ものの名前に対する犬の理解を調査
何百もの(時には千以上の)おもちゃの名前を覚えている『天才犬』は複数の研究機関によって研究されており、特別な才能を持つ犬として認識されて来ました。
こちらは、そのような才能を持つ犬の研究を紹介した過去の記事です。
https://wanchan.jp/column/detail/25326
しかし、このたびハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の神経科学者とノルウェーのスタヴァンゲル大学の認知神経学者の研究チームによって行われた実験の結果は、「実は多くの犬は私たち人間が思っているよりもずっと深く物の名前を理解しているのではないか?」という可能性を示すものでした。
研究者は、犬は人間の言葉には意味があることを理解していても、それを示す方法がないだけなのではないかと考えたといいます。また、人間がおもちゃの名前を口にして犬がそれを持って来るという行動研究では、犬の脳内で何が起こっているのかは正確にはわかりません。
今回行われた実験はこのような疑問を明らかにするためのものでした。
おもちゃを見せられた時の犬の脳波を測定して分析
研究者は、犬に行動させることなく脳波計を使って犬の脳活動を測定することで、特定の単語に対する犬の理解を調べたいと考えました。
実験に参加したのは一般募集された27頭の犬と飼い主たちでした。犬たちは頭部に導電性クリームとガーゼを使って脳波計の電極を装着され、その間、飼い主は犬から見えない少し離れた場所で待機していたそうです。
次に犬は「◯◯(犬の名前)ボール(または他のおもちゃ)だよ」という録音された飼い主の声を聞かされ、その後に飼い主が手に何かを持って現れます。飼い主が手にしているものは、音声の内容と一致している場合もあれば、違う場合もありました。
これらのやりとりにおける犬の脳波が記録測定され、最終的に10回以上の試行をすることができた18頭の犬の脳波が分析されました。
音声と見たものが一致しない時の犬の脳の反応は?
犬の脳波の記録は、音声と見せられたものが一致していた時と違っていた時で異なるパターンを示しました。これは人間を対象にして同様の実験をした時に、脳波が示すミスマッチ効果と同じ結果でした。
これは、犬が特定の対象語について参照理解能力(照らし合わせて理解する能力)を持つことを示しています。
音声に登場した単語が犬にとってよりなじみ深い場合には、より大きな差が見られたことから、犬における参照理解能力がさらに実証されました。また、参照理解能力には犬の語彙の多さ(知っている単語の多さ)は影響を及ぼしていませんでした。
犬が知っている対象物の名前の数は問題ではなく、知っている言葉を聞いた時に犬が心的表象を活性化させるのだ(知っている言葉を聞いて「あ!あれのことだと具体的に頭に思い浮かべる)と研究者は述べています。
また、この能力は一部の『天才犬』だけでなく、一般的に犬に備わっている可能性があることにも言及しています。
研究者は今後、この参照理解の能力が犬特有のものなのか、それとも他の生物にもあるのかを調査したいと考えているそうです。また、この能力がどのようにして生まれたのか、それを詳しく知ることで人間が言語を獲得した経緯についても理解が深まることが期待されています。
まとめ
犬は音声で聞かされたものの名前と実際に見せられたものが一致していない時に、ミスマッチ効果の脳波を示したことから、人間の言葉が表すものを理解しているという調査結果をご紹介しました。
犬のトレーニングで言葉による合図(「おすわり」や「おいで」など)が有効であることから、漠然と犬は言葉を理解していると考えていた方は多いと思いますが、このように特定の言葉が特定の対象を象徴していると犬が理解しているという証拠が得られたのは犬の神経科学の大きな一歩です。
多くの飼い主さんが「犬は言葉を理解している」と認識することで、犬との接し方が変わっていくかもしれないですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.02.029