主婦業をしながら動物看護士として5年勤務していたKさん
今回インタビュー取材に応じてくださったのは、私の10年来の友人であり、元動物看護士であるKさんです。
彼女は専門学校を卒業後、自身の出産間近まで動物病院の患者である動物達のために働いていました。
今回伺うことができたお話は、普段なかなか聞けないことばかりで、動物病院従事者でなければ分からないことなど貴重な内容となっておりますので、これから動物看護士を目指される方や動物看護士への復帰を考えていらっしゃる方に、ぜひ参考にしていただきたいです。
元動物看護士兼主婦のKさんに聞く!動物看護士とは?
Q1、なぜこのお仕事を選んだのですか?
A.
実ははじめはトリマーとしての就職先を探していたんですが、でも就職口がなかなか見つからず、どうしても動物に携わる仕事がしたかったので、色々と探していました。
そんな時、ある動物病院の動物看護士の募集広告を見つけて就職したんです。
でも、その病院はあまり良い病院ではなく、入院患者の動物たちの管理のやり方がとても杜撰で、「とてもここでは働いていられない」と思い辞めました。
その後は、求人広告の出ていない動物病院にも積極的に電話をして就職先を探しましたが、なかなか見つからず、最後に電話したところでは、「今は人が足りているけれど、もし欠員が出た場合は連絡する」と言われました。
そんな状態だったので、私は半ば諦めていて、とりあえずドラックストアでのアルバイトをしようとしていた頃、欠員待ち状態だった動物病院からお呼びがかかり、そこで動物看護士として就職することができたのです。
Q2、主婦業と動物看護士の1日のスケジュールは?
A.1日の主なスケジュールは以下の通りです。
- 朝6時起床
- 午前6時~8時 旦那さんの食事など家事を行い、出勤の準備。
- 8時30分出勤
- 8時50分頃 職場到着 診察の準備
- 9時午前診察開始
<午前中の部院内業務>
•入院動物の世話
•受付業務
•診察補助(保定や医療道具、薬品などの準備)
•カルテ返却(受診を終えた動物たちのカルテを棚に戻す作業)
•洗濯(動物のバスタオルなど)
•治療食フードの発注
•薬棚チェック(在庫確認と発注)
- 12時昼休みまたは手術 ※月の1/3は昼休みに手術がある。
<お昼休み中の用事>
•一度自宅に帰宅
•自分の食事をとる
•洗濯をとりこむ
•夕食の準備
•飼い猫のお世話
<お昼休みに手術がある場合>
•11時30分頃から手術の準備
•12時手術開始…手術は長ければ15時まで続くこともある。悪性腫瘍などの大きな手術の場合は、夜の診察が終わったあとになり、夜中の0時を超えることもある。
- 15時午後の診察開始
<午後の院内業務>
•午前中に使用した薬の補充
•受付業務
•診察補助
•カルテ返却
- 19時診察終了
•パソコン作業(来院患者の来院日入力)
•院内清掃(掃除機、塩素でモップがけ)
- 動物看護士お仕事の終了
•帰宅途中で食料品の買い物をし帰宅
•食事の支度
- 20時頃ご主人帰宅
- 21時頃片付け
•片付け終わり次第お風呂
•猫の世話
- 23時30分就寝
Q3、ずばり、動物看護士と主婦業の両立はできますか?
A.
可能ではあると思いますが、仕事か主婦業かどちらかをうまくセーブしながらやらなければ続きません。
なぜなら、この仕事も主婦業もどちらも大変な仕事だからです。
動物看護士のお仕事は大変な面が多いし時間も不規則です。なので、サポートしてもらえる人が必要です。
また、子どもがいるなら尚のこと難しく、周囲のサポートが必要不可欠です。
特に大きな動物病院であればあるほど、時間に追われ大変ですし、動物病院側もフルで働いてくれる人を求めています。
Q4、 動物看護士をやっていてよかったことはなんですか?
A.
なによりも動物が元気になってくれることが一番の喜びです。元気になって退院してくれることが一番ですからね。
それから、通院している動物の飼い主さんと顔なじみになってくると、仲良くなれたりします。
スーパーなどで偶然会った時に、声をかけてくれたりすることがとても嬉しく思っていました。
また、動物病院に訪れる動物達と触れ合えるのも動物看護士としての醍醐味です。
特に、入院患者の動物で、人懐っこい子とのつかの間の時間は楽しかったですね。
Q5、忘れられないエピソードはありますか?
A.いくつかありますが、印象に残っていることは2つあります。
人工肛門になった子猫ラムネちゃん
ある日、まだ幼い子猫が生まれつき肛門が閉じたままの状態の病気「鎖肛」で運ばれてきました。
すぐに大手術が行われ、この子は人工肛門になってしまいましたが、奇跡的に回復し、その子は「ラムネちゃん」と名付けられました。
その後、徐々に回復して、とても人工肛門であるとは信じられないぐらい元気になっていきました。
毎日お世話をする間にラムネちゃんとの絆も深まり、私はラムネちゃんをとても可愛がっていました。
そうして2か月の入院生活を経て、無事飼い主さんの元へ戻る日がやってきました。
退院時の説明で飼い主さんには「人工肛門になってしまったため、今後も定期的な受診がこの子の命を繋ぐためには必要」とお話をしました。
その時は納得していただいてラムネちゃんを連れて帰られたのですが、しばらくして飼い主さんはラムネちゃんを病院に連れてこなくなりました。
ラムネちゃんの命を繋ぐためには通院が絶対に必要だというのに、その飼い主さんはとうとう二度と現れませんでした。
飼い主さんの自宅から遠い訳ではないので、おそらく、ラムネちゃんの命を諦めたのではないかと思います。
きっと、今後も医療費を払っていけないと思ったのでしょう。
私はラムネちゃんを自分の子のように可愛がっていただけに、未だにラムネちゃんのことが忘れられないです。
「安楽死」を即答で受け入れた心無い飼い主
ある小さな黒い子猫が動物病院に運ばれてきました。
その子猫は飼い主の不注意で踏みつぶされてしまい、もう手の施しようがありませんでした。このままでは苦しみながら死んでしまうと判断した先生は、飼い主さんに「安楽死」を勧めました。
普通、可愛がっているペットに安楽死の選択をと言われたら戸惑いや悲しみに苛まれるものですが、この飼い主さんは即答で「やってください」と。
この返事を聞いて、この飼い主さんはこの子のことを可愛がっていなかったんだなと悟りました。
安楽死はただ注射を打てばいいというわけではなく、何かをされると察知した動物たちが最後暴れてしまうのです。
それを抑えながら安楽死させなければなりません。
普段泣かないようにしなければと心に言い続けていましたが、この時ばかりはこの子が不憫で悲しくて涙が溢れてしまいました。
Q6、これから動物看護士を目指している人に伝えたいことはありますか?
A.
動物看護士は様々な場面で強い精神力が必要となります。
動物病院なので皆が元気になっておうちに帰れるわけではありません。
時には死んでいく動物たちを目の当たりにしなければならない職場です。
また、診察や治療の時は動物たちに咬まれたり引っかかれたりします。
このようなことがあっても先生をサポートし、保定しなければ安全な診察や治療ができないのです。
そのため強い精神力を持ってこの職場に挑んでもらいたいです。
他にも、飼い主さんとうまくコミュニケーションを取らなければなりませんので、明るい性格の人が向いていますし、先生のサポートができるきめ細やかな気配りが必要となってきます。
初めの方は、イメージとのギャップで心が追い付いていかないこともあるかと思いますが、それを乗り越えていける強い心を持ってほしいですね。
Q7、動物看護士の目線から飼い主さんに伝えたいことはありますか?
A.
そうですね。飼い主さんで多いのが、症状が進行してから動物病院に連れてくる人が多いので、もっと早い段階で動物の異変に気付いて連れてきてほしいです。
よくあるのが、「いつものごはんを食べなくなってからすぐに来院しない」ということです。
「いつものごはんを食べなくなり別のフードに変えてみて、それでもだめなので色々試したけど最終的に全く食べなくなったので連れてきました。」という飼い主さんが多くいます。
実はこれは大きな間違いで、いつものごはんを食べなくなった時点で異変が起こっているので、これを判断材料にしていただきたいです。
他にもしっかりと混合ワクチンを接種するようにしたり、猫エイズ猫白血病のワクチンをしっかり打ってもらいたいことと、犬はしっかりお散歩をさせてほしいですね。
ブリーダーの中には犬を売る時に「散歩しなくていいよ」という人もいるので、それを鵜呑みにしてしまわぬよう、しっかり飼い主さんも飼う前に勉強してもらいたいです。
Q8、最後に動物看護士というお仕事についての思いを聞かせてください。
A.
動物看護士のお仕事は、はじめはイメージとのギャップもあったけどやりがいのある仕事だと思います。
でも、好きだけではできないし、かわいそうに思いながらも動物たちをうまく抑えなければならない場面がたくさんあるため、辛い仕事でもありました。
今は動物看護士を退職して2児の母親となったので復帰は考えていませんが、社会にとっても必要な仕事だし、仕事を通じて知識を得られたことで、自宅にいるペット達にその知識が生かせているので、動物看護士という仕事をやっていてよかったなと思っています。
インタビューして改めて動物看護士という仕事に対して思うこと
今回、インタビュー取材に協力してくださった私の友人Kさんから、動物看護士のお仕事について聞けたことはとても貴重な体験でした。
普段ただ会うだけでは聞けなかった実際の話が聞けて、私自身とても勉強になりました。
それと同時に動物看護士というお仕事が、生半可な気持ちではできないとてもハードなお仕事であること、Kさんがこんなハードスケジュールの中主婦業との両立や、出産間近まで働いていたことに頭が下がる思いです。
しかし、お話を聞いていて思ったのは、そこまで続けてこれたのは、やはり「動物たちへの愛情」があってこそだというのが身に染みて分かりました。
動物看護士というお仕事は多方面に気を配り、1歩も2歩も先を読みながら行動していかなければならず、それができなけれ動物たちの命に関わることもありえます。
常に動物たちの命をお預かりし、時には看取らなければならないこともあります。
ですが、動物看護士というお仕事に就き、日々学ぶことは一生の財産となるものです。
これから動物看護士を目指そうとしている皆さん。
動物看護士を目指そうと思った時点であなたには、その素質があります。
自信を持って、挫けないで良い動物看護士となってください。