犬との関わり合いが気分を高める効果を立証するための研究
犬と共に暮らし触れ合うことが心の安らぎになることは、多くの人が実際に経験しています。また、犬との関わり合いがストレスを和らげることは、数多くのセラピードッグの研究などが示しており、実際に多くの人を助けるために役立てられています。
しかしペットの犬がもたらす精神的なメリット、つまり愛犬との関わり合いが人間の気分をポジティブに高める効果を立証した研究は今までほとんどありませんでした。
このたびアメリカのイェール大学とカリフォルニア大学サンタクルーズ校の心理学の研究チームが、愛犬と関わり合うことは飼い主の気持ちに変化をもたらすのか、それは他の方法よりも効果的なのかといった点を調査するための実験を行い、その結果が報告されました。
ストレスの後の3タイプの休憩タイムは気分を変えるか?
調査のための実験には73名(女性63名、男性10名)の人が参加しました。彼らはイェール大学周辺の地域社会から募集された人々で、参加資格は18歳以上で犬を飼っているというもので、実験の際には参加者の愛犬も同行して待機していました。
参加者に与えられた最初の課題は、ストレスを誘発するためのテストでした。テストの内容はコンピューターのスクリーンに数字が1つ表示され、次に表示される別の違う数字との合計を求めるというものです。
数字は次々に順次表示されて行き、正解すると1ポイントが与えられ不正解の場合には小さい爆発音が流れます。
この速いスピードで単純な計算問題を連続して解くという課題は、3段階の難易度で行われました。(レベル1は3分間、レベル2と3はそれぞれ5分間。)テストが終わると10分間の休憩時間が与えられました。
休憩時間の過ごし方について、参加者は無作為に3つのグループに分けられ、最初のグループは別室で待機していた愛犬と10分間触れ合いました。
2番目のグループは、ストレス解消効果がうたわれている「大人の塗り絵」をするよう指示され、3番目のグループには10分間待つことが指示されたといいます。
それぞれの10分間を過ごした後に、参加者はポジティブ感情とネガティブ感情を測定するための質問票に回答。この質問票は、心理学で使用されるPANAS(The Positive and Negative Affect Scheduleの略)と呼ばれる標準化された尺度です。
愛犬との関わり合いは気分の改善効果が最も高かった
感情を測定するための質問票への回答を分析した結果、犬と触れ合った参加者は他の2グループに比べて、感情的幸福感が有意に改善していました。
具体的にはポジティブな感情が増加し、不安感の減少が示されていたそうです。これらは研究者が事前に予測した結果と一致していました。
参加者の犬に関する経験、犬に対する態度、犬と飼い主の付き合いの長さ、犬の年齢、犬種などは気分の改善の度合いに影響を与えませんでした。
また10分の間の犬との身体的な接触の度合いも、気分の改善と関連していませんでした。これらは研究者にとっても少し意外な結果でした。
犬との関係性や経験は、ポジティブな感情と関連しているという予測は当てはまらなかったため、どのようなタイプの人が感情的なメリットをより多く受け取るのかという点は、今後さらに研究が必要だということです。
今回の調査では人間の感情にのみ焦点が当てられましたが、今後は犬の感情や犬が受けるメリットについてもさらに研究が予定されています。
過去の研究から、苦痛やストレスを感じている動物との関わり合いは人間のストレスを軽減しないことが繰り返し示されているからです。
まとめ
ストレスフルな経験の後に自分のペットである犬との関わり合いは、塗り絵や単純な休憩よりも感情的に有益であることを示した調査結果をご紹介しました。
犬と暮らしている人にとっては「当たり前」と感じる結果かもしれませんが、私たちが普段体感していることは「たまたま」や「気の持ちよう」ではなく、標準化された質問票によって、データとして目に見えるものであると証明されることは、犬と人間双方の幸福にとって重要です。
《参考URL》
https://psycnet.apa.org/fulltext/2023-97081-001.html