遅れていた犬のスポーツ医学
犬がハンドラーの指示に従って障害物コースを走り抜けるアジリティは、ドッグスポーツの代表とも言える人気競技です。世界中で公認の競技会が実施され、日本でもアジリティに参加している犬たちがたくさんいます。
しかし人間のスポーツと同様に、競技独特の動きによる怪我や障害が起こることもあります。競技大会だけでなく日常的にトレーニングを行うため、怪我をする機会は少なくありません。
アメリカのワシントン州立大学獣医学部のデブラ・セロン教授は愛犬と共にアジリティ競技に参加している1人なのですが、愛犬の1頭が競技の際、足指に怪我をした時に犬のためのスポーツ医学の研究がないことに気づきました。
セロン教授の専門は馬の医学で、馬の場合はスポーツ獣医学の専門家がいて、エビデンスに基づいた査読済み学術文献がたくさんあるので、犬のスポーツ医学の遅れに対してショックを受けたということです。
アジリティ競技のための獣医学ネットワークがスタート
セロン教授は、この経験をきっかけにしてアジリティ競技犬の足の怪我について研究を始め、その結果全米のスポーツ獣医学の研究者と知り合うことになりました。そして彼らは2021年にアジリティドッグヘルスネットワークを設立しました。
研究者たちはそれまでアジリティに特化したプロジェクトは各地が独自に取り組んでいたのですが、サンプルや情報の少なさからその結果には限りがありました。ネットワークを作ることで、それまでの問題点のいくつかが大きく改善されました。
ネットワークには実際にアジリティ競技犬の怪我を治療している臨床獣医師、獣医学研究者、そしてアジリティ競技の専門家が参加しており、幅広い情報が集められています。
アジリティドッグヘルスネットワークの活動
このネットワークは獣医師と飼い主、それぞれを対象にした活動を行なっています。獣医師向けにはアジリティというスポーツを紹介し、どのような怪我が発生しやすいか、競技会に出る際に犬の健康を守るための飼い主への指導などについてオンラインセミナーをすでに6回実施しています。2023年には飼い主を対象としたセミナーシリーズが予定されています。
アジリティ競技に参加している人を対象にした大規模アンケート調査も行われています。調査結果からはアジリティに多い怪我について学術論文が発表されています
https://wanchan.jp/column/detail/32094
また飼い主が何に疑問を持ち何を知りたいと思っているのかについてもアンケートが実施され、それをもとに天然芝と人工芝の安全性の比較、人工芝が競技中の犬のスピードに影響を与えるかどうかなどを調査することが予定されています。
ネットワークが広がることで助成金の申請などもし易くなります。セロン教授は今後さらにネットワークを拡大し研究を進めて行くと述べています。
まとめ
ワシントン州立大学獣医学部を中心にして、アジリティに特化した犬の医療研究のネットワークが設立されたという話題をご紹介しました。
このネットワークはアメリカ国内を対象にしたものですが、研究が進み学術文献が増えることで世界中のアジリティ競技犬たちの健康を守るために役立てられます。
愛犬がアジリティに参加しているという方は、機会があればかかりつけの獣医さんともこのような研究のためのネットワークがあるとお話をしてみると良いかもしれませんね。
《参考URL》
https://labs.wsu.edu/agility-dog-health/