社会的な要素と犬の健康との関連を調査
犬のエイジング(加齢)を研究するための「ドッグ・エイジング・プロジェクト」という大規模研究プロジェクトがアメリカで実施されています。
https://wanchan.jp/column/detail/18108
このプロジェクトはワシントン大学医学部と、テキサスA&M大学獣医学部が中心となって2018年に立ち上げられました。
一般の犬の飼い主の登録を募り、愛犬についてのアンケート調査やサンプル提供依頼によって大量のデータを収集し、犬のエイジングについて遺伝子、ライフスタイル、環境などさまざまな角度から調査研究を行なっています。
現在は30以上の研究機関と3万頭以上の犬が登録されており、加齢に伴う犬の認知や身体の変化について多くの研究結果が発表されています。
このたび、このドッグ・エイジング・プロジェクトからアリゾナ州立大学の生命科学の研究者を中心としたチームによって、犬を取り巻く社会環境と犬のエイジング(健康や運動の度合い)との関連を調査した結果が発表されました。
2万頭以上の犬の飼い主へのアンケートからデータを分析
今回の調査では、プロジェクトに登録している飼い主へのアンケートという形でデータが集められました。2020年12月31日までに寄せられた回答のうち、2歳以上の21,410頭のデータが分析されました。
質問内容は犬の性別や年齢などの基本項目の他に、飼い主に関する項目(家族構成、居住地、総世帯収入、住居は持ち家かどうかなど)、運動能力に関する項目(活動レベル、活動強度、散歩の頻度、有酸素運動の頻度、身体的なゲームで遊ぶ頻度など)、病気に関する項目(犬が診断された疾患の種類)が含まれました。
質問への回答から、犬の運動と健康のスコアが割り出されました。これらのスコアに影響を与える社会的環境因子として、飼い主の属性、住居、家庭の安定性、経済状況、他の動物や人間との関わり合いが挙げられ、それぞれの関連が分析されました。
犬の健康に影響を及ぼす3大要素
犬の健康スコアと運動スコアに最も大きな影響があった社会環境因子は、「社会的なつながり」つまり仲間の存在でした。同じ家庭に他の犬(または他の動物)がいる、人間の家族のメンバーとのつながりが強いというものです。
良い仲間(動物であれ人間であれ)がいる犬は、よく運動して健康であるというのは当たり前のようでいて興味深い結果です。
次に影響が大きかった因子は、飼い主の経済状況でした。世帯収入の高い家の犬は飼い主による「健康である」という回答がより多くなっていました。
その一方で、世帯収入の高い家の犬ほど報告された疾患の数も多いという特徴がありました。この結果は、高収入世帯では病院での診察や検査を頻繁に行うため、疾患が発見されやすいことからなのではと考えられます。
反対に経済的に厳しい状況にいる家庭では、犬の健康スコアと運動スコアの両方が低くなっていました。
研究者は「社会的不公平はコンパニオンアニマルにも影響する」と述べており、このような不公平に対処するための社会的介入策をどのように開発するかという点で、この研究が役立つ可能性にも触れています。
3つ目の因子は飼い主の年齢でした。少し意外かもしれませんが、飼い主の年齢が高い方が犬の健康スコアと運動スコアが高く、それは犬が若い方がより顕著でした。
年齢の高い飼い主の方が、経済的にも時間的にも余裕がある可能性が高いことと関連しているのかもしれません。
また、これら3つの他には、子どもの多い家庭の犬は健康スコアが低い傾向が見られました。これは子どもの存在が犬に悪いというわけではなく、経済的および時間的な資源が犬に行き渡りにくいためと考えられます。
上記のように、複数の因子が犬の健康と運動のスコアに影響を及ぼしていたのですが、最も大きな要因は「社会的なつながり(仲間)」で、経済的要因の約5倍の影響力がありました。
犬も人間も社会的な動物ですから、社会的なつながりが健康と寿命に影響を与えることは、犬と人間両方の「健康な老化」研究にとって重要です。
まとめ
2万頭以上の犬の飼い主へのアンケート調査から、犬の健康に関連する社会的環境因子は「他の人間や動物などとの社会的なつながり」「経済状況」「飼い主の年齢」が影響の大きいもので、中でも社会的なつながりが最も重要であるという結果をご紹介しました。
この調査では犬側の要素(犬種など遺伝的な背景)は加味されていませんが、ドッグ・エイジング・プロジェクトでは現在1万頭の犬のゲノムを解読しており、遺伝的要因と環境的要因の両方の面からの犬の健康と老化への研究が進められています。
《参考URL》
https://doi.org/10.1093/emph/eoad011