犬は自分の行動を思い返して再現できるのだろうか?
犬の記憶についての研究は世界の多くの国で行われその結果が報告されています。単純に物体や画像または音声などを記憶するだけでなく、犬には「あの時、誰と、何をした」というようなエピソード的記憶と呼ばれるものがあることも、複数の研究が明らかにしています。
これはそれらの研究のうちのひとつです。
https://wanchan.jp/column/detail/18106
エピソード的記憶とはまた少し別の視点からになりますが、犬は最近行なった行動の記憶を取り出し、その記憶を使って反応を示したり次の行動につなげたりすることはできるのでしょうか?
このような疑問についての答えを探るため、アメリカのニューヨーク州立大学バッファロー校の心理学の研究者チームが調査を行い、その結果が発表されました。
「もう一度」というキューに対する犬の反応
研究チームは、犬が最近行なった自分の行動を記憶しているかどうかを調べ、その行動を自発的に思い返して再現できるかどうかを検証しました。
調査には研究者たち自身とその友人の愛犬3頭(チワワ1頭、ゴールデンレトリーバー2頭)が参加しました。
犬たちはまず最初に「くるりとスピンする」「伏せる」「歩く」といった行動を、シンプルなキューによってできるようトレーニングを受けました。次に「again=もう一度」という言葉とジェスチャーを組み合わせたキューを別に学習させ、直前に行なった行動を再現するようトレーニングを行いました。
研究課題は次の段階からです。「同じ行動を繰り返す」という概念を犬が学習しているかどうかを確認するため、これまで一度も繰り返しの指示を出したことのない動きに対してこの「again=もう一度」のキューを出してみました。つまり犬が「スピン」「伏せ」「歩く」以外の行動をした後に「もう一度」と指示したということです。
3頭の犬たち全員が「もう一度」のキューで直前の動きをもう一度やって見せました。それだけでなく、直前の行動からキューまでの間に数分の間をおいてもキューによって行動を繰り返すことができました。
犬は抽象的な概念を作り上げることができる
上記のトレーニングと実験の結果から、犬は繰り返しの概念を理解して、それを新しい状況に適用できるということがわかりました。犬は目で見たものや耳で聞いたものへの理解だけでなく、自分の行動の記憶の中から情報を取り出し「繰り返す」という抽象的な概念を形成することができるということです。
かつてエピソード記憶は人間にしかないと考えられていました。しかし後の研究によって、類人猿や犬にもエピソード的記憶(人間と違って言葉でエピソードを語ることができないので「エピソード的」と呼ばれる)があることが明らかになりました。
抽象的な概念を形成することはイルカや類人猿でも確認されており、この研究で犬もまた同様であることがわかりました。研究者は、人間の認知は他の動物と比べてことさらに特別なわけではないと述べています。
まとめ
犬に「もう一度」というキューで行動を繰り返すトレーニングを行なったところ、犬は自分の行動の記憶にアクセスし、それを繰り返すことができたという実験の結果をご紹介しました。
犬の記憶、物事への理解など認知全般についての研究はどんどん進んでいます。飼い主が体感としてなんとなくわかっていたことも、裏づけとなるデータや証拠が報告されています。
一般の飼い主さんが研究機関の報告に直接触れる機会はそれほど多くありませんが、知っておくことで犬が何を考え、どのように感じているかへのより深い理解につながります。理解することは犬と人双方の幸せのためにも大切なことです。
《参考URL》
https://www.buffalo.edu/news/releases/2022/07/012.html
https://doi.org/10.1037/com0000310