前十字靭帯断裂という犬の関節疾患
犬の前十字靭帯断裂は犬の関節疾患の中でも多く見られるものです。大腿骨(太ももの骨)と脛骨(スネの骨)の間にある膝関節の中で2つの骨をつないで関節を安定させているのが前十字靭帯です。
この重要な役割を果たしている靱帯が切れてしまうと膝関節が不安定になり、歩行障害が起きることで軟骨など他の組織の損傷につながり関節の炎症を起こします。
前十字靭帯断裂の治療は高額で、さらに片方のヒザの靱帯が断裂するともう片方のヒザも断裂する可能性が50%にもなります。ですから前十字靭帯断裂が重症化する前に治療することは犬の生活の質のためにも、高額な手術を回避するためにも重要です。
ラブラドールは前十字靭帯断裂の好発犬種のひとつです。アメリカのウィスコンシン大学マディソン校獣医学部の比較遺伝学の研究チームは、ラブラドールの前十字靭帯断裂を発症する遺伝的リスクを検査するためのテストを開発しました。
原因となる遺伝子変異の特定が難しい前十字靭帯断裂
前十字靭帯断裂は外傷によっても起こりますが、犬の場合は靱帯の変性と靱帯組織のコラーゲン繊維の断裂が長年の間に少しずつ進行していくものが多数を占めています。
このような慢性的な靱帯変性には、「遺伝的要因」と不妊化手術の時期などの「環境的要因」の両方が関わっています。
研究チームは2016年から全米の1,000頭以上のラブラドールレトリーバーのゲノム分析を行いました。通常の疾患の遺伝子検査では、1種類の遺伝子変異を持っているかどうかを調べます。
しかし前十字靭帯断裂に関連する遺伝子変異は複数あり、その組み合わせによって遺伝リスクが変わります。このため前十字靭帯断裂の遺伝子マーカーの決定は複雑で困難なものでした。
研究チームは各犬の遺伝子マーカーを決定するためにジェノタイピングと呼ばれる方法を使用しました。複数のサンプルのDNAと遺伝子変異を分析することで、前十字靭帯断裂に関連する複数の小さい遺伝子変異を特定することができました。
遺伝子検査に期待できること
このようにして特定された遺伝的リスクから、前十字靭帯断裂を発症するラブラドールのリスクの約62%は遺伝的要因で、約38%が環境的要因であることがわかりました。
遺伝子変異が疾患の発症に強く関連していることから、この検査方法でラブラドールの前十字靭帯断裂の遺伝的リスクを98%の精度で予測することができます。
ウィスコンシン大学獣医学部ではこの検査の一般提供を開始しました。前十字靭帯が断裂しやすいかどうかを知っておくことで、飼い主やかかりつけの獣医師は効果的な予防策や早期治療が可能になります。
ブリーダーがこの検査を使って繁殖犬のスクリーニングをすることで、前十字靭帯断裂の発生率を長期的に減少させ犬種の健全性向上にも役立ちます。研究チームは現在ラブラドール以外の犬種の予測遺伝子検査の開発に取り組んでいるそうです。
また他の犬種に留まらず、この研究は人間のための遺伝子検査の開発を後押しするものだと研究者は述べています。
まとめ
ラブラドールに多い前十字靭帯断裂の遺伝リスクを予測するための精度の高い遺伝子検査が開発されたという報告をご紹介しました。
犬の病気に関連する遺伝的要因が明らかになるたびに、繁殖の際のスクリーニングの重要性がいっそう明確になります。繁殖の前に遺伝子検査を行い、病気に関連する遺伝子を持っている犬は繁殖に使わないことで、将来病気に苦しむ犬を減少させ長期的には遺伝病を撲滅することも可能です。
これは犬種や病気の種類に関わらず、ブリーダーから一般飼い主まで犬に携わる全ての人が知っておきたいことです。
《参考URL》
https://www.vetmed.wisc.edu/new-genetic-test-identifies-dogs-risk-of-common-ligament-rupture/