子犬がスタジオを歩き回るパピーヨガ
イギリスやフランスで人気を集めている、パピーヨガというヨガのクラスがあります。これは自分の愛犬と一緒にヨガを行うというものではなく、ヨガスタジオをスタジオ所有の子犬が歩き回るという、ドッグカフェのヨガスタジオ版とも言えるものです。
パピーヨガは、ヨガをしながらスタジオを歩き回る子犬と触れ合ったり見たりすることで、参加者のメンタルヘルスの向上に役立ち、子犬の社会化にも役立つというのが売り文句となっています。セレブリティやインフルエンサーが、SNSにパピーヨガの様子を投稿することが人気に拍車をかけています。
しかし先ごろ、イギリスのテレビ局ITVがパピーヨガクラスに潜入調査を行い、その実態を放送したことから「パピーヨガはすぐに禁止にするべき」という声が高まっています。
パピーヨガクラスの子犬に強いられている負担
調査を行なったITVは、数ヶ月にわたって複数のパピーヨガクラスに潜入調査を実施しました。その結果、犬の健康や福祉についての基本的な要件が満たされていないことを発見しました。
例えば、子犬たちはヨガセッションの1時間の間、水を飲むことを許されていませんでした。スタジオ側はセッション中の排尿を予防するためだと主張していました。
子犬には長い時間の睡眠が必要ですが、ヨガセッション中に眠くなった子犬をわざわざ起こして遊ぶ参加者も見られました。また子犬たちは15分の休憩をはさんで最大4時間もヨガスタジオで「働く」ことを強いられていたといいます。
イギリスの法律では、子犬は生後8週間まで母犬と一緒にいることが義務付けられているはずなのですが、パピーヨガクラスでは生後6週間の子犬も見られました。
動物福祉の専門家や国会議員からも禁止を求める声
パピーヨガクラスの経営者は、子犬がヨガクラスに参加することは彼らの社会化に役立つと主張していますが、英国王立動物虐待防止協会の動物福祉と行動学の専門家は、パピーヨガクラスを「社会化を装ったエンターテイメント」だと述べています。
子犬の社会化は、犬にとって馴染みがあり信頼している保護者といっしょに安心と安全を感じながら行なっていくことが大前提です。
慣れない環境で見知らぬ人だらけの部屋に放たれ、その人たちに次々に撫でたり抱かれたりすることは社会化どころか、不安でネガティブな経験にしかなりません。
このような経験は、情緒や行動発達の面で将来的に悪影響を及ぼす可能性が高いものです。王立動物虐待防止協会と英国ケネルクラブはパピーヨガを禁止するべきだという意見を表明しています。
国会議員による環境食糧農村問題特別委員会でもパピーヨガの件が取り上げられ、英国獣医師会の副会長がパピーヨガクラスについて、「子犬の福祉に深刻な懸念を抱いている」と証言しました。委員会の長である国会議員は、パピーヨガの経営者に対して「すぐにこのようなことをやめるべきです」と述べています。
まとめ
イギリスで人気を集めているパピーヨガが、子犬の健康や福祉を考慮しておらず情緒や行動発達に悪影響をもたらすとして、専門家が禁止するようにとの声をあげているという話題をご紹介しました。
パピーヨガクラスに参加している多くの人は動物好きで、子犬が強いられている負担やリスクを知らずにいるのでしょう。だからこそ、このような潜入調査を行う報道機関が重要です。この例では報道に基づいて専門機関や行政が動くことにもつながっています。
動物の「かわいい」を売り物にして動物に負担を強いる商売は、日本でも例をあげるとキリがないほどたくさんあります。外国の話題ではありますが「かわいい」を理由にした動物からの搾取を考えるきっかけになればと思います。
《参考URL》
https://www.theguardian.com/commentisfree/2023/jul/13/puppy-yoga-dog-welfare-documentary-animal-welfare
https://www.itv.com/news/2023-07-04/puppy-yoga-commodifying-cute-animals-mps-warned