動物と触れ合った時の脳の活動を調査
動物とのふれあいによって、心が落ち着くといった精神的作用、血圧低下やオキシトシン分泌など身体的な作用があることはよく知られています。しかし神経学的な影響については、今までほとんど研究がありませんでした。
動物とのふれあいはストレスやうつ病に対処するのに役立つことが知られており、ふれあい時の脳の活動を理解することで、動物介在療法をより良い形で設計できると考えられます。
この度、スイスのバーゼル大学とチューリッヒ大学、スイス公衆衛生研究所の研究チームによって、人が犬またはぬいぐるみと接触している時に脳がどのような活動をしているのかを調査した結果が発表されました。
犬とぬいぐるみ両方で行われた実験の内容
調査のための実験に参加したのはバーゼル大学を通じて募集された男性11名女性10名の計21名でした。犬たちは病院でセラピードッグとして働く訓練を受けた、6歳のジャックラッセルテリア、4歳のゴールデンドゥードル、4歳のゴールデンレトリーバーでした。
犬との対照実験に使われたぬいぐるみは中型犬程度の大きさのライオンで、参加者にはレオという名前が紹介され、レオの体内には湯たんぽを入れて体温と体重が再現されました。
参加者は実験室で医療用カウチに座り、おでこに光脳機能イメージング装置(赤外線を使って脳機能のイメージングを行う装置)のセンサーが取り付けられました。
実験のためのセッションは次の5段階が1セットで、全員が犬とぬいぐるみ両方のセッションを計3回行いました。
- 1 参加者は1.5メートル離れた白い壁に向かってリラックスした状態で座る
- 2 参加者から1メートルの距離に犬またはぬいぐるみを置く
- 3 犬の場合は参加者の隣に座り、ぬいぐるみの場合は参加者の太ももに乗せる
- 4 参加者が犬またはぬいぐるみを撫でる
- 5 犬もぬいぐるみもいない状態で再び壁に向かって座る
全ての段階は2分間ずつで、各段階で心拍数と脳の前頭前野の活動が記録されました。脳の前頭前野とは「考える」「記憶する」「判断する」「応用する」「感情をコントロールする」など社会的および感情的な相互作用を処理する部分です。
犬と触れ合うことで前頭前野が活発になった!
上記のような実験の結果、実験の段階が進むにつれて犬やぬいぐるみとの接触が増えるほど前頭前野の活動が高くなっていました。犬やぬいぐるみを撫でた時に脳の活動は最も高くなっていました。
また非常に重要なことに、犬と接した時の参加者の前頭前野の活動はぬいぐるみの時よりも高かったことも示されました。
3回のセッションを重ねるうちに犬の場合は回が進むほど脳の活動が高くなっていたのに対し、ぬいぐるみではそのような変化は見られませんでした。
このことは、この実験で計測された前頭前野の活動は親しみや社会的なつながりに関連した反応である可能性を示しており、また犬との関係性が脳の活動において重要な要因であることも示されました。
研究者は今後の課題として、個人の動物への関心が動物とのセッションにどのように作用するのか、意欲や社会情緒機能に障害のある人でも脳活動に関して同じような結果が得られるのかなども調査する必要があると述べています。
まとめ
犬と触れ合った時またはぬいぐるみと接触した時の、脳の前頭前野の活動を測定したところ、どちらも接触度が高くなるほど脳の活動も高くなり、犬との触れ合いはぬいぐるみよりもさらに脳の活動が高まったという結果をご紹介しました。
犬が私たちの身体に与える影響について、またひとつ新しい証拠が増えたようです。このような研究はより効果的な動物介在療法の設計に役立つだけでなく、逆説的にセラピーロボットの開発にもつながる可能性があります。
それにしても動物の存在も、人間の脳も、その活動を測定する技術もどれもすごいなと思わせられますね。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2022.91289