新しい仲間
4月。
専門学校を卒業した新人動物看護師達が、私の勤めている病院に新しい仲間としてやって来ます。
みんな初々しく、私からすればキラキラしていてとても眩しく思います。
昭和生まれの私と、平成生まれの新人さん。
下手したら親子ぐらいの歳の差があり、有り余る体力についていくのに必死な私です。
みんな元々、家で犬や猫を飼っていたり、動物が大好きでこの仕事を選んでいる人が多いので、一生懸命仕事を覚えようと必死です。
暴れる犬や猫に驚いて手を離してしまって先生に怒られた子。
先輩に注意され泣いていた子。
つらい体験をした子。
1年の間にいろいろな経験をして、命の重さと仕事の難しさを感じ成長していきます。
新人さんの成長
ウジとの格闘
私が出会った新人さんは、女の子らしいとても可愛い子でした。
ある時、外飼いで寝たきりの柴犬がやってきました。夏の暑い時期でした。
この時期外で寝たきりの子だと、床ずれがおきその傷からウジがわくことはよくあることです。
生きたまま体にウジがわくなんて、考えただけで残酷なことです。
私は気持ち悪い!と思うより先に、早くウジをとってあげたいという気持ちが強く、必死でピンセットでわいたウジを取り除きます。
若い新人さんからしたら考えられない光景だったようで、新人さんは何も出来ずに見ていました。
「私虫さわれません!」
悲痛な顔で言われました。
確かに若い女の子には酷な仕事です。
でも、私のように田舎の動物病院では年に数回あることです。
「無理してすることはないけど、でもウジを取らないとあの犬はちゃんと世話してもらえないまま最後を迎えてしまう。飼い主がしないなら、せめて私らがしないといけない。」そんな話をしたと思います。
新人さんは今でも虫が苦手ですが、手袋をして一生懸命ウジを取り除くのを手伝ってくれています。
愛犬の手術
入った時から元気よく、仕事の覚えも早い新人さんがいました。
笑顔が可愛い元気いっぱいの女の子です。何事にも一生懸命な人でした。
ある時、自分の飼っている愛犬が緊急手術をすることになりました。
責任感の強い子だったので、その手術に助手として入りました。私も経験ありますが、自分の犬の手術はとても辛い事です。目の前で手術されているのが愛犬だと想像して下さい。出来れば見たくないと思うのが普通です。
でも、その新人さんはいつも通り頑張りました。最後まで助手を務めました。
手術も無事に終わり、「助手お疲れさん、よう頑張ったなぁ。しんどかったなぁ」そう声を掛けると、我慢していたのか、いつも笑顔の子が必死で涙をこらえているのが解りました。
つらい体験を乗り越えた新人さんは今や立派な看護婦長さんになりました。
クールな新人
最初会った時、怒っているのかと思うぐらい笑わないとてもクールな新人さんがいました。
でも要領よく仕事の覚えも早く、何んでもソツなくこなすタイプなので、感情的になることはありませんでした。
ある時、ガリガリに痩せた犬がやってきました。
飼い主さんは「今日ご飯あげたけど食べない。昨日は少し食べていた。」と言います。
どうみても昨日今日食べないぐらいで、こんな痩せません。ガリガリであばらは浮き、ぐったりして動けません。
でも飼い主さんは、昨日ぐらいから食欲がなく、もともと細い子だからと言い張ります。
診察の結果、貧血もひどく即入院となりました。
数日の治療で意識も正常に戻りましたが、やはり長い間食べていないせいか全く食事を食べてくれません。
私達看護師の仕事で、「強制給餌」という仕事があります。
食べない動物の口に注射器などで缶詰を与えます。ゆっくりあげないと、誤飲してしまうので時間もかかる根気のいる仕事です。
この強制給餌は、新人さんの担当です。
食べない子に対して強制的に餌を与えるので、嫌がって吐き出してしまい手はフードだらけ。慣れない新人さんの制服もフードまみれになっていました。
それでも黙々と強制給餌をしながら食べてくれるのを待ちました。
強制給餌を数日続けたある日、ご飯を用意していると犬が前に出てきてしっぽを振っています。
試しに与えると、器から喜んで食べてくれました。
いつもはクールな新人さんも嬉しかったのか、出勤してきた私に食べてくれたことを報告してくれました。
根気強い治療を体験をしたクールな新人さんは、後輩をビシビシ指導する先輩になりました。
まとめ
私達動物看護師は、犬や猫が好きだからこの仕事を選びました。
でも、好きだけでは続けていられない仕事だと思います。
体力も必要で、決して動物が好きだという理由だけでできる仕事ではありません。噛まれたり引っ掻かれたり、怪我もよくします。理不尽なこともあり、自分の無力さを痛感することもあります。
自分に向いていないと辞めてしまう方もいますし、つらいことがあって辞める方もいます。
それでも何故この仕事を続けているのか?
色々なことがありますが、私はこの仕事が好きだからです。
今年入った新人さんがどう成長していくか、それをみるのが今の私の楽しみでもあります。