ボルゾイってどんな犬?
ボルゾイは、優雅で気品あふれる外見と、穏やかで物静かな内面を併せ持つロシア原産の超大型犬です。その名はロシア語で「俊敏」を意味し、かつてはオオカミ狩りの猟犬として活躍していました。
視覚で獲物を追う「サイトハウンド」と呼ばれるグループに属し、驚異的なスピードで走るための、流線型で筋肉質な体をしています。
その美しい容姿から「走る芸術品」とも称されますが、家庭犬としては非常に落ち着いており、物静かに過ごすことを好みます。飼い主には深い愛情を示しますが、見知らぬ人には距離を置く繊細な一面も持ち合わせています。
その独特の魅力から多くの愛好家を惹きつけていますが、超大型犬ならではの飼育の難しさも理解しておく必要があります。
ボルゾイの歴史
ボルゾイの歴史は古く、その起源は諸説ありますが、11世紀以前にまで遡ると考えられています。中央アジアに生息していたサイトハウンドがロシアに移入され、ロシア土着の犬種や牧羊犬などと交配することで、厳しい寒さにも耐えられる長い被毛を持つ現在のボルゾイの原型が作られました。
15世紀以降、ボルゾイは当時のロシア貴族階級たちに独占的に所有され、大規模なウルフハウンド(オオカミ狩り)でその能力を発揮しました。特にロマノフ王朝の庇護のもと、繁殖が熱心に行われ、その地位は不動のものとなります。
しかし、1917年のロシア革命で状況は一変します。貴族の象徴と見なされたボルゾイは、民衆によって数多くが殺されてしまい、ロシア国内で絶滅の危機に瀕しました。
幸い、革命以前に欧米の王侯貴族へ贈られていた犬たちが命脈をつなぎ、今日に至るまでその美しい血統は世界中の愛好家の手によって守られています。
ボルゾイの気をつけたい病気やケガ
ボルゾイはその特殊な体型や犬種の特性から、かかりやすい病気やケガが存在します。日頃から愛犬の様子をよく観察し、異変に早く気づくことが重要です。
胃拡張・胃捻転症候群(GDV)
ボルゾイのように胸が深い大型犬に最も注意が必要な病気の一つです。胃にガスが溜まって拡張し(胃拡張)、さらに胃がねじれてしまう(胃捻転)ことで、命に危険が及ぶ緊急性の高い状態です。
食後すぐの激しい運動は最大の原因となるため、食事の後は必ずゆっくりと休ませる習慣をつけましょう。落ち着きがなくなる、吐こうとしても吐けない、お腹が膨らむなどの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
骨肉腫
大型犬や超大型犬に好発する悪性の骨の腫瘍です。特に四肢に発生することが多く、初期症状として足を引きずる、特定の足を触られるのを嫌がる、患部が腫れるといった様子が見られます。
進行が非常に速いがんであり、早期発見と早期治療が極めて重要になるため、歩き方の変化には常に注意を払いましょう。
拡張型心筋症
心臓の筋肉(心筋)が薄く伸びてしまい、心臓のポンプ機能が低下する病気です。初期は無症状のことが多いですが、進行すると疲れやすい、咳が出る、呼吸が苦しそう、失神するといった症状が現れます。
ボルゾイはこの病気のリスクがある犬種として知られており、定期的な健康診断で心臓のチェックを受けることが早期発見につながります。
進行性網膜萎縮症(PRA)
目の奥にある網膜が徐々に機能しなくなる遺伝性の病気で、最終的には失明に至ります。初期症状として、暗い場所で物が見えにくくなる「夜盲」が見られます。
物にぶつかる、暗い場所を怖がるといった行動に気づいたら、獣医師に相談しましょう。遺伝子検査で発症リスクを調べることが可能な場合もあります。
外傷や骨折
サイトハウンドであるボルゾイは、全力で走ると時速50km以上に達することもあります。そのスピードゆえに、障害物への衝突や転倒による打撲、捻挫、骨折などのリスクが常に伴います。
運動させる際は、地面が平坦で危険物のない、安全が確保された広い場所を選んであげることが大切です。
ボルゾイの飼い方と飼育のポイント
ボルゾイの優雅な姿を維持し、健やかな毎日を送るためには、その特性に合わせた飼育方法が不可欠です。運動、しつけ、環境など、重要なポイントを解説します。
多くの運動量が必要
ボルゾイは元々猟犬であるため、相当な運動量を必要とします。毎日の散歩は1回1時間程度、それを1日2回行うのが理想です。
しかし、ただ単調に歩くだけでは運動欲求は満たされません。定期的にドッグランなど、周囲に危険がなく、安全にノーリードで走れる場所に連れて行き、全力疾走させてあげることが心身の健康のために不可欠です。
ただし、呼び戻しが完璧でない限り、公共の場でのノーリードは絶対に避けてください。サイトハウンドの習性として、動くものを追いかけて一瞬で走り去ってしまう危険性があります。
犬種に合わせたしつけが重要
ボルゾイは非常に賢く、穏やかな犬種ですが、プライドが高く頑固な一面も持ち合わせています。力で押さえつけようとする強制的なしつけは、その繊細な心を傷つけ、信頼関係を損なうだけです。
おやつなどのご褒美を使い、たくさん褒めて伸ばす「ポジティブ・トレーニング」が最も効果的です。また、子犬の頃から様々な人や犬、環境に慣れさせる「社会化」は、臆病な性格にさせないために非常に重要です。
室内の飼育環境を整える必要がある
室内での飼育が基本となります。超大型犬であるボルゾイがゆったりと過ごせるスペースを確保し、床がフローリングの場合は滑って関節を痛めないよう、カーペットやマットを敷くなどの対策が必要です。
また、体が大きい分、テーブルの上にある食べ物や小物を誤飲する事故も起こりやすいため、危険なものはボルゾイの届かない場所に片付けておきましょう。寒さには強い一方で暑さには弱い面もあるため、日本の高温多湿な夏は特に注意が必要です。
ボルゾイの体に適した「質の高いフード」を選ぶ
ボルゾイの健康な体を作るためには、質の高い食事が欠かせません。体の大きさに合った、超大型犬用の総合栄養食を選びましょう。特に成長期の子犬には、骨格の健全な発達をサポートする栄養バランスのフードが必要です。
また、先述した胃捻転のリスクを考慮し、消化吸収の良いフードを選ぶことも大切です。アレルギーを持つ個体もいるため、愛犬の体質に合ったものを見つけてあげましょう。
定期的なお手入れが必須
ボルゾイの絹のように滑らかで長い被毛は、その魅力の象徴です。この美しい状態を保つためには、定期的なお手入れが欠かせません。少なくとも週に2〜3回は、ピンブラシやコームを使って全身を丁寧にブラッシングし、毛玉やもつれを防ぎましょう。
シャンプーは月に1回程度が目安ですが、体の大きさから自宅でのシャンプーは大変な作業になるため、定期的にトリミングサロンを利用する飼い主も多いです。
ボルゾイの寿命
ボルゾイの平均寿命は7歳から13歳程度です。これは、トイ・プードルや柴犬といった中小型犬に比べると短いですが、他の超大型犬種と比較すると平均的な寿命と言えます。
もちろん、個体差や飼育環境、健康管理によって寿命は大きく左右されます。日々の食事管理や適切な運動、定期的な健康診断を欠かさず行い、病気の早期発見に努めることが、愛犬との時間を一日でも長く過ごすための鍵となります。
ボルゾイの価格相場
ボルゾイの子犬の価格相場は40万円から70万円程度です。ただし、この価格は様々な要因によって変動します。例えば、親犬がドッグショーで優秀な成績を収めているチャンピオン犬の血統であったり、人気の毛色であったりすると価格は高くなる傾向があります。
また、ブリーダーの考え方や、子犬の健康状態、提供されるアフターフォローの内容によっても価格は異なります。価格だけで判断せず、信頼できるブリーダーから迎えることが最も重要です。
ボルゾイの飼育費用
ボルゾイを家族として迎えるには、生涯にわたって相応の費用がかかります。超大型犬であるため、特に食費や医療費は高額になることを覚悟しておく必要があります。
費用項目 | 金額(目安) |
---|---|
初期費用(子犬代以外) | 10万円~20万円 |
年間の飼育費用 |
30万円~50万円以上
|
初期費用(お迎え時)
子犬の生体価格とは別に、ボルゾイとの生活を始めるために必要な費用です。初期費用は10万円~20万円を想定しておきましょう。
具体的に、初期の段階で購入する物は、大きなサイズのケージやクレート、ベッド、食器、首輪やリード、トイレ用品、おもちゃなどのグッズです。これらに加えて、最初のワクチン接種費用や健康診断、畜犬登録の費用なども必要になります。
年間の飼育費用
年間の費用として30万円~50万円以上程度の費用を想定しておきましょう。
体が大きいボルゾイは食事量も多く、毎日の食事代が大きな割合を占めます。また、質の高いフードを選ぶと、フード代だけで年間15万円以上になることも珍しくありません。
その他、毎年の混合ワクチンや狂犬病予防接種、フィラリア・ノミ・ダニの予防薬といった医療費、シャンプーやトリミング代、ペットシーツなどの消耗品費が定期的にかかります。
万が一の病気やケガに備え、ペット保険に加入しておくことも検討しておきましょう。
ボルゾイをお迎えする方法
優雅なボルゾイを家族に迎えるには、いくつかの方法があります。それぞれにメリットと注意点があるため、ご自身のライフスタイルに合った方法を慎重に選びましょう。
ブリーダーから迎える
ボルゾイという犬種を深く理解し、健全な繁殖を心がけている専門のブリーダーから直接譲り受ける方法です。最大のメリットは、子犬が育った環境や親犬の性格、健康状態を自分の目で確認できることです。
また、飼育に関する専門的なアドバイスを継続的に受けられることも心強い点です。優良なブリーダーを見つけることが最も重要であり、そのためには犬舎の見学を快く受け入れ、質問に誠実に答えてくれるかどうかを見極める必要があります。
ペットショップで探す
ペットショップは、気軽に立ち寄って犬を見ることができるのが利点です。飼育に必要なグッズをその場で揃えられる便利さもあります。しかし、ボルゾイのような超大型犬は、常時ペットショップの店頭にいるわけではありません。
また、ブリーダーから迎える場合に比べて、親犬の情報や育った環境の詳細が分かりにくいこともあるため、スタッフに詳しく確認することが大切です。
里親になる
様々な事情で飼い主を失ったボルゾイの里親になるという選択肢もあります。動物保護団体やNPO法人などが保護している犬を引き取ります。成犬であることが多いですが、性格や大きさがすでに分かっているというメリットがあります。
また、新しい家族を待つ犬の命を救う、非常に意義のある行為です。ただし、前の飼育環境で心に傷を負っている場合もあり、そのケアには深い愛情と忍耐が求められます。譲渡には審査や条件が設けられているのが一般的です。
まとめ
ボルゾイは、その類まれなる美しさと穏やかで知的な性格で、飼い主に深い喜びと癒やしを与えてくれる素晴らしい犬種です。
しかし、その裏にはサイトハウンドとしての特別な運動欲求、超大型犬ならではの食事量や飼育スペースの確保、そしてかかりやすい病気への配慮など、飼い主が負うべき大きな責任が伴います。
ボルゾイを家族として迎えることは、一つの命を生涯にわたって預かるということです。この記事で紹介した情報を参考に、ご自身のライフスタイルや環境、そして経済的な見通しを冷静に見つめ直し、深い愛情と覚悟を持って、その決断を下すことが何よりも大切です。