高齢犬の健康や医療は適切に提供されているだろうか?
愛犬が歳をとって高齢に達した時、さまざまな健康上の問題が出て来ます。それらは単純に加齢によるものもあれば、大きな病気が隠れていることもあります。
また単純な老化であっても、適切な処置をすることで犬が痛みや不便から解放され、生活の質を向上させられることもあります。
しかし、飼い主が犬の加齢に伴う病気の兆候に気づかなかったり、生活の中で気づいた小さな違和感を獣医師に報告しないと、犬が適切な処置を受けられないことにもつながります。
飼い主の意識と獣医師の考えを把握するため、イギリスのリバプール大学の獣医生態科学感染症研究所とハンガリーのエトヴェシュロラーンド大学動物行動学の研究チームが、高齢の犬の健康管理や医療について飼い主と獣医師を対象にした調査を実施し、その結果が発表されました。
犬の飼い主と獣医療専門家から高齢犬の健康や医療についての情報を収集
この調査は飼い主と獣医学の専門家へのインタビューと、飼い主によるオンライン調査への回答を用いて行われ、インタビューの対象は、21頭の犬の飼い主15人(犬の年齢8〜17歳、中央値13歳)、獣医療の専門家11人(獣医師8人、獣医看護師2人、獣医理学療法士1人)でした。
インタビューへの参加者は年齢や性別、経験、経歴、犬の年齢や犬種や健康状態など、さまざまな観点から意図的に選ばれた人たちです。
獣医療の専門家へのインタビューは、高齢犬の予防医療についてどのようなアドバイスをしているか、犬の加齢に伴う変化について飼い主と話をする時のアプローチ方法、オンライン資料の有用性、高齢犬のケアについて最も重要な課題と障壁になっていることについて情報を収集しました。
インタビューへの参加者は、年齢、性別、経験、診療形態が異なるよう意図的に選ばれたそうです。
オンライン調査は、ソーシャルメディアなどを通じて募集された61人の犬の飼い主が回答しました。高齢犬との生活や介護の重要な面を描写した写真またはビデオを1つ添付してもらい、写真やビデオについての説明、なぜそれが重要だと考えたのかを自由記述の文章で回答を求めました。
高齢犬医療の障壁を明らかにして今後の対策に
飼い主と獣医療専門家へのインタビューからは、両者のコミュニケーションに大きなギャップがあり、早急に対策を立てる必要があることが明らかになったといいます。
飼い主は高齢犬の健康問題が治療可能であると認識しながらも、「単なる歳のせい」にしている例がしばしばあることがわかりました。
また、高齢犬が血液検査など犬が嫌がる処置を受けたり、長期の鎮痛剤の服用をしたりすることに消極的な人もいました。高齢犬のワクチン接種や健康診断についても消極的な人が見られたそうです。
身体的な健康問題とは別に、犬の認知症については獣医師にその兆候や症状を伝えていない人や、犬の認知症の進行を止めたり遅らせたりする治療法が存在することを知らない人もいました。獣医師から認知症について説明を受けたことがある人はいませんでした。
調査に参加した飼い主は、高齢犬の健康について獣医師からのサポートやアドバイスが不足していると考えていました。具体的には、高齢の犬によく見られる状態をどのように認識するか、またどのように予防するかを説明されたことはほとんどないということでした。
獣医療専門家は、犬が高齢になるとワクチン接種や健康診断を受ける人が減ることを指摘していました。これは飼い主へのインタビュー結果と一致しています。
犬も高齢になると医療費が高額になりがちですが、もう余命も少ないのだからと費用をかけることをためらう飼い主も少なくありません。費用の問題とは別に、余命が少ないのだから犬自身が嫌がる検査や処置を避けたいという飼い主もいます。
総合すると高齢犬の健康管理における最大の障壁は、飼い主の経済的な問題、飼い主の意識と意欲、獣医師の診察時間に限りがあることでした。
犬の行動や身体的な兆候が「健康的な老化」なのか「病気の兆候」であるのかについて、飼い主への教育の機会が、上記のような障壁のために失われているということです。
研究者はこれら明らかになった問題に基づいて、一般的な加齢性の病気に兆候に関する情報冊子やリーフレット、飼い主が愛犬の変化を時系列で確認できる質問票の構築、飼い主のための正確なオンライン獣医学情報、犬が病院に訪れなくても問診や相談ができるテレ医療の取り入れ、などの対策を提案しています。
まとめ
高齢犬の飼い主と獣医療専門家から収集した情報をもとに、高齢犬の予防医療や治療を行う上で障壁になっている事柄を明らかにし、今後の対策に活かしていくための調査結果をご紹介しました。
対策を立てるためには、まず問題点を明らかにする必要があります。今回のような調査によって得られた情報は飼い主に情報を届けるためのツールの開発に重要です。
新しいツールを開発することで、飼い主と獣医師のギャップを解決し、高齢犬の診察についてより良いコミュニケーションを作っていける可能性が期待されます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1111/jsap.13610