犬のアトピー性皮膚炎と遺伝的な関連
アトピー性皮膚炎は、犬でも人間でも皮膚にかゆみの強い湿疹が出て良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な疾患です。症状が強く出ている時には生活の質に大きく影響するため、効果的な治療法が数多く研究されています。
犬においては、いくつかの犬種でアトピー性皮膚炎を発症するリスクが高いのですが、これまで疾患に関連する遺伝的な要因は明らかになっていませんでした。
この遺伝的な関連についてはスウェーデンのウプサラ大学とスウェーデン農業科学大学の犬遺伝学の研究チームが、スイス、イギリス、アメリカの研究者と協力し合って10年以上にわたって研究を続けています。
このたびその研究結果として、犬のアトピー性皮膚炎と特定の遺伝子領域の関連性が発見されたという発表がありました。
アトピー性皮膚炎好発の4犬種からサンプル採取
研究のためのサンプルはスウェーデン、スイス、オランダ、フィンランド、ドイツ、フランス、アメリカで個人所有の犬から採取された血液サンプル、イギリスで個人所有の犬から採取された唾液サンプルが使用されました。
犬種はアトピー性皮膚炎の好発犬種とされるラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバー、ジャーマンシェパード、ウエストハイランドホワイトテリアの4犬種で合計1,152頭分のサンプルが分析されました。
研究チームは採取されたサンプルからゲノム解読を行い、新しい遺伝子マッピングの方法を使って4犬種のアトピー性皮膚炎に関連する遺伝子座(染色体やゲノム上における、それぞれの遺伝子が占める位置のこと)を探しました。
医学研究での遺伝子マッピングとは、疾患やさまざまな表現型を規定する遺伝子を突き止めることを指します。
この研究で使用した遺伝子マッピングは、疾患のリスクとなる複数の遺伝子変異を捉える方法と、人為的に選択した特性のためにゲノムに隠れている遺伝子変異を発見する方法です。
人間のアトピー性皮膚炎に関連する遺伝子との共通点
その結果、研究チームはアトピー性皮膚炎の15の関連遺伝子座と8つの候補遺伝子領域を特定しました。これらの遺伝子のいくつかは人間のアトピー性皮膚炎に関連する遺伝子と一致していました。
一例をあげると、人間のアトピー性皮膚炎の最も強力なリスク因子とされるフィラグリン遺伝子を含む遺伝子領域は、犬においてもリスク因子であることがわかりました。
この研究で特定された候補遺伝子は、皮膚バリアの性質や免疫防御に関連しているものでした。どちらもアトピー性皮膚炎にとって重要な要素です。
犬のアトピーと人間のアトピーは症状もよく似ており、環境要因の影響を受ける点も同じです。
犬と人間はほぼ同じ環境で生活しているため、犬のアトピー性皮膚炎のメカニズムをより深く理解することが犬と人間両方のより良い治療方法につながる可能性があると研究者は述べています。
まとめ
新しい遺伝子マッピングの方法を用いて、犬のアトピー性皮膚炎に関連する遺伝子領域が特定され、犬と人間のアトピー性皮膚炎の遺伝的な類似性が示されたという報告をご紹介しました。
かつてはアトピー性皮膚炎は原因のわからない病気とされていましたが、ゲノム解読の技術の発展とともに数多くのことが明らかになって来ています。苦しんでいる患者さんの多い病気ですから、より効果的な治療の開発へとつながることが期待されます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s42003-022-04279-8