人間以外の動物も持っている「エピソード記憶」とは
エピソード記憶という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。エピソード記憶とは個人が経験した出来事について「何が、どこで、いつ」起こったか、その時どんなふうに感じたかというような自叙伝的経験を覚えている記憶を指します。
このエピソード記憶は人間に特有のものだと考えられていたのですが、いくつかの実験研究から鳥、ネズミ、類人猿などの動物もエピソード記憶とよく似たものを持っていることが分かっています。
動物の場合には、記憶の中のエピソードを話してもらうことができないため、人間の「エピソード記憶」と区別して「エピソード的記憶」と呼ばれています。
そしてこの度、カナダのウェスタン大学の比較心理学の研究者が、犬にも「エピソード的記憶」があるかどうかをリサーチし、発表しました。
犬のための「何を、いつ、どこで」の記憶テスト
犬のエピソード的記憶のリサーチは、エピソード的記憶の重要な要素「何が、どこで、いつ」を犬が思い出せるかどうかを確認するための記憶テストを作成することから始まりました。
研究者は4つの異なる種類の匂いを準備し、4つの箱に入れてそれぞれ違う場所に置き、それぞれの箱を異なる時間に犬に嗅がせました。
4種類の匂いが「何が」の要素、箱が置かれた場所が「どこで」の要素、箱の匂いを嗅いだ時間が「いつ」の要素になるというわけです。
テストは4種類の匂いのうちの2種類を探すことが課題として与えられ、「何が、どこで、いつ」起こったのかを思い出さないと正しい選択ができないようデザインされています。課題をクリアすると犬たちはトリーツの報酬を受け取ります。
テストの結果、犬たちは3つの要素を記憶しており、それを使って柔軟にタスクを実行することができました。犬にもエピソード的記憶があるということが分かりました。
過去のリサーチでは、動物の記憶や認知の研究には視覚を使用する方法が用いられてきましたが、今回の研究では犬が嗅覚を使って記憶をたぐり寄せるよう設計されました。嗅覚は犬にとって最も重要で強力なツールですから、この記憶テストの設計が犬の自然な能力に適合したものであったことが分かります。
犬にエピソード的記憶があるという研究の意味
このようなリサーチや研究を見聞きした一般の人の多くがしばしば口にするのは「犬の普段の行動を見ていれば、何をいつどこでという記憶を持っていることは知っているよ」というように、感覚的に既に分かっているというものです。
しかしデータを取って、犬の記憶のシステムが人間と似ていることを確認することには医学的に大きな意味があります。エピソード記憶に関連する神経変性疾患の1つにはアルツハイマー病があります。
この疾患の治療法を開発研究するためには犬の認知症は優れた候補だとされています。犬にも人間のエピソード記憶とよく似た記憶があるなら、これは研究の大きな助けになります。
様々な病気の治療において犬と人間には共通する部分が多く、犬の病気の治療法を開発してそれを人間の治療方法に応用する例は増えています。
まとめ
経験したことについて「何が、いつ、どこで」起こったのかを覚えている「エピソード記憶」は以前は犬では示されていませんでしたが、カナダのウェスタン大学の研究者によって発表された、犬にもエピソード的記憶があるという研究結果をご紹介しました。
犬がエピソード的記憶を持っていると認識することは、動物福祉を考える面でも大きな参考となります。またエピソード記憶に関連する疾患の研究にも役立ちます。
しかし私たち愛犬家としては、犬が一緒に過ごした時間のことを「あの時、あの場所で何をした」と覚えていてくれるのだなと知ると、なんとも嬉しい幸せな気持ちになりますね。
【参考資料URL】
https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-minds/201911/dogs-demonstrate-episodic-memory
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fcom0000174