ドーベルマンの断耳・断尾とは?そもそもどんな理由で行うの?
ドーベルマンの断耳や断尾は、特定の目的のために行われてきた歴史があります。まずは、それぞれの処置が何を指し、どのような理由で行われてきたのかを理解しましょう。
断耳(だんじ)とは
断耳とは、犬の耳介(じかい)の一部を外科的に切除し、形を整える処置のことです。ドーベルマンの場合、生後数か月の子犬のうちに耳を特定の形にカットし、その後テーピングなどで固定して立たせるのが一般的でした。
ドーベルマンにおける断耳の主な理由としては、以下のようなものが挙げられます。
使役犬としての機能性向上
ドーベルマンは元々、警備犬や護衛犬として活躍していました。垂れ耳は掴まれたり怪我をしたりするリスクがあるため、耳を短く切って立たせることで、そのような危険を回避し、聴覚を鋭敏に保つ目的があったとされています。
外見の基準(スタンダード)
犬種標準(スタンダード)として、特定の外見を維持するために断耳が行われてきました。ドーベルマンの精悍で警戒心の強いイメージを強調するために、立った耳が好まれたという背景があります。
断尾(だんび)とは
断尾とは、犬の尻尾を短く切断する処置です。こちらも通常、生後間もない子犬の時期に行われます。断尾が行われてきた背景にも、いくつかの理由が存在します。
作業時の怪我防止
使役犬として働く際、長い尻尾は障害物に引っかかったり、踏まれたりして怪我をするリスクがありました。特に狭い場所での作業や、藪の中での狩猟などでは、尻尾の怪我が犬の活動を妨げる可能性があったため、予防的に断尾が行われたとされています。
衛生面の配慮
長い尻尾は汚れやすく、特に長毛種の場合は排泄物で汚れてしまうこともありました。衛生状態を保つ目的で断尾が行われることもあったようです。
外見の基準(スタンダード)
断耳と同様に、犬種標準として特定の外見を維持するために断尾が行われてきました。ドーベルマンの場合、短い尻尾がその引き締まった体型を際立たせると考えられていました。
ドーベルマンの断耳・断尾をしない人が近年増えている
かつてはドーベルマンのスタンダードとして広く受け入れられていた断耳・断尾ですが、近年ではこれらの処置を行わない飼い主が増えています。その背景には、動物愛護に対する意識の高まりと、それに伴う社会全体の変化があります。
動物愛護の観点からの変化
「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という考え方が国際的に広まっています。これは、動物が身体的にも精神的にも良好な状態で生活できるように配慮するという考え方です。この観点から、美容目的や非医療的な理由での断耳・断尾は、動物に不必要な苦痛を与える行為であるとして批判されるようになりました。
海外における法規制の動き
ヨーロッパの多くの国々では、獣医学的な必要性がない限り、犬の断耳や断尾を法律で禁止または厳しく制限しています。例えば、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアなど多くの国で、美容目的の断耳・断尾は違法とされています。これらの国々では、自然な姿のドーベルマンが一般的です。
ショーの基準の変化
国際的なドッグショーにおいても、断耳・断尾された犬の出陳を認めない、あるいは自然な姿の犬を評価する傾向が強まっています。これにより、ブリーダーや飼い主の間でも意識の変化が進んでいます。
日本における状況と意識の変化
日本においても、動物愛護管理法に基づき、動物への不必要な苦痛を避けるべきであるという考え方が浸透しつつあります。
獣医師会や関連団体の見解
公益社団法人日本獣医師会は、美容を目的とした犬の断尾・断耳について「行うべきではない」との見解を示しています。
飼い主の意識の変化
インターネットやSNSを通じて、海外の動物福祉に関する情報や、断耳・断尾の是非に関する議論に触れる機会が増えたことも、飼い主の意識変化に影響を与えています。愛犬に不要な痛みを与えたくない、自然な姿のままで育てたいと考える飼い主が増加傾向にあります。
断耳・断尾を「しない」ことのメリット
断耳・断尾をしないことには、以下のようなメリットがあります。
動物への苦痛の回避
最も大きなメリットは、手術や術後の痛み、感染症のリスクなど、犬が経験する可能性のある苦痛を回避できることです。
自然なコミュニケーション能力の維持
犬は耳や尻尾を使って感情を表現し、他の犬や人間とコミュニケーションを取ります。これらの部位が自然な状態であることで、より豊かな感情表現が可能になると考えられています。
手術に伴うリスクの排除
全身麻酔を伴う外科手術には、常に一定のリスクが伴います。手術をしないことで、これらのリスクを避けることができます。
断耳・断尾の費用は どのくらい?
ドーベルマンの断耳や断尾を検討する際には、費用も気になる点の一つでしょう。ただし、前述の通り、近年では動物福祉の観点からこれらの手術を行わない動物病院が増えていることを念頭に置く必要があります。
断耳・断尾の費用は、動物病院や手術の内容、犬の年齢や状態によって大きく異なります。一般的に、費用には術前の検査、手術費、麻酔代、術後の投薬や処置、抜糸などが含まれます。
断耳の費用
断耳は比較的複雑な処置であり、術後のケアにも手間がかかるため、費用は高額になる傾向があります。一般的には数万円から十数万円程度が目安とされていますが、専門的技術が必要だったり、術後ケアが長期化したりすると、さらに費用が増えることもあります。
断尾の費用
断尾は比較的簡単な処置とされていますが、こちらも数万円程度の費用がかかるのが一般的です。生後間もない子犬の場合は比較的安価に行われることもありますが、成長した犬の場合は麻酔のリスクも高まり、費用も上がる傾向にあります。
費用に関する注意点
実際に手術を検討する場合は、複数の動物病院に問い合わせ、手術のリスク、費用、術後のケアについて十分に説明を受けることが重要です。また、費用だけでなく、獣医師の経験や病院の設備なども考慮して慎重に判断しましょう。
歴史的に「断耳・断尾」が行われてきた犬種
ドーベルマン以外にも、歴史的に断耳や断尾が行われてきた犬種が存在します。これらの慣習も、ドーベルマンと同様に、近年では見直される傾向にあります。
日本でも人気の犬種の中で、以下のような犬種が伝統的に断耳をされてきました。
トイ・プードル
愛らしい姿で人気のトイ・プードルですが、元々は水鳥猟の回収犬として活躍していました。水中での作業の邪魔にならないように、また怪我を防ぐために断尾が行われていました。ただし、近年では自然な長さの尻尾を持つトイ・プードルも増えています。
ヨークシャー・テリア
「ヨーキー」として親しまれるヨークシャー・テリアも、元々はネズミ捕りのための犬種でした。狭い場所での作業の邪魔にならないように断尾が行われていました。
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
短い足と愛嬌のある姿が人気のコーギーですが、元々は牧畜犬として牛の足元を駆け回っていました。牛に尻尾を踏まれないように断尾する習慣があったとされています。
ミニチュア・シュナウザー
特徴的な眉毛と口ひげを持つミニチュア・シュナウザーも、元々はネズミ捕りなどの作業犬として活躍しており、耳を怪我から守るため、また立っている耳が警戒しているように見えるため、断耳が行われていました。
ミニチュア・ピンシャー
「ミニピン」の愛称で知られるミニチュア・ピンシャーは、小さいながらも活発な犬種です。断耳によって、よりシャープで洗練された印象を与えると考えられてきました。
ボクサー
ボクサーは、元々闘犬や狩猟犬として使われており、耳を噛まれるのを防ぐために断耳が行われていました。
グレート・デーン
大型犬であるグレート・デーンも、かつては猪狩りなどに使われており、耳を保護する目的や、より堂々とした外観にするために断耳が行われることがありました。
まとめ
ドーベルマンの断耳・断尾は、その犬種の歴史や使役犬としての役割と深く結びついてきました。しかし、時代とともに動物に対する考え方は変化し、現代では「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の重要性が広く認識されています。
美容目的や慣習として行われてきた断耳・断尾は、犬に不必要な苦痛を与える可能性がある行為として、世界的に見直される傾向にあります。日本国内においても、獣医師会や多くの動物病院が非推奨の立場を取り、自然な姿のままで育てる飼い主が増えています。
これからドーベルマンを家族に迎えようと考えている方、あるいは既に一緒に暮らしている方も、断耳・断尾について正しい情報を得て、愛犬にとって何が本当に幸せなのかを深く考えることが大切です。歴史的背景を理解しつつも、現代の倫理観と動物福祉の視点を持って、最善の選択をしていきましょう。