になると体重は50 kgを超えることが多く、力が非常に強くなります。そのため、子犬の頃から飛びつきやリードを引っ張るなどの行動は絶対に許さないよう徹底的に教える必要があります。
「マテ」や「オイデ」などの基本コマンドは、成犬になっても継続してトレーニングを行い、どんな場面でも飼い主の指示に従えるようにしておきましょう。
ボルドー・マスティフがかかりやすい病気
ボルドー・マスティフは超大型犬であることや遺伝的要因、短頭種特有の身体構造から、特定の病気にかかりやすい傾向があります。これらの病気を事前に理解し、日頃の観察や予防措置を徹底することが重要です。
股関節形成不全
股関節形成不全は、股関節が正常に形成されず、歩行異常や痛みを伴う疾患で、大型犬に多く遺伝的要素も関係しています。ボルドー・マスティフでは発症リスクが高いため、特に子犬期の体重管理や適度な運動、滑りにくい床材の利用など、予防的対策が重要です。
胃拡張
胃拡張・捻転症候群(胃捻転)は、胃が急激に膨れ上がりねじれてしまう疾患で、特に胸の深い大型犬種に多く見られます。
急激にショック状態に陥り、死亡率も高いため、食後すぐの運動を避ける、食事を複数回に分けるなど日頃から注意が必要です。兆候を見逃さず早急に獣医師に相談することが命を救う鍵になります。
拡張型心筋症
ボルドー・マスティフはその巨体ゆえに心臓に負荷がかかりやすく、特に拡張型心筋症といった心臓疾患のリスクが高い傾向にあります。
運動後の息切れや咳、呼吸困難などの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。定期的な健康診断や心臓検査を行うことで早期発見が可能となります。
皮膚炎
ボルドー・マスティフの特徴である深いしわの間は、汚れや湿気が溜まりやすく、細菌感染による皮膚炎を起こしやすい部分です。毎日しわを清潔に保つことで予防できます。
また、アレルギー性皮膚炎を発症する個体もいるため、皮膚を痒がる様子があれば早期に獣医師に相談してください。
眼瞼内反症
眼瞼内反症(まぶたが内側にめくれる症状)や眼瞼外反症(まぶたが外側にめくれる症状)は、ボルドー・マスティフがかかりやすい目の疾患です。
目の違和感や結膜の炎症などが現れ、症状が重い場合は手術が必要になることもあります。定期的な目のチェックで早期発見・対応を心がけましょう。
ボルドー・マスティフの価格相場
ボルドー・マスティフは日本では非常に希少で、2025年現在の子犬の平均価格は50〜80万円前後です。
血統が優れている場合や、ショーで実績を持つ親犬から生まれた子犬は100万円を超えることもあります。海外から輸入する際は、輸送費や手続き費が加算され、さらに高額になる傾向があります。
価格はブリーダーの評価、血統、月齢、性別によっても変動します。国内での流通は少なく、一般のペットショップで見かけることはほぼないため、専門ブリーダーや犬種団体を通じての購入が基本です。
購入後も食費や医療費などの維持費が高いため、経済的な余裕をもって迎えることが大切です。
ボルドー・マスティフの歴史
ボルドー・マスティフは、その名前の通りフランス南西部のボルドー地方を原産とする、非常に古い歴史を持つ犬種です。その祖先は古代ローマ時代にさかのぼり、闘犬や軍用犬として活躍した「モロサス系」の犬に由来するとされています。
ここではボルドー・マスティフの起源から日本国内での普及状況まで、歴史的背景を詳しくご紹介します。
フランスで長く愛されてきた古い犬種
ボルドー・マスティフの歴史は古代ローマ帝国までさかのぼり、モロサス犬と呼ばれた屈強な犬種が起源だと考えられています。
中世フランスでは「アキテーヌ地方の犬」と呼ばれ、イノシシやクマなどの大型動物の狩猟や、城の防衛、家畜の管理に重宝されました。その後、時代とともに闘犬としての荒々しい気質は薄まり、現代の家庭犬としての穏やかな性質へと改良されました。
映画をきっかけに広まった日本での認知
日本では1989年に公開されたアメリカ映画『ターナー&フーチ』で、この犬種が主人公のパートナー犬として登場したことにより一時的に知名度が上がりました。
しかし、超大型で飼育に手間がかかること、また入手が難しいことから、現在も希少犬種のひとつに数えられています。国内で飼育されている個体数は非常に少なく、熱心な愛好家や専門的なブリーダーによってその血統が維持されている状況です。
まとめ
ボルドー・マスティフは迫力ある外見と穏やかで愛情深い性格を併せ持つ、魅力的な超大型犬です。
その巨体ゆえに暑さへの弱さ、健康面でのリスク、短命傾向、日常のお手入れの大変さなど、飼育には多くの注意が必要ですが、それらを補って余りあるほど忠実で頼もしい家族となります。
しつけにおいては幼犬期からの社会化と飼い主の毅然とした態度が重要で、適切な健康管理と快適な生活環境の整備が欠かせません。十分な経済的・時間的余裕、そしてよだれやいびきを愛嬌として受け入れる寛容さを持つ飼い主にとって、この犬種は唯一無二の伴侶犬となるでしょう。