アニマルポリスとは?
アニマルポリスとは、一般的に、動物の虐待や遺棄といった動物福祉に関わる犯罪を専門的に捜査し、取り締まるための警察組織や専門職員を指します。
動物に関する専門知識を持ち、通報を受けて現場に駆けつけ、証拠を収集し、場合によっては被虐待動物の保護や加害者の逮捕といった司法権限を行使する役割を担います。
ただし、現在の日本には、法律に基づいて捜査権や逮捕権といった強制力を持つ公的な「アニマルポリス」という専門組織は存在しません。
動物への虐待行為は「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)によって明確に犯罪と定められていますが、その捜査は主に警察が担当し、動物の保護や指導は自治体の動物愛護管理センターや保健所が担うという分担がなされています。
日本で動物虐待を通報する方法
身近で動物虐待が疑われる状況を発見した場合、どこに連絡すればよいのでしょうか。日本の現行制度では、主に二つの通報先があります。
一つ目は、警察です。動物を殴る、蹴るといった暴行や、適切な餌や水を与えないネグレクト(飼育放棄)は犯罪行為です。緊急性が高い、または明らかに犯罪行為だと確信できる場合は、ためらわずに110番通報するか、最寄りの警察署に連絡してください。
警察は法律に基づき、捜査を行い、加害者を検挙する権限を持っています。
二つ目は、お住まいの自治体が管轄する動物愛護管理センターや保健所です。これらの行政機関は、動物愛護管理法に基づき、飼い主に対して飼育環境の改善を指導したり、助言したりする役割を担っています。
虐待までは断定できないものの、例えばチワワのような小型犬が不衛生な環境で多数飼育されているといった多頭飼育崩壊が疑われる場合など、飼育環境に問題があるケースの相談に適しています。
通報する際は、可能であれば「いつ、どこで、誰が、どのような動物に、何をしたか」を具体的に伝えることが、迅速で的確な対応につながります。
日本に存在するアニマルポリス
法律上の専門組織はありませんが、動物虐待事案に効果的に対応するため、一部の自治体では先進的な取り組みが始まっています。これらは、海外の制度にならい「アニマルポリス」という名称や、それに近い機能を持つ窓口として知られています。
大阪「おおさかアニマルポリス」
大阪府では、動物虐待の通報に対応するため、府と府警が連携した「おおさかアニマルポリス」という通報ダイヤル(#7122)を設置しています。これは、アメリカの制度のように捜査権を持つ専門部隊ではありません。通報者がこのダイヤルにかけると、事案の発生場所に応じて管轄の自治体の動物愛護担当部署につながる仕組みです。
行政が主体となり、虐待の早期発見や未然防止、飼い主への指導など、警察と連携しながら対応を強化することを目的としています。
兵庫「アニマルポリス・ホットライン」
兵庫県警は、全国に先駆けて動物虐待事案に関する情報を受け付ける専門の相談窓口「アニマルポリス・ホットライン」を開設しました。これは警察組織内に設けられた窓口であり、県民から寄せられた虐待情報を直接捜査につなげることを目的としています。
動物虐待が、将来的に他の重大な犯罪につながる可能性があるという認識のもと、積極的に情報を収集し、事案の解明に取り組む姿勢を示しています。
全国でアニマルポリス発足に向けた署名が行われている
大阪や兵庫の事例はありますが、法的な権限を持つ専門組織の不在を課題と捉える声は少なくありません。
動物虐待への社会的な関心の高まりを背景に、全国各地で、国や自治体に対して捜査権限を持った公的なアニマルポリスの創設を求める市民の声が高まっています。その実現を目指し、オンラインなどを活用した署名活動も活発に行われており、より実効性のある動物保護体制を望む世論が形成されつつあります。
世界のアニマルポリス
海外に目を向けると、動物を守るための専門組織が古くから活動しています。国によってその形態はさまざまですが、日本がこれから目指すべき姿を考える上で参考になります。
アメリカ
アメリカでは、州や市によって制度が異なりますが、ニューヨーク市に本部を置く「アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)」が有名です。
ASPCAは民間団体ですが、一部の地域では法執行官、つまり警察官としての権限を委譲されており、独自の捜査官が動物虐待の現場に立ち入り、捜査や逮捕を行うことができます。
このように、行政や警察と民間団体が強力に連携し、専門性を持って動物犯罪を取り締まる体制が構築されているのが特徴です。
イギリス
動物愛護先進国として知られるイギリスでは、民間団体である「英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)」が中心的な役割を担っています。
RSPCAは国の資金援助を受けずに寄付で運営されていますが、その歴史と実績から国民の信頼は厚く、独自の調査官(インスペクター)が虐待の通報を受けて調査を行います。逮捕権はありませんが、調査結果を基に起訴を行うことができ、司法の場で虐待者を追及する重要な役割を担っています。
オランダ
オランダは、2011年に国家警察の一部門として動物警察(Dieren-politie)を創設し、世界でも先駆的な例として知られています。
動物警察官は専門的な訓練を受け、動物に関する法律や動物の扱いに関する深い知識を持っています。彼らはオランダ警察の正規の警察官として、動物虐待やネグレクト、違法な繁殖や取引といった動物に関わるあらゆる犯罪の捜査を専門的に行い、加害者の逮捕も行います。
国が主体となって専門の警察組織を運営している最も先進的な事例と言えるでしょう。
まとめ
現在、日本には法的な権限を持つ専門組織「アニマルポリス」は存在しません。しかし、動物虐待は犯罪であり、警察や自治体の動物愛護担当窓口に通報することで、救いの手を差し伸べることが可能です。
大阪府や兵庫県警のように、行政と警察が連携して専門的な対応を目指す先進的な取り組みも始まっています。また、より実効性のある体制を求める市民の声は、今後の制度を動かす大きな力となるでしょう。
アメリカ、イギリス、オランダといった海外の事例は、専門組織が動物福祉の向上にいかに貢献できるかを示しています。これらの例を参考に、日本でも命の尊厳が守られ、動物が安全に暮らせる社会を実現するため、私たち一人ひとりが関心を持ち続けることが重要です。