特定のドッグショーが立て続けに開催中止
2023年1月、翌月にイギリスのコベントリーという都市で、開催される予定だった国際ドッグショーが中止になったという報道がありました。
このドッグショーはアメリカンブリーという犬種を中心にブルドッグやカネ・コルソなどが出場予定、アメリカンブリー・ケネルクラブUKが主催していました。アメリカンブリーはピットブルテリアとよく似たタイプの短毛で筋肉質の中型犬です。
さらにその翌月にも、マンチェスターで開催される予定だったアメリカンブリー・ケネルクラブUK主催のドッグショーが中止になりました。
イギリスでは犬の見た目だけのために、断耳や断尾をすることは動物福祉法によって禁止されています。中止になったドッグショーには断耳された犬たちが出場する予定だったのですが、その背景には耳を切られた犬たちという福祉上の理由だけではない、さらに深い闇がありました。
英国公共放送が覆面取材して明らかになった問題
中止されたコベントリーのショーに先立って、別の場所で開催された同ケネルクラブ主催のショーがありました。この時にBBC(イギリスの公共放送)がドッグショーを覆面取材していました。取材された映像には、断耳された何百頭ものアメリカンブリーたちが映っていました。
しかしBBCの取材によって、アメリカンブリー・ケネルクラブの認定審査員である人物の自宅で、生後10週で断耳されたばかりの子犬たちが発見されました。
さらに同ケネルクラブの中心人物の1人が、麻薬密売に関与していることも明らかになりました。この人物は犬の繁殖業にも携わっており、断耳した犬を販売していました。
BBCの調査では断耳だけでなく、極端な体格で繁殖された犬の秘密市場が発見されており、これらの犬の繁殖業は、違法薬物や銃器の販売で得た資金の洗浄のために使われていました。
ドッグショーが開催される予定だった会場の関係者は、自治体や警察との協議の上で犯罪組織とつながっている恐れがある団体との契約を打ち切りました。これがドッグショーが中止になった背景です。
断耳や断尾に関する法の抜け穴を塞ぐ法案
犬の繁殖業を犯罪資金の洗浄に使うなど言語道断で、厳しい取り締まりが行われることは必至です。
また一方で、そんなにしてまで耳を切った犬を入手した人々がいるということも、動物福祉の上で大きな問題です。英国王立動物虐待防止協会や英国獣医師会は、断耳や断尾が不必要で残酷な処置であることを繰り返し呼びかけています。
断耳や断尾は歴史的なルーツを持っていますが、現代においては重要でも適切でもありません。犬の耳も尻尾も、当たり前のことですが血管や神経の通った器官であり切れば血が出て痛みもあります。
処置をしたその時だけでなく、犬にとってのコミュニケーションツールである耳や尻尾を失うことは、その後の生活にも悪影響を及ぼします。
現在英国議会は、国内での断耳や断尾を禁止するだけでなく、既に処置済みの犬を国外から輸入することも禁止する動物福祉法改正を審議しています。この法改正は党派を超えた支持を得ており、正式な法施行が待たれます。
まとめ
イギリスでアメリカンブリー・ケネルクラブ主催のドッグショーが立て続けに中止された背景には、断耳された犬の違法取引や犯罪資金洗浄などの疑惑があったことをご紹介しました。
日本には断耳や断尾を禁止する法律はありませんが、近年は少しずつ自然な姿の犬が増えているように感じます。人間の自己満足のために耳や尻尾を切られて痛い思いをする動物を減らすためには、法整備の他に人々の意識の変化も大切です。
今回イギリスでドッグショーが中止になったことは、断耳された犬を自然な姿として受け止める人が増えるのを防ぐ意味でもよかったと言えます。
《参考URL》
https://www.bbc.com/news/uk-england-coventry-warwickshire-64404531
https://www.bbc.com/news/uk-england-manchester-65207071