犬の肺ガン治療、新しい免疫療法が有望な試験結果

犬の肺ガン治療、新しい免疫療法が有望な試験結果

肺に転移した犬のガンの治療に対する新しい免疫療法が有望な臨床試験結果を示したという発表がありました。人間のガン治療への応用も期待されています。

お気に入り登録

肺に転移したガンへの免疫療法研究

診察を受けるラブラドール

近年、獣医学の分野でもさまざまな先端的な治療が開発されています。人間と同じ環境で生活している犬は発症する病気も人間との共通点が多く、自然発生した病気に罹った犬は、人間の医療への応用を視野に入れた研究の理想的なモデルでもあります。

この度アメリカのカリフォルニア大学デービス校の腫瘍学の研究者と、同校獣医学部のイヌ腫瘍学の研究者を中心とした研究チームが、犬の肺に転移したガンへの新しい免疫療法の臨床試験の結果を発表しました。

免疫療法とは、T細胞やナチュラルキラー細胞といった身体の防御機構がガン細胞を攻撃し破壊することを誘発する治療法です。

ガンを患う犬に生体内で作られるタンパク質を投与

ミスト吸入療法を受けうキャバリア

臨床試験に参加したのは21頭の家庭犬でした。犬たちは全員が骨肉腫または肥満細胞腫から肺への転移が確認されています。

この試験ではタンパク質インターロイキン15(IL-15)が投与されました。インターロイキンとはリンパ球(整体を防御する役割)や、マクロファージ(生体に侵入した異物や細菌、変性物質を食べる免疫細胞)が分泌するタンパク質で現在50種類以上が確認されています。この研究で投与されたのはそのうちのIL-15と名付けられたものです。

IL-15は既に有効性が認められているものですが、濃厚投与による毒性リスクがあることからヒトでの臨床試験はほとんど行われていませんでした。

このIL-15を含むミストが、マズルに装着した吸入器を使って1日2回14日間犬たちに投与されました。犬と飼い主はあらかじめ訓練を受け、投与は飼い主によって自宅で行われました。

吸入療法は肺のガン部位に直接投与されるため免疫刺激効果を向上させ、身体の他の部分への曝露を減らすため毒性を低減する方法として考案されました。

インターロイキンIL-15投与の効果は?

検査中の研究者

14日間の投与の結果、2頭の犬で腫瘍が劇的に小さくなり、そのうちの1頭は1年以上の完全寛解(ガンによる症状や検査での異常が見られなくなり、正常な機能が回復した状態)に至りました。

他の5頭の犬では、急激に増殖していたガンの病勢が数ヶ月にわたって安定しました。この臨床試験でのIL-15吸入療法の奏功率(療法が効果を示した患者の割合)は39%でした。14日間という短期の投与で有望な結果が観察されたと言えます。

試験に参加した犬は全員が進行性転移性のガンで、大多数が既に他の化学療法や放射線療法を受けていました。今回の臨床試験の結果を受けて、腫瘍の特性や患者の免疫など、どのような状態の患者がこの治療に反応するのかを調べる研究が行われています。

このことはIL-15による治療が効果的な患者を特定するのに役立ち、他の両方をどのように組み合わせると治療効果が高くなるのかを知る可能性につながります。

この臨床試験のデータはガンが肺に転移した犬と人の両方にとって重要で、最終的にはIL-15は単独療法ではなく、他の治療方法と組み合わせて補強的に使用される可能性が高いと研究者は述べています。

まとめ

ゴールデンレトリーバーと獣医師

犬の肺に転移したガンへの免疫療法として、生体内で生成されるタンパク質の一種インターロイキン15を使った療法が有望な臨床結果を示したという発表をご紹介しました。

骨肉腫と肥満細胞腫は犬でよく見られる悪性腫瘍です。今までこれらの病気への免疫療法で、犬で有効なものはほとんどありませんでした。今回の臨床試験の結果は、今後の犬のガンへの免疫療法の候補として期待が持てるものです。

実用化にはまだ少し時間がかかりそうですが、重い病気の治療の選択肢が増える可能性は明るいニュースですね。

《参考URL》
https://jitc.bmj.com/content/10/6/e004493
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499840/

はてな
Pocket
この記事を読んだあなたにおすすめ
合わせて読みたい

あなたが知っている情報をぜひ教えてください!

※他の飼い主さんの参考になるよう、この記事のテーマに沿った書き込みをお願いいたします。

年齢を選択
性別を選択
写真を付ける
書き込みに関する注意点
この書き込み機能は「他の犬の飼い主さんの為にもなる情報や体験談等をみんなで共有し、犬と人の生活をより豊かにしていく」ために作られた機能です。従って、下記の内容にあたる悪質と捉えられる文章を投稿した際は、投稿の削除や該当する箇所の削除、又はブロック処理をさせていただきます。予めご了承の上、節度ある書き込みをお願い致します。

・過度と捉えられる批判的な書き込み
・誹謗中傷にあたる過度な書き込み
・ライター個人を誹謗中傷するような書き込み
・荒らし行為
・宣伝行為
・その他悪質と捉えられる全ての行為

※android版アプリは画像の投稿に対応しておりません。