ドッグトレーナーのウェブサイトから何がわかる?
犬のトレーニングをプロに依頼しようとする時、多くの人はドッグトレーナーまたはトレーニング施設のウェブサイトや、SNSをチェックするのではないでしょうか。しかし、サイトの紹介文に書かれていることはどれも似通っていたり、良いことしか書いていないので余計に迷ってしまうことも少なくありません。
犬のトレーニング方法は大きく分けると「望ましい行動に対してトリーツなど、報酬を与えて行動を強化していく方法(正の強化)」と、「望ましくない行動に対して何らかの罰を与えて行動を弱化する方法」の2つになります。
さすがに今時は罰だけを使うトレーニングは少なくなり、トレーナーは「報酬ベースのみで行動を強化する」タイプか、「報酬ベースの方法も使うが、場合によっては罰も使う」タイプかに分かれるようです。
ドッグトレーナーのウェブサイトを見た人が、そのトレーナーが絶対に罰を使わないのか、場合によっては使うのかを知る手掛かりはあるのでしょうか。
アメリカのアリゾナ州立大学の心理学の研究者チームは、ウェブサイトやSNSで使われている言葉やフレーズによって、そのトレーナーが実践しているトレーニング方法の種類を区別できるだろうか?という点について調査しました。
100人のドッグトレーナーのウェブサイトを検証
研究チームはニューヨーク、サンフランシスコ、ボストンなどアメリカの10都市のトップドッグトレーナー100人を選び出しました。1都市あたり10人、人気レビューサイトでの評価が高い人が選ばれました。
方針や理念とは別に、実際にどのようなトレーニング方法を使っているのかは、サイトのQ&A、サイト内の画像、レビューサイトに掲載されたレビューの内容などから判断。
トレーニング方法については「嫌悪刺激を全く使わない」または「嫌悪刺激を使うことがある」のどちらなのかが焦点となりました。
嫌悪刺激とは、体罰、大きな声や音を使う、苦痛を伴う電気首輪やプロングカラーを使う、などです。嫌悪刺激を全く使わないというのは、報酬を使って良い行動を強化する「正の強化」のみを使うということです。
上記のような嫌悪刺激を使うトレーナーと使わないトレーナーのウェブサイトの文章を、テキスト分析ソフトを使って特定の単語やフレーズと、トレーニング方法との関連が分析されました。
いくつかの言葉選びの傾向からトレーニング方法を読み取る
ウェブサイトの検証からは次のようなことがわかりました。
- 100人中66人のドッグトレーナーは専門的な教育や資格を証明するものがない
- 専門的な教育や資格を持っているトレーナーは統計的に女性が多い
- 女性トレーナーは男性トレーナーよりも「正の強化」のみを使う傾向が強い
- 正の強化トレーナーは専門的な教育や資格を持っている可能性が高い
ウェブサイトやSNSの文章に使われている言葉についても、ある傾向が表れていました。
嫌悪刺激を使うドッグトレーナーが選ぶ言葉の傾向は次のようなものでした。
- 「母なる自然(Mother Nature)」「リーダー論」に基づいたトレーニング
- 報酬と嫌悪刺激の両方を使うことを「バランス型」と呼ぶ
- 電流が流れる首輪を「Eカラー」「エレクトリックカラー」と呼ぶ
- 報酬を使う「正の強化」はツールのひとつ
一方、嫌悪刺激を使わず報酬のみでトレーニングをするトレーナーが選ぶ言葉の傾向は次のようなものでした。
- 「科学」に基づいたトレーニング
- 嫌悪刺激(罰)を使うことを「嫌悪療法」と呼ぶ
- 電流が流れる首輪を「ショックカラー」と呼ぶ
- 報酬を使う「正の強化」は包括的な方法論そのもの
特に顕著だったのは電気が流れる首輪の呼び方と、バランス型という呼び方だったそうです。
嫌悪刺激を使うトレーニング方法は、獣医学と動物行動学の専門家たちによって「使うべきではない。例外はない。」と断言されています。
「動物行動学の専門家が示した「最良の犬のトレーニング法」
https://wanchan.jp/column/detail/29869
この研究はアメリカのドッグトレーナーを対象にしたものですが、日本でも「バランス型」「いろいろな手法をバランスよく」という表現で嫌悪刺激を使ったトレーニングが紹介されていることがあります。
まとめ
ドッグトレーナーのウェブサイトやSNSの文章から、どのようなトレーニング方法を実践しているのかを調査した結果をご紹介しました。
プロであるドッグトレーナーにトレーニングを依頼するのは良いことですが、適切なトレーナーを選ぶためには、飼い主さん自身が勉強して知識を持っておくことが必要です。知識がないと「確かに時には罰も必要かもしれない」「バランスよくしつけるのは大切だろう」と思ってしまうからです。
体罰などの嫌悪刺激を使って犬との関係が壊れてしまうと、嫌悪刺激を止めても元の関係に戻れないこともあります。ドッグトレーナーを選ぶときはくれぐれも慎重にリサーチをなさってください。
《参考URL》
https://doi.org/10.1080/08927936.2022.2062869
https://www.schoolforthedogs.com/how-to-tell-what-methods-professional-dog-trainers-use-and-why-looking-at-their-websites-might-not-be-that-helpful/