犬が天井を見つめているときの理由

1.天井または上方に気になるものが見える
犬の視力は、人の視力の0.2〜0.3程度で、あまり良いとは言えません。色に関しても、私たちよりも認識できる色の数が少ないなど、視覚は人よりも感度の低い部分があります。
しかし、暗がりでもわずかな光があれば昼間と変わらないほどの視認能力を発揮でき、動体視力も人よりはるかに優れています。天井にほんの小さな虫が止まったり飛んだりしていれば、おそらく飼い主さんには見えなくても、犬には認識できます。犬は、その正体を突き止めようとじっと観察しているのでしょう。
2.天井の方から気になる音が聞こえる
室内はすっきりとした空間のように感じます。しかし壁や天井の向こう側には、電気の配線、排気ダクトや排水管などが張り巡らされています。また、小さな小動物や昆虫が入り込み、自由に動き回れるくらいの空間もあります。
私たちには聞こえない周波数や小さな音が聞こえる犬には、壁の向こう側にある排気ダクトや排水管の中を通る空気や水の音が聞こえると考えられます。そのため、飼い主さんには何も聞こえなくても、天井裏の微かな物音や、虫の羽音・擦れる音などが伝わり、耳を澄ましているのかもしれません。
3.何も考えていない
犬が天井の一点を見つめている場合、必ずしも何かに引きつけられたり、集中しているわけではない可能性もあります。私たち人間の行動に当てはめると、「ぼんやりしている」といったような状況です。
ただし、その心境は明確にはわかりません。ただ単にリラックスしているのかもしれませんし、眠くてうとうとしているのかもしれません。遊び疲れやストレスで一時的に思考が止まっている可能性もあれば、加齢による認知機能の低下でぼんやりしてしまっているのかもしれません。
4.病気による神経症状が現れている
愛犬が天井を見つめているのを見て、脳疾患による神経症状だと考える飼い主さんはあまりいないと思います。しかし、実際に脳の疾患による神経症状の中には、「天井の一点を見つめている」といった行動につながるような異常行動もあるのです。
この場合、見つめている先が天井であることにはあまり意味がないかもしれません。しかし、脳に発症した疾患の影響で、一点をじっと見つめるといったような行動が出ることがあります。脳疾患という意外な原因について、次の章でもう少し詳しく説明します。
天井を見つめる行動に隠れている意外な原因

脳は、生命活動を司る司令塔のような役割を果たしています。全身の末梢神経から送られてくる情報を受け取り、どう反応すべきかの指示を返します。また並行して、生きるために必要な活動(呼吸、消化、血液の循環等)を常にコントロールしています。
これらの役割は、脳の部位ごとに割り当てられています。例えば前脳(大脳と間脳)では知性、行動、感覚、自律神経やホルモンの調節を、小脳はスムーズな動作のために体の平衡、運動、姿勢の制御を、脳幹は生命維持活動を担っています。そのため、脳疾患の部位によって現れる症状も異なります。
参考までに、犬が天井の一点を見つめている行動に繋がりそうな、脳疾患の症状をご紹介します。
- 水頭症:意識レベルがやや低い、呼びかけへの反応が鈍い、動きが緩慢
- 脳腫瘍:ぼんやりして呼びかけに反応しない、寝てばかりいる、首が傾く
- 認知症:徐々に認知機能が衰え、ぼんやりしたり反応が鈍くなっていく
犬が天井を見つめているときの対処法

まずは見つめている付近の様子を、下記の観点でチェックしてみましょう。
- 虫や埃などの存在をチェック
- 天井付近から聞き慣れないような音がしていないかをチェック
- これまでにも同じような行動が頻繁に行われていたかどうかを思い出す
もし、虫や埃、微かな音など、いつもとは異なる状況なのであれば、ただ単に正体を突き止めようと注視しているだけだと考えて問題ないでしょう。ただし、音や埃などの原因が愛犬のストレスになっているようなら、改善してあげた方が良いです。
具体的な原因が見当たらず、かつこれまでにも頻繁に同じ行動が見られた場合は、もう少し深掘りをするために下記の観点でチェックを続けましょう。
- 見つめる場所や時間帯が固定されているかどうかをチェック
- 見つめる行動の頻度や継続時間をチェック
- 天井を見つめる以外の不審な行動をチェック
場所や時間が固定されているのであれば、その場所や時間に見つめさせる原因があるのかもしれません。その観点でよく状況をチェックしてみましょう。見つめる頻度や見つめている時間が常軌を逸していると感じた場合や、他の症状(ふらつき、声掛けなどの刺激に対する反応が薄い、目の焦点が定まらない、眼球が小刻みに揺れる(眼振)など)もみられる場合は、早めにかかりつけの動物病院に相談しましょう。
まとめ

愛犬と一緒にリビングや寝室でくつろいでいるときに、急に愛犬が何も見えず何も聞こえない天井の一点を見つめ始めたら、飼い主さんは「なぜそんなところを?」と、不思議に思うでしょう。「亡くなった先代犬の霊がきているのかも!」などと思いたくなる気持ちもわからなくはありません。
確かに犬の感覚は人よりも優れている面が多いですが、さすがに霊が見えているとは考えにくいでしょう。小さくて素早く動く虫、排水管に流れる水の音などが愛犬の注意を引き、その正体を見極めようと必死に凝視しているのだと考えられています。
しかし、あまりにも頻繁に、または長時間見つめている、ほかにも異常行動が見られる場合は、脳疾患による神経症状からくる異常行動である可能性も考えられます。その場合は、天井を見つめる様子や異常行動の様子を動画で撮影し、かかりつけの動物病院で相談してみましょう。



