スイス原産の犬はどんな犬種?
スイスと聞いて、壮大なアルプスの山々や美しい湖、そして美味しいチョコレートやチーズを思い浮かべる方は多いでしょう。
しかし、愛犬家の間では、スイスは数々の魅力的な犬種の故郷としても知られています。
古くから山岳地帯での牧畜や運搬、時には人命救助といった厳しい環境下で人間のパートナーとして活躍してきた犬たちは、その作業に適したたくましい体格と優れた知性、そして忠誠心を育んできました。
スイス原産の犬種は、その多くが厳しい自然環境を生き抜くために必要な体力と持久力を備えています。
例えば、雪深い山道での作業や家畜の保護など、その役割は多岐にわたりました。そのため、一般的に大型で、状況判断能力に長け、家族に対しては非常に献身的な性格を持つ傾向が見られます。
彼らの歴史を紐解くと、単なるペットとしてではなく、人間の生活に不可欠な存在として大切にされてきたことが分かります。
スイス原産の犬種5選!
ここからは、スイスが誇る素晴らしい犬種の中から、特に知っておきたい5犬種をピックアップしてご紹介します。それぞれの犬種が持つ個性や魅力に触れていきましょう。
セントバーナード
「アルプスの救助犬」として世界的に有名なセントバーナードは、その大きな体と温和な表情で多くの人々を魅了しています。
体重が60 kg前後、場合によっては80 kgを超えることも珍しくない超大型犬ですが、その性格は非常に優しく、忍耐強いことで知られています。かつてはスイスアルプスのグラン・サン・ベルナール峠の修道院で、雪山での遭難者救助に活躍していました。
首にウイスキーの入った樽を下げているイメージがありますが、これは後世の創作という説が有力です。しかし、彼らが多くの命を救ってきた事実は変わりありません。家族に対しては愛情深く、子供とも良い遊び相手になりますが、その大きさと力強さから、しっかりとしたしつけと十分な運動量の確保が不可欠です。
バーニーズマウンテンドッグ
日本でも非常に人気が高いバーニーズマウンテンドッグは、その美しいトライカラー(ブラック、ホワイト、リッチタン)の被毛と、穏やかで愛情深い性格が魅力です。
「バーニーズ(Bernese)」という名前は、原産地であるスイスのベルン州に由来します。もともとは農場での荷車引きや家畜の追い込みなど、多目的な作業犬として活躍していました。家族に対して非常に献身的で、人と一緒にいることを好む甘えん坊な一面もあります。
賢く訓練性能も高いですが、大型犬であるため、子犬の頃からの社会化としつけが大切です。夏の暑さには特に弱いので、飼育環境には注意が必要です。
グレートスイスマウンテンドッグ
バーニーズマウンテンドッグとよく似た外見を持つグレートスイスマウンテンドッグは、よりがっしりとした体格と短い被毛が特徴です。スイスの山岳地帯で最も古い犬種の一つと考えられており、力強い作業犬として荷物の運搬や家畜の警護などに使われてきました。
非常に力強く、自信に満ちた性格をしていますが、家族に対しては忠実で穏やかな面も見せます。バーニーズマウンテンドッグに比べると、やや警戒心が強く、番犬としての適性も高いと言われています。
活発で多くの運動量を必要とするため、広々とした飼育環境と運動時間を確保できる家庭に向いています。
スイス・ハウンド(シュヴァイツァー・ラウフフント)
スイス・ハウンド(シュヴァイツァー・ラウフフント)は、スイス原産のセントハウンド(嗅覚獣猟犬)の一種で、その優れた嗅覚と持久力で知られています。主にウサギやキツネなどの小動物の狩猟に用いられてきました。
「ラウフフンド」とはドイツ語で「走る犬」を意味し、その名の通り俊敏に野山を駆け巡ります。この犬種には毛色やサイズによっていくつかのバリエーションが存在し、例えば「ベルナー・ラウフフント」や「ジュラ・ラウフフンド」など、作出された地域名が冠されています。
非常にエネルギッシュで、探究心が旺盛な性格のため、十分な運動と刺激を与えてあげることが大切です。日本ではあまり見かける機会は多くありませんが、ヨーロッパでは現役の猟犬として、また活発な家庭犬として愛されています。
ホワイトスイスシェパードドッグ
その名の通り、美しい純白の被毛が印象的なホワイトスイスシェパードドッグは、ジャーマンシェパードドッグを祖先とする犬種です。一時期はジャーマンシェパードの毛色としては認められていませんでしたが、スイスをはじめとする国々で熱心な愛好家によってブリーディングが続けられ、独立した犬種として確立されました。
非常に賢く、訓練性能が高い点はジャーマンシェパード譲りですが、より穏やかで感受性が豊かな性格を持つ個体が多いと言われています。家族に対しては愛情深く、忠実ですが、警戒心も持ち合わせているため、番犬としても頼りになります。
知的好奇心を満たすトレーニングや活動を取り入れることで、素晴らしいパートナーとなるでしょう。
スイスの犬事情 日本との違いについて
スイスは、動物福祉の先進国としても知られており、犬を取り巻く環境や飼い主の意識には、日本と異なる点が数多く見られます。その違いを知ることは、日本の愛犬家にとってもより良い共生社会を考える上で参考になるはずです。
まず、スイスでは犬の飼い主に対する法的責任が明確に定められています。2008年には動物保護法が改正され、州(カントン)によっては特定犬種の飼育制限や禁止が設けられています。
飼い主に対して専門知識を学ぶための講習受講が義務付けられたりしました(ただし、この飼い主講習義務は2017年に一部緩和・変更されています)。それでも、犬を飼うことの責任の重さが社会的に認識されている点は特筆すべきでしょう。
スイスにおける犬の社会的な位置づけで特徴的な点をいくつか挙げてみましょう。
マイクロチップの装着と登録が義務付けられています。 これにより、迷子犬の返還率向上や、安易な飼育放棄の防止に繋がっています。
公共交通機関への同伴が比較的寛容です。 指定の料金を支払えば、電車やバスに犬を連れて乗車できる場合が多く、リード着用やマズルガード装着などのルールが定められています。
多くのレストランやカフェで犬の同伴が可能です。 もちろん、店舗によってルールは異なりますが、テラス席だけでなく店内もOKという場所も珍しくありません。
犬のための専門的なトレーニング施設やサービスが充実しています。 しつけ教室だけでなく、様々なドッグスポーツや問題行動のカウンセリングなど、犬と飼い主をサポートする体制が整っています。
「アニマルポリス」と呼ばれる動物専門の警察官が存在するカントン(州)もあります。 動物虐待の防止や、適切な飼育環境の確保に努めています。
一方で、日本ではまだまだ公共の場での犬の受け入れが進んでいない側面や、飼い主のマナーに対する意識の差が見られることもあります。例えば、日本では「小型犬なら可」という施設が多いのに対し、スイスでは犬のサイズよりも、しっかりとしつけがされているかどうかが重視される傾向にあります。これは、「犬は社会の一員」という意識が根付いていることの表れかもしれません。
また、スイスでは犬の社会化トレーニングが非常に重視されています。子犬の頃から様々な環境や他の犬、人と触れ合わせることで、社会性を身につけさせることが当たり前と考えられています。これは、どんな犬種であっても、人間社会で問題なく暮らしていくために不可欠なプロセスです。
まとめ
今回は、スイス原産の魅力的な犬たちと、スイスと日本の犬事情の違いについてご紹介しました。セントバーナードのような救助犬から、バーニーズマウンテンドッグのような家庭犬まで、スイス原産の犬種はその歴史的背景からくる知性、体力、そして人間への深い愛情を持っています。
そして、スイスの犬事情からは、犬と人間がより良く共生するためのヒントが多く見つかります。飼い主の責任の明確化、社会全体の受け入れ態勢、そして犬の社会化の重要性など、日本でも参考にできる点は少なくありません。
この記事が、スイス原産の犬種に興味を持つきっかけとなったり、あるいはご自身の愛犬との生活をより豊かにするための気づきとなれば幸いです。犬種を選ぶ際や、愛犬との向き合い方を考える上で、原産国の文化や歴史に目を向けてみるのも面白いかもしれませんね。