私は現在、動物病院で働いています。人気犬種の一つでもあるチワワは目がクリクリと大きくて可愛いですが、その反面、目の病気やトラブルが多いです。
中でも目立って多いのが、眼球が外に飛び出してしまう「眼球突出」。喧嘩や強くぶつかったり、高い場所から落下した時など眼球に衝撃を受けたことが原因といわれています。
眼球が外に出てしまうと最悪の場合は失明したり、眼球を摘出しなければいけません。
今回は、眼球突出のまま放置されてしまったチワワについてお話ししたいと思います。
曖昧な電話の意味とは
ある日私が働いている動物病院にチワワを飼っている方から電話がかかってきました。
「犬の目の周りが怪我している、できたらこれから診てほしい」
との内容でした。
具体的にどれくらいの怪我の状況なのか、起こしてしまった原因などを飼い主さんに詳しく聞いてみました。
「なんというか…血がでてる」
電話口の飼い主さんは、どこかモゴモゴと返答を曖昧に濁らせていました。
愛犬の事を一番理解しているのは飼い主さんのはずですが、その曖昧な返答の様子に私は疑問を抱いてしまいました。
しかし、目やその周囲の怪我は様子見し過ぎて放置してしまうと取り返しのつかない状態に陥ってしまう可能性があるため、すぐに連れて来てもらうように伝えました。
悲惨な状態で眼球突出したチワワ
その電話から間もなくして飼い主さんである男性とチワワが来院してきました。
驚いたことにそのチワワは、片方の目が大きな損傷を受けていたのです。詳しくその目の状態をみてみると、目の周りが目ヤニで固まっており、眼球自体が大きく前に飛び出ていることが分かりました。
「もしかしたらベッドで横になっていた時に押し潰しちゃったせいなのかな~」
悪気なさそう平然と言い放つ飼い主さんのその態度に苛立ちさえ感じました。
また、電話の内容と実際の状況が大きく異なっているだけでなく、その目の状態からみて、かなり長い間放置されていたことが伺えました。その状態を確認してしまうと、抑えようとしても、どうしても飼い主さんに対して憤りの気持ちが込み上げてきました。
取り急ぎ、飛び出ている眼球を元の位置に戻し、眼瞼を縫合する処置をおこないました。しかし状態からにして今後、眼球を摘出しなけれはいけない可能性もあることを獣医師から飼い主さんに説明しました。
「え……もう目が見えないんですか、そんな…」
眼瞼を縫合され首にエリザベスカラーをつけた無惨な愛犬の姿に、男性の飼い主さんもようやく事の状態が理解できたようでした。
縫合した部分をいじらないように注意してもらうことと、数日後に再診に来るように説明をしてその日は終わりました。
再来院もなく音信不通に
しかしそれからというものの、いまだにそのチワワは来院しておらず、飼い主さんからの連絡も一切きていません。
損傷した目の眼瞼には縫合されたままであり、今現在どのような状態なのか気にかかり、不安な気持ちしか正直ありません。
私たち人間の目もそうですが、犬の目もとても繊細で、適切な治療が必要不可欠です。もし仮に損傷した目が完全に失明してしまっている場合では、普段の日常生活に支障をきたしてしまう恐れもあります。
「分かった」と理解を示しながらも結局チワワを病院に連れてこない男性の飼い主さんに対して、個人的にとても理解しがたく、なぜ大きな怪我を負っている愛犬に対して優しくしてあげられないのかと不思議でなりませんでした。
まとめ
今回は、何らかの事故により目に大きな損傷を受けながらも放置され続けたチワワについてのお話しをさせていただきました。
今まで動物病院で働いている中で、目の病気やトラブルで来院してくるケースは少なくありません。しかし、ここまで状態が酷く、恐らく長い間放置されていたであろう症例は今回が初めてでした。
特に目が大きなチワワは目に関するトラブルが起きやすく、どの病気も同じですが早めに適切な治療が何よりも大切になります。場合によっては失明になってしまったり、義眼を入れるケースもあり、日常生活に大きく支障をきたしてしまいますので注意が必要です。
犬を飼うにあたって予防関連だけではなく、病気になった際に適切な治療を受けさせる責任があります。今回の症例を機に、今一度愛犬との関わりを見直していただけたらと思います。