物の名前を覚えられる犬についての新しい調査
犬関連のメディアや世界の動物ニュースなどで、何百ものおもちゃの名前を覚えている犬が話題になることがあります。これらの犬は犬の認知研究のモデルとしても注目され、複数の研究も報告されています。
『物の名前を覚える才能を持つ犬の性格特性とは?【研究結果】』
https://wanchan.jp/column/detail/34573
このような才能を持つ犬はとても珍しく少数であるため、過去の研究でのサンプル数はとても少ないものでした。物の名前を覚える犬たちの研究を継続して行なっているハンガリーの、エトヴェシュ・ロラーンド大学のファミリードッグプロジェクトの研究チームは規模を拡大した調査を実施して、このたびその結果が報告されました。
研究対象を探すための研究者たちの苦労
何百もの物の名前を覚えるという能力は、先にも述べたように非常に稀有なものなので、調査対象となる犬を見つけることは至難の業でした。
研究チームは2020年からソーシャルメディアを使ったキャンペーンを実施し、過去の研究に協力した犬たちとの実験風景を動画配信して、「うちの犬はこのようなことができると思う方は連絡をください」と発信したそうです。
飼い主からコンタクトがあった場合には、家庭でのテストの方法を説明してテスト風景のビデオを送ってもらいました。
その後さらに研究者と飼い主のオンラインミーティングが行われ、管理された条件下で犬の語彙力をテストし、犬がおもちゃの名前を覚えていると確認された場合に、飼い主へのアンケートを依頼しました。
アンケートの内容は犬と飼い主両方の経験に関するものでした。犬の飼育とトレーニングの経験、犬がどのようにいておもちゃの名前を覚えたのかについてなどです。
このようにして、最終的にアメリカ、イギリス、ブラジル、カナダ、ノルウェー、オランダ、スペイン、ポルトガル、ハンガリーの9カ国から41頭の犬が採用されました。
物体ラベル学習の能力を持つ犬には共通した特徴があった
物の名前を覚える「物体ラベル学習ができる犬」というテーマの過去の研究では、研究対象はほとんどがボーダーコリーでした。
今回も41頭中23頭(56%)がボーダーコリーであったことは研究者にとって驚きはありませんでした。(ただし、ボーダーコリーでも物体ラベル学習ができる犬は非常に稀です。)
しかし41頭の中にはポメラニアン2頭、ペキニーズ、シーズー、コーギー、トイプードル各1頭ずつが含まれ、非作業犬種にも物体ラベル学習の能力を持つ個体がいることを示しています。
また、多頭飼育の家庭で飼われている犬は8頭いましたが、1つの家庭に複数の物体ラベル学習ができる犬がいることはありませんでした。
何らかのトレーニング(オビディエンス、アジリティ、ドッグショー、ハーディング、ノーズワークなど)に参加した経験がある犬は20頭でした。
犬がおもちゃの名前を覚えるプロセスについては、ほとんどの飼い主が意図的なトレーニングは行わなかったと答えています。
26人が愛犬がすでにいくつかのおもちゃの名前を知っていることに気づいてから、遊びの中で新しく名前を覚えるような工夫をしたということです。
大半の飼い主は、犬のトレーニングについての専門的な知識を持っておらず、飼い主の犬への接し方やトレーニングに関する経験レベルと、犬の物体ラベル学習の能力との間に相関関係はないこともわかりました。
物体ラベル学習の能力を持つ犬は、新しいおもちゃの名前を非常に速く覚えることもわかりました。半数以上の犬は、5分以内に新しいおもちゃの名前を覚えたとのことです。
募集時のテストでは、犬たちが覚えているおもちゃの買うは平均29個だったのですが、調査が終わった時には50%以上の犬が、すでに100個以上のおもちゃの名前を覚えていました。
このように物体ラベル学習ができる犬に共通するいくつかの特徴が明らかになり、この能力を持つ犬がユニークな個体群であるという仮説を裏付けるものとなりました。
まとめ
市民科学の方法を使って一般の飼い主から「物の名前を覚えることができる犬」を募集したところ、41頭の犬について調査をすることができ、この能力を持つ犬に共通した特徴がわかったという研究結果をご紹介しました。
研究者は、愛犬が複数のおもちゃの名前を覚えていると思う飼い主さんは、ジーニアス・ドッグ・チャレンジのウェブサイトを通じて連絡を取って欲しいと呼びかけています。
ウェブサイトのURLはこちらです。
https://geniusdogchallenge.com
テスト風景の動画などもありますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-47864-5