おもちゃを識別する犬の感覚とは?
多くの飼い主さんは愛犬にとってお気に入りのおもちゃがあることを知っています。しかし、犬が何を手がかりにして特定のおもちゃを識別しているのかは今まで調査されたことがありませんでした。
おもちゃの見た目で判断するのか(視覚)咥えた時の感触なのか(触覚)それとも匂いで判断するのか(嗅覚)、さらに犬がおもちゃを選ぶ時に心に具体的なイメージを浮かべているのかどうかも確かではありません。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームがこれらのことを調査するための実験を行い、その結果が報告されました。
2つのグループの犬がおもちゃを持ってくる実験に参加
実験は2種類行われ、1つ目の実験には2つのグループの犬たちが参加しました。1つのグループは以前の研究にも参加した3頭の「物の名前を覚える才能のある犬たち」で、全員がボーダーコリーです。
この以前の研究はこちらで紹介したことがあります。
もう1つのグループは、一般募集されたさまざまな犬種の家庭犬10頭です。この10頭は飼い主によって「おもちゃを持ってくる遊びに熱心だが、おもちゃの名前は覚えていない」と評価されており、臭気追跡の訓練を受けた経験がない犬たちです。
10頭の家庭犬は実験の前に特定のおもちゃを持ってくるトレーニングを受けています。目的のおもちゃを持って来たときに「褒める」「遊ぶ」「トリーツ」の報酬を与えるという方法で訓練され、複数のおもちゃが並んでいる中から目的のものを選べるようになりました。
おもちゃの名前を覚えている3頭は明るい部屋に置かれた複数のおもちゃの中から、「テディベア」など名前で指定されたおもちゃを持ってくるよう指示を受けます。
もうひとつのグループの10頭も明るい部屋に置かれた複数のおもちゃを見せられ「持ってきて」の指示を受けます。
次に同じ条件で部屋の照明を消して真っ暗な中から、おもちゃを持ってくるよう指示を受けます。
2つ目の実験は、犬がおもちゃを選ぶ時に心に具体的なイメージを浮かべているのかどうかを調べるためのものです。この実験には物の名前を覚えているボーダーコリー3頭、もう1頭同じ条件のボーダーコリーの計4頭が参加しました。
実験内容は1つ目と同じように明るい部屋と暗い部屋で、名前で指示されたおもちゃを持ってくるというものでした。こちらの実験ではおもちゃは全て名前を覚えている馴染みのあるもので、指示されたものを選ぶためには具体的なイメージを持っている必要があります。
犬は物を識別するのに複数の感覚を使っている
1つ目の実験の結果は、全ての犬が明るい部屋でも暗い部屋でも正しいおもちゃを選択することができました。これはおもちゃの名前を覚えていない犬も、目的とするおもちゃを識別する能力には差がないことを示しています。
また全ての犬が、暗い部屋ではおもちゃを選ぶための時間がより長くかかりました。暗い部屋ではおもちゃの匂いを嗅ぐ行動の時間が長くなったことから、犬はおもちゃを識別する際には最初に視覚を使っていることが分かりました。
犬がおもちゃを口で咥えて確認する行動は、明るい部屋でも暗い部屋でもほぼ同じ時間が費やされました。これは条件が変わっても犬たちが触覚を頼りにしている可能性を示しています。しかし反対に犬は触覚には全く頼っていない可能性も考えられます。
明るい部屋では遠方から目的のおもちゃへと一直線に向かう行動も見られたので、視覚が使える場合にはそれだけでも識別ができることを示しています。
しかし犬たちは多くの場合、明るい部屋でもおもちゃに接近して匂いを嗅いだり口で咥えてみる傾向がありました。このことから犬は物体の識別をするのに視覚だけでなく触覚や嗅覚も利用している可能性が示されました。
物の名前を覚えている犬だけが参加した2つ目の実験では、全ての犬が明るい部屋でも暗い部屋でも飼い主が名前で指定したおもちゃを持ってくることができました。
つまり犬たちはおもちゃの名前を聞いて、視覚による色や形、嗅覚による匂い、触覚による感触などのおもちゃの特徴を思い出し、おもちゃを識別していることが分かりました。
実験の結果から、犬はおもちゃを識別するために目的とするおもちゃの特徴に注意を払い複数の感覚を使って情報を得ていることが明らかになりました。またおもちゃを探すためには、複数の感覚的特徴を持つ具体的なイメージを思い浮かべていることが分かりました。
まとめ
犬がおもちゃを識別する際に、まずは視覚を使いさらに嗅覚や触覚を使っていること、その時に頭の中には具体的なイメージを浮かべているのだろうという研究結果をご紹介しました。
一般の飼い主が愛犬の行動を予想する時、ついつい自分の感覚を当てはめてしまいがちです。人間なら探し物をする時にはまず目を使いますから、何の疑問もなく犬もそうであろうと考えます。
今回の実験では犬もまず第一に視覚を使い次に嗅覚という結論が出ましたが、このような研究の積み重ねが犬の感覚や認知を明らかにして行き、適切な付き合い方を教えてくれます。
《参考URL》
DOI: 10.1007/s10071-022-01639-z