病院でのまさかの同伴拒否
最近、街で「補助犬」のステッカーを見かけることが増えましたよね。
コンビニやスーパーの入口に貼ってあることもあります。
このように食品を扱う店に出入り可能ということは、かなり広く受け入れられているはず…と思いきや、まだまだ理解が足りない場面もあるようです。
尼崎市の病院でおきた同伴拒否
今年の9月、兵庫県尼崎市で残念なできごとがありました。
全盲の会社員男性が市内の病院を訪れた際、盲導犬の同伴を拒否されたのです。
エレベーターに乗ろうとしたとき、病院スタッフから「犬はダメ」と言われたそうです。
盲導犬ユーザーである男性は、今年4月に施行された「障害者差別解消法」でも、補助犬の同伴は認められていると説明しました。ですが、病院スタッフは、盲導犬は警備室で預かり、男性のアテンドは職員がすると主張。何と法律より、病院のマイルールを優先させたのです。男性はやむなくそれに従い、盲導犬を警備室に預けました。
病院だから、当然障害者に配慮するイメージがありますが、それを覆すような、あってはならないできごとです。
男性は帰宅してから、改めて病院に電話し、「障害者差別解消法」や「身体障害者補助犬法」を守って対応してほしいと要請しました。ですが病院側は、動物を介した感染症などへの懸念があると答えたそうです。後日、病院は厚生労働省の補助犬に対する見解を確認し、2週間後には病院のホームページで補助犬の受け入れについて方針を発表。病院は補助犬を受け入れることとし、来院者にも理解を呼びかけました。
同伴拒否は、犬とそのユーザーである障害者の拒否でもある
このできごとについて、NPO法人日本補助犬情報センターの事務局長は「病院の対応が早いのはよかった。だが、補助犬の同伴拒否は、犬だけでなく、ユーザーである障害者の拒否でもある」とコメントしています。
同NPOが補助犬ユーザーに行ったアンケートでは、実に66%もの人が、同伴拒否を経験したと回答。そのうち47%は、医療機関でも拒否経験があるという結果でした。法律は整備されたものの、社会の受け入れ態勢はまだ整っていないのがうかがえます。
補助犬とは?
そもそも「補助犬」とは何でしょうか? 一番メジャーなのが盲導犬ですが、他の種類は存在自体あまり知られていないようです。
「身体障害者補助犬法」では、次の3種類が補助犬として定義されています。
- 盲導犬
これは皆さんご存じですよね。目の不自由な人が安全に歩くのを助けます。ラブラドールレトリバーが多いです。
- 介助犬
身体が不自由な人の生活を助けます。落ちたものを拾う、ドアの開け閉め、ユーザーが指示したものを持ってくるなど、さまざまな作業をこなします。やはりラブラドールレトリバーが多いです。
- 聴導犬
耳の不自由な人のために、音を知らせます。電話の呼び出し音、赤ちゃんの泣き声、ノック、警報など、さまざまな音を聞き分け、ユーザーを音源まで導きます。小型犬でもできる仕事です。
介助犬、聴導犬はあまり知られていないため、補助犬ベストを着せていても、ペットと間違われて入店、入館等を拒否されるケースもあるそうです。補助犬は、ユーザーである障害者にとって、なくてはならない存在。先述のコメントにもあるように、補助犬を拒否する=障害者を拒否することになり、ユーザーの方の生活が困難になってしまいます。
わたし達にできること
「補助犬法」では、国や自治体、交通機関、不特定多数が利用する施設は、補助犬の同伴を拒否してはいけないと定められています。民間事業者(飲食店など)も、補助犬を受け入れるように努めることになっています。
「障害者差別解消法」でも、公的機関はバリアフリーが必須、民間は努力義務とされています。障害が理由で、不利益を被ることがないよう定められています。
つまり、社会全体で障害を持つ方が普通に暮らせるようにしようと、法律で呼びかけられているのです。わたし達一人一人も、障害を持つ方に配慮するのが当たり前という意識が必要です。
もし職場で補助犬の受け入れをためらう向きがあったり、実際に入店等を拒否されている場面を見たら、法律で受け入れが定められていることを伝えましょう。補助犬はただのイヌではなく、障害を持つ方の生活に必要な存在なのです。ペットの犬と違い、補助犬は一歩外に出ればお仕事中です。十分に訓練されていて、他の人に迷惑をかけることはありません。ユーザーが用事をしているときは、おとなしく待ちます。
最後に、犬好きゆえにやってしまいがちなNGを挙げます。
- お仕事中の補助犬に触れる
- 勝手に水やおやつを与える
- 補助犬をじっと見つめたり、話しかけたりする
お仕事中の補助犬は、心の中で「えらいね!」とほめるだけにして、そっと見守りましょう!
まとめ
最初にご紹介したとおり、まだ病院ですら補助犬の同伴を拒否することがあります。お店や交通機関など、日常的な小さなできごとで拒否される場面が多いのも、想像に難くありません。
関係団体はもちろん啓発に努めているとは思いますが、犬好きのわたし達も意識を高く持ちましょう。それだけで、補助犬ユーザーの方の助けになることがあるかもしれません。
実際、わたしの職場に盲導犬同伴可能か、問い合わせが入ったことがあります。現場のスタッフが「犬を入れて大丈夫?」「周りに迷惑にならない?」と逃げ腰だったので、盲導犬が他人に迷惑をかけることはないし、受け入れ拒否=障害者差別だと説明しました。そして無事、同伴OKのお答えを返し、来ていただくことができました。その方が用を足している間、盲導犬はもちろん黙ってユーザーさんの足元にいましたし、誰にも迷惑をかけることなく帰って行かれました。
障害を持つ方が不便を感じないように生活するのは当たり前のことです。補助犬の同伴は当然の権利だと、この機会に意識していただければ幸いです。