1.人畜共通感染症
犬とキスすることで、特に注意すべきことが「人畜共通感染症(ズーノーシス)」です。その名の通り、人も動物も共通して感染することが考えられる感染症のことで、唾液や排泄物、粘膜の接触などによって病原体が媒介されます。
ここからは、犬から人にうつる可能性のある感染症について紹介します。
トキソプラズマ症
トキソプラズマ症、原虫が病原体となって引き起こされる病気です。健康な成人の場合、病原体に接触してもあまり発症することはないとされていますが、妊娠中の感染は危険だと言われています。
妊婦さんがトキソプラズマ症に感染すると、胎盤を通して胎児も感染させてしまう可能性があります。そして、流産や死産の危険があるだけでなく、脳性麻痺や精神遅滞など重篤な先天性疾患を引き起こす可能性があるのです。
サルモネラ症
食中毒を引き起こす細菌として知られるサルモネラ菌は、動物の消化管に存在します。そのため、犬を介してサルモネラ菌に感染して、胃腸炎などの症状が引き起こされることもあります。
正常な免疫力を持つ健康な成人の場合、重篤な症状に至ることなく回復するケースがほとんどです。しかし、乳幼児や高齢者、病後で免疫力が低い人などの場合は、合併症を引き起こしたり死亡したりすることもあるので注意しなければなりません。
カプノサイトファーガ感染症
多くの犬や猫の口腔内に常在する、カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌によって引き起こされる病気です。
犬にとっては無害な菌ですが、人が感染すると発熱、頭痛、倦怠感、嘔吐、腹痛などの症状を引き起こします。さらに症状が進むと、敗血症や髄膜炎などを引き起こし、敗血症性ショックや多臓器不全で死に至ることもあります。
キスだけでなく、犬に咬まれたり引っ掻かれたりして感染することが多く、傷口をなめられて感染することもあるので注意しましょう。
パスツレラ症
パスツレラ症はパスツレラ・マルトシダという細菌によって引き起こされる感染症で、皮膚症状や呼吸器系症状が見られます。
こちらも犬の口腔内にいる細菌のため、キスをしたり咬まれたりすると感染する可能性があるので接し方に注意が必要です。
傷ができてから数時間のうちに、激しい痛みや腫れを引き起こします。関節付近を咬まれた場合は関節炎を起こすこともあります。
狂犬病
狂犬病は、人畜共通感染症として広く知られていて、発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい感染症です。
狂犬病を発症すると、風邪のような症状が見られ、その後に精神に異常をきたして錯乱状態やうつ状態に陥ります。そして、昏睡状態に陥って死に至ります。
ただし、日本では狂犬病予防法が制定されたことで予防接種が義務付けられ、1950年以降は日本国内における狂犬病の発生は確認されていません。
2.アレルギー
犬とキスすることで、上記の通り様々な感染症を引き起こす可能性があります。しかし、それ以外にも寄生虫や雑菌によるアレルギー症状を引き起こすこともあるので、しっかりと理解しておきましょう。
犬の体には、ノミやダニが寄生していることが少なくありません。そうした犬とキスをしたり濃密に接触したりすることで、寄生虫が媒介する病気やアレルギーを発症することも考えられます。
特に、近年ではマダニが媒介するSFTSウイルスが、犬だけでなくその飼い主にも感染して、発症した例があるので十分注意が必要です。
また、犬の唾液に含まれるたんぱく質などの物質によって、犬アレルギーを引き起こすこともあります。これまでは問題なかった場合も、接触が増えたことでアレルギーを発症することもあるので、節度を持った接し方を心がけましょう。
3.怪我などの事故
犬とキスをするとき、病気だけでなく怪我などの事故にも気を付けなければなりません。
突然顔を近づけると犬が驚いて反射的に咬みついてしまうこともありますし、遊びのつもりで咬んでしまうこともあります。
特に、犬が寝ているときやほかのことに夢中になっているときなど、強引に抱き上げてキスをしようとすると、不満な気持ちから咬んで抵抗することもあるでしょう。
普段は咬むような犬でなくても、物音に驚いた拍子に歯が当たることもありますし、いつどんなハプニングがあるかわからないと意識しておいてください。
まとめ
犬は愛情表現として人の口をなめることがありますし、スキンシップとして飼い主さんから愛犬にキスすることもあると思います。
しかし、犬とのキスは感染症やアレルギー、怪我などのリスクがあるので、あまり頻繁におこなうことはおすすめできません。
なでる、マッサージをするなど、別の方法で愛犬とスキンシップをとって、より良い関係を築きましょう。