共通感染症(ズーノーシス)とは?
「共通感染症」とは、動物と人のあいだで共通して感染する病気のことを指します。英語では「Zoonosis(ズーノーシス)」と呼ばれ、犬や猫、鳥などのペットだけでなく、野生動物や家畜を介して感染する病気も含まれます。
犬は人と密接に生活を共にする動物です。室内で一緒に過ごしたり、顔や手をなめられたりすることもあります。こうした日常的な接触の中で、細菌やウイルス、寄生虫、真菌などが犬から人にうつる可能性があるのです。
共通感染症は、以下のような経路で人へと感染することがあります。
- 唾液や咬傷:犬にかまれたり、なめられた箇所から菌が入る
- 糞尿:排泄物に含まれる病原体に触れる
- 皮膚や毛への接触:皮膚病や寄生虫が皮膚を介して感染することも
- 空気感染:一部の細菌やウイルスは飛沫を介して感染する可能性もある
特別な接し方をしていなくても、ちょっとした油断から感染するケースがあります。特に免疫力が弱っているときは、注意が必要です。
犬から人にうつる主な感染症とその症状
ここでは、犬から人へ感染することがある代表的な感染症を紹介します。それぞれの病気の特徴や、感染した際に見られる主な症状についても解説します。
1.狂犬病(きょうけんびょう)
狂犬病ウイルスによって引き起こされる感染症で、発症するとほぼ100%死亡する非常に危険な病気です。日本では長年発生していませんが、海外ではまだ多くの国で存在しており、海外からの犬の持ち込みや旅行時の感染には注意が必要です。
- 感染経路:感染した動物にかまれることで、唾液を通じてウイルスが体内に入る
- 人の主な症状:発熱、頭痛、不安感、けいれん、麻痺、意識障害など
2.カプノサイトファーガ感染症
犬や猫の口の中に常在しているカプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌が原因です。免疫力の低い人がかまれたり、なめられたりしたときに感染することがあります。
- 感染経路:咬傷、傷口をなめられるなど
- 人の主な症状:発熱、寒気、倦怠感、吐き気、重症化すると敗血症や意識障害を引き起こすことも
3.レプトスピラ症
レプトスピラ菌に感染した犬の尿や血液などに接触することで、人にうつる病気です。河川や水たまりなどに菌が存在していることもあり、野外活動中に感染することもあります。
- 感染経路:尿や汚染された水への接触、傷口や粘膜から体内に侵入
- 人の主な症状:発熱、頭痛、筋肉痛、目の充血、重症化すると肝障害や腎不全
4.回虫・鉤虫などの寄生虫感染症
犬の体内に寄生している回虫(かいちゅう)や鉤虫(こうちゅう)の卵が、糞便や土壌を介して人にうつることがあり、特に小さな子どもが感染しやすいとされています。
- 感染経路:汚染された土や犬の排泄物に触れた手を口に入れるなど
- 人の主な症状:腹痛、下痢、皮膚のかゆみ、重症の場合は内臓や眼に障害を起こすこともある
5.真菌症(皮膚糸状菌症など)
犬の皮膚に感染したカビ(皮膚糸状菌)が人にうつることがあります。いわゆる「水虫」と同じようなタイプの真菌で、接触によって感染することが多いです。
- 感染経路:犬の皮膚や被毛との直接接触
- 人の主な症状:皮膚の赤み、かゆみ、円形脱毛など
6.サルモネラ症・大腸菌感染症
犬の腸内や排泄物に存在するサルモネラ菌や大腸菌が、人に感染することがあります。特に生肉を与えている場合や、排泄物の処理を素手で行うときなどは注意が必要です。
- 感染経路:犬の便に触れた手を介して口から感染
- 人の主な症状:下痢、腹痛、嘔吐、発熱など
感染症を予防するためにできること
犬との生活を安全に楽しむためには、日常的な衛生管理と適切な予防措置が大切です。ここでは、共通感染症のリスクを減らすために、飼い主としてできる具体的な対策をご紹介します。
手洗いを習慣にする
犬と触れ合った後や、排泄物の処理をした後は、石けんと流水でしっかりと手を洗うことが基本です。特に、食事の前や顔を触る前は手洗いを徹底しましょう。アルコール消毒だけでは取りきれない細菌もあるため、水と石けんによる洗浄が効果的です。
定期的な健康診断とワクチン接種
犬の健康を保つことは、人への感染リスクを下げることにもつながります。獣医師による定期健診や予防接種(狂犬病、混合ワクチンなど)を欠かさず受けさせましょう。寄生虫予防(フィラリア、ノミ・ダニ、回虫など)も重要です。
トイレや排泄物の処理を丁寧に
犬の糞便には、さまざまな病原体が含まれている可能性があります。処理する際は手袋を使う、処理後は必ず手洗いをするなど、衛生的な方法を心がけましょう。トイレ周辺は定期的に清掃し、清潔な状態を保つようにします。
過度なスキンシップは控えめに
犬に口をなめられることや、食べ物を一緒に食べる(いわゆる“口移し”)といった行動は、感染症のリスクを高める可能性があります。特に、小さな子どもや免疫力が低下している人は、直接的な接触を避けたほうが安心です。
室内環境を清潔に保つ
犬の寝床やおもちゃ、食器などは定期的に洗浄・消毒し、清潔な状態を保ちましょう。被毛や皮膚のケアも大切で、定期的なブラッシングやシャンプーで清潔を保つことで、皮膚病や寄生虫の予防にもなります。
まとめ
犬から人にうつる共通感染症(ズーノーシス)には、狂犬病やカプノサイトファーガ感染症、レプトスピラ症、寄生虫感染、真菌症、サルモネラ症などがあります。咬傷や糞便との接触、スキンシップを通じて感染することが多いです。
予防には、手洗いの徹底、定期的な健康診断とワクチン接種、犬の清潔管理、過度な接触の回避が効果的です。感染経路や予防法を正しく理解し、日頃から清潔な環境を保つこと、犬の健康管理を怠らないようにしましょう。