コリネバクテリウム・ウルセランス感染症による国内初の死亡例
今年の1月中旬、犬や猫の飼い主にとってショッキングなニュースが飛び込んできました。そのニュースとは、犬や猫などの動物から人間にうつるとされる動物由来感染症(「人畜(獣)共通感染症」、「ズーノーシス」と呼ばれることもあります)のひとつ「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」による死亡例が、2016年に確認されていたというものです。
この感染症による国内の死亡例はこれが初めてで、死亡したのは福岡県の60代の女性。この女性は、2016年5月に呼吸困難により救急搬送され、3日目に死亡したそうです。この女性の血液などからコリネバクテリウム・ウルセランス菌が検出されており、女性が屋外で餌を与えていたという3匹の猫のうち1匹からも同じ菌が確認されていることから、猫が感染源と見られています。
今回の死亡例では猫からの感染が濃厚と見られていますが、犬から感染することもあるため、この機会にコリネバクテリウム・ウルセランス感染症について理解を深めておきましょう。
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症とは?
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症とは、コリネバクテリウム・ウルセランス菌によって引き起こされる動物由来感染症。コリネバクテリウム・ウルセランス菌は、ジフテリア菌と同じコリネバクテリウム属に分類される細菌です。人、犬、猫、牛のほか、さまざまな動物において感染が確認されています。
感染経路
コリネバクテリウム・ウルセランス菌に感染した動物から、接触や飛沫によって人に感染します。現在のところ、国内では人から人への感染例は報告されておらず、国外においても人から人への感染はまれです。
症状
犬や猫が感染した場合の症状は、くしゃみ、鼻水、目やに、皮膚疾患などです。人間が感染した場合、初期は発熱や鼻水など風邪のような症状が現れます。その後、咳や咽喉痛などと共に、扁桃や咽喉などに偽膜形成や白苔が見られることもあります。重篤な症状の場合は、呼吸困難などによって死に至ることも。ジフテリアと症状が似ていると言われています。
治療法
早い段階で治療すれば完治が可能と言われています。抗菌薬が有効とされており、国内ではマクロライド系抗菌薬による回復例が報告されています。
3種(または4種)混合ワクチンの有効性
国内では、人に対する定期接種ワクチンのひとつに3種(2012年11月以降は4種)混合ワクチンがあります。このワクチンに含まれているジフテリア・トキソイド(ワクチン)が、コリネバクテリウム・ウルセランス感染症にも有効であると考えられています。
国内での発生状況
国立感染症研究所によると、コリネバクテリウム・ウルセランス感染症の国内での発生状況は、初めて感染が報告された2001年から2017年11月末までに、死亡した女性を含めて全国で25人の感染が報告されています。
しかし、この感染症は国内では届け出義務がないため、見逃されている感染例があることも考えられます。
そのほかの犬から人へうつる感染症
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症以外にも、犬から人へうつる感染症は数多くあります。その中から5つの感染症をご紹介します。
猫ひっかき病
バルトネラ菌を持ったノミの吸血によって犬や猫に感染し、その犬や猫に咬まれたり引っかかれたりすることによって人に感染します。ノミが発生・増殖する7月~12月にかけて多く見られると言われています。
バルトネラ菌は猫や犬では常在菌であるため無症状ですが、人に感染した場合、傷口が化膿したり、発熱やリンパ節の腫れたり、様々な症状を引き起こします。
人が感染した場合は自然治癒することもありますが、治療として抗生物質が用いられることがあります。
狂犬病
狂犬病に感染した犬、猫、キツネなどが感染源となり、全ての哺乳類が咬傷により感染します。国内では犬への予防接種が義務化されており、1957年を最後に狂犬病の感染例は報告されていませんが、世界中で毎年多くの人々が狂犬病で死亡しています。
人に感染すると、発熱、頭痛、嘔吐、咬傷部位のかゆみや疼痛などの症状から始まり、その後、幻覚や精神錯乱、恐水症状などが現れ、やがて昏睡、呼吸麻痺が起きて死亡します。狂犬病への有効な治療法はなく、発症すると100%死に至ります。
パスツレラ症
パスツレラ菌による感染症です。パスツレラ菌は犬では75%、猫では97%という割合で、口内の常在菌として保有が認められます。犬や猫に咬まれたり引っかかれたりすることで人に感染しますが、経口感染や飛沫感染も見られます。
犬や猫が感染してもほとんど無症状ですが、人が感染した場合は、咬み傷や引っかき傷が赤く腫れたり、発熱したりします。傷が深い場合や重症化した場合は、骨髄炎を起こすことも。呼吸器症状では、肺炎や気管支炎などが見られます。
治療法としては、抗生物質の投与が有効とされています。
犬・猫回虫症(トキソカラ症)
犬や猫に寄生する回虫に引き起こされる感染症です。回虫症に感染した犬や猫の糞の中に排泄された虫卵が、食べ物や手を介して経口的に摂取されることにより人に感染します。
虫卵が人の体内に入ると、虫卵は腸の中で孵化します。孵化した回虫の幼虫は、肺や肝臓など内臓に移行して、発熱、咳、肝臓の機能障害を引き起こします。眼に移行した場合には、視力障害を起こすこともあります。
一般的に治療は行いませんが、治療する場合は抗寄生虫薬やステロイド薬が用いられます。
皮膚糸状菌症
糸状菌はカビの一種です。皮膚糸状菌症に感染した犬や猫との接触により人に感染します。
犬や猫が感染した場合は、フケが出て脱毛したり、表皮がはがれたりしますが、無症状のこともあります。人間に感染すると、皮膚が赤く腫れたり、脱毛したりします。かゆみのある水疱ができることも。
犬や猫、人間共に治療には、抗真菌薬が用いられます。
犬からの感染症を防ぐために飼い主ができることは?
犬から人へうつる感染症は、予防することができます。予防するためには、日常生活において飼い主が下記のようなことに注意することが大切です。
- 犬との過剰なふれあいは控える
- 犬にノミやダニなどの定期的な駆除を行う
- 狂犬病などのワクチンを犬に接種させる
- 犬を触ったり、排泄物の処理をしたりしたあとは必ず手を洗う
- 飼い主の体調が悪いときは、犬への接触を控える
- 犬に咬まれたり、引っかかれたりしないようにする
- 排泄物は速やかに処理し、犬の身の回りを清潔にする
- 飼い主の体調が悪くなったら、早めに医療機関へ行く
- 犬の体調が悪くなったら、早めに獣医師の診察を受けさせる
- 鼻水などの風邪様症状、皮膚炎、皮膚や粘膜潰瘍を示している犬に触れる場合は、手袋やマスクを着用する
過剰なふれあいとは?
上記に「犬との過剰なふれあいは控える」とありますが、「過剰なふれあい」という表現は漠然として、いまひとつよく分からないのではないでしょうか。過剰なふれあいとは具体的に
- 口移しで食べ物を与える
- スプーンや箸を共有する
- 布団で一緒に寝る
- 顔をなめさせる
などを指します。愛犬とのふれあいは大切ですが、しつけや感染症予防の観点から節度のある接し方が必要です。
まとめ
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症による国内初の死亡例が確認されていたことは、犬や猫の飼い主にとってショッキングなニュースでした。コリネバクテリウム・ウルセランス感染症以外にも犬から人へうつる感染症はありますが、過度に神経質になるよりも、正しい知識を持って予防に努めることが大切です。
愛犬と楽しく元気に生活するために、食べ物の口移しなど過剰なふれあいは控えることや、手洗いを徹底することなどを心がけましょう。