犬の実行機能とは何だろう?
『実行機能』という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。これは人間の認知機能の研究や心理学の分野で扱われる概念です。
簡単に言うと目標のために計画を立てて、行動や思考、感情を調整する脳機能のことです。具体的な例をあげると「朝8時に出かけるためには、○時に起きて身支度をしなければならない。そのためにはゆっくりテレビを見ている時間がない」と判断して動く機能です。
この実行機能は犬も持っており日常生活の中で発揮しています。人間のお皿の食べ物に飛びつかない、犬用パズルを解くと言ったことです。実行機能は、行動を抑制する能力やワーキングメモリーといった認知スキルによって成り立ちます。
オーストラリアのラ・トローブ大学の人類動物学の研究チームは、過去に個々の犬の実行機能を測定するための定型の評価スケール(尺度)を作成しています。
「犬は人間の子どもと似た方法で自分の行動を制御している」
https://wanchan.jp/column/detail/33855
この評価スケールは成犬用に開発されたものなのですが、このたび同研究チームによって、同じ評価スケールが幼犬や老犬にも適用できるかどうかの調査が行われました。
複数の国の飼い主を対象にオンライン調査
調査はオーストラリア、イギリス、アメリカなどの犬の飼い主1,239名へのオンラインアンケートによって実施され、そのうち回答漏れなどのない954名の回答が調査の対象となりました。
内訳は1歳未満の幼犬の飼い主129名、8歳以上の老犬の飼い主127名、1歳以上8歳未満の成犬の飼い主698名でした。
参加者は犬と飼い主自身の年齢や性別など、基本的な情報の他にトレーニング経験の履歴、ワーキングドッグかどうかなどの情報と、愛犬の実行機能を評価するための質問票に回答しました。
この回答を分析することで、成犬用に開発されたこの質問票が幼犬や老犬にも有効かどうかが検証されます。また寄せられた回答から、1歳未満の幼犬期と8歳以上の老犬期における実行機能の発達が分析されました。
犬の実行機能を高める要因
129頭の幼犬、127頭の老犬の飼い主からの回答を分析した結果、幼犬も老犬も実行機能の構成は成犬と同じであることがわかり、評価スケールが有効であることが示されました。
実行機能の構成とは、行動の柔軟性、飼い主への注意力、身体的な衝動の抑制、指示への追従、我慢して待つ能力、ワーキングメモリー(作業のための情報を一時的に記憶する能力)の6つの因子から成ります。
この調査に参加した飼い主の幼犬の年齢は3ヵ月齢から11ヵ月齢でした。この段階では犬の実行機能はすでに成犬に近い複雑さに達しており、犬のごく初期の認知機能を理解するためには、8週齢以前の犬の行動を知っているブリーダーへの調査が必要であることもわかりました。これについては今後改めての研究ということになります。
老犬においても、実行機能を構成する因子が変化するという証拠は回答から見出されませんでした。
寄せられた回答から、実行機能の構成因子が年齢によってどのように変化していくかということと、トレーニング経験の履歴の関連も分析されました。
ワーキングメモリーと飼い主への注意は、幼犬期に著しく増加し年齢とともに減少していきました。これは人間の場合と共通しています。我慢して待つ能力は年齢とともに減少していました。
しかし、身体的な衝動の抑制は生涯を通じて増加していました。行動の柔軟性と指示への追従は生涯を通じて変化がありませんでした。
トレーニングの経験とワーキングドッグとしての作業経験は、年齢と無関係に実行機能に影響を与えていて、これらの経験のある犬は高い実行機能を示していました。
まとめ
成犬の実行機能の研究の過程で作成された実行機能測定スケール(尺度)が幼犬や老犬にも適用することができる、つまり幼犬も老犬も実行機能の構成因子は、成犬と変わらないという研究結果をご紹介しました。
トレーニングの経験が実行機能を高めることも改めて確認されました。特別な任務に就いている作業犬ではなくても、生涯を通じてトレーニングを行うことで実行機能を高めることが可能です。
犬の生活の質のためにも、犬も人も一緒に楽しめるトレーニングを日常的に行なっていくことが推奨されています。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13030533