私は動物看護師として動物病院に勤務し、これまでたくさんの犬と関わってきました。
犬種によって性格の特徴は異なりますので、それぞれの犬種に合った適切な躾をしないと、人間の言うことを聞かなかったり様々な問題行動をおこしてしまう恐れがあります。実際に問題行動により手に負えなくなったケースも少なくなくありません。
今回は、自由にさせ続けてしまった結果、狂犬へと変わってしまったパピヨンについてお話ししたいと思います。
犬を初めて飼う飼い主さんとパピヨン
私が働いている動物病院に通院しておられる方の中には、パピヨンを飼っているご家族がいらっしゃいます。
お伺いすると、そのご家族全員が犬を飼育することが初めて、とのことでした。犬は、その犬種によってそれぞれ特有の特徴がみられます。
中でもパピヨンは活発な一面がある一方で、警戒心が強く、とてもプライドが高い犬種といわれています。自分の思う通りにいかないと、吠えたり噛むなど攻撃的になる場合があります。
そのことから、私はなぜ初めて飼う犬の犬種をパピヨンにしたのか、正直少々疑問に思いました。パピヨンは子犬の頃から飼い始める場合、社会性を身につけるべき社会化期には、環境に慣れさせたり躾を交えたトレーニングをする必要があることを飼い主さんに説明しました。
「へ~、そうなんですね~」
そのような説明を聞いても、ご家族全員が気にもしていない様子がみられました。犬という動物について、またパピヨンという犬種について、何も調べもせずに飼い始めたのかと思ってしまいました。彼らのその表情も、きちんと理解している様子が見受けられず、ただただ不安な気持ちしかありませんでした。
躾をせずに好きなようにさせている飼い主
私のそのような不安が残念ながら的中してしまい、このパピヨンは徐々に我儘になっていきました。
また性別がオスということもあり、診察中に威嚇してきたりと攻撃的な様子がみられるようになりました。オス犬はメス犬と比べて縄張り意識が強く、自分が優位に立とうとする傾向があります。しかしそのまま放置してしまうと、躾どころか飼育自体困難に陥ってしまう恐れがあります。
「いやぁ~やっているつもりだけど、全然言うこと聞かなくてね~」
普段の生活について飼い主さんに聞いてみたところ、どうも曖昧に答えており、躾に関してもご家族全員が特にしていないとのことでした。予想はしていましたが実際その現状を知ると、私は言葉を失ってしまいました。
犬を飼育する上でただ単に可愛がるだけではなく、きちんと躾をおこない、飼い主さんやご家族との信頼関係をきちんと築くことが大切です。今の現状に危機感が無いご家族に不安な気持ちしかありませんでしたが、気をとり直し、再度きちんと躾をするように説明をしました。
躾されることなく凶暴化したパピヨン
しかし残念ながらそのパピヨンの性格は未だに変わらないどころか、欠かせないケアの一つでもある「爪切り」さえもご自宅で出来なくなってしまいました。そのため、定期的に爪切りで来院するようになりましたが、以前みられたような愛嬌たっぷりな性格はどこへやら、スタッフに対して威嚇し、かなり攻撃的になっていました。
「すごく噛んでくるので…ちょっと私には無理で…」
飼い主さんは性格が豹変してしまった愛犬に対して恐がってしまい、すでに心の距離を置いていたのです。家族の一員でもあるはずなのに、どこか他人事のように現実を背けている態度に悲しい気持ちになりました。
まとめ
今回は犬の躾に関するお話をさせていただきました。犬が私たち人間と一緒に生活する上で、躾は社会性やマナーを学ぶために必要なことです。また性格は後天的な影響だけではなく、犬種特有の要因も大きく関係しています。
今回のように、犬という動物そのものや犬種について、何も知らずに飼ってしまった飼い主さんは実際少なくありません。そのため、実際に飼ってはみたものの手に負えず、残念ながら飼育放棄する問題がここ数年増加しています。
今回の記事で、多少思い当たるところがあった飼い主さんもいらっしゃったかと思います。今からでも遅くはありません。ぜひ今一度愛犬の躾について見直していただき、愛犬とよりよい関係になることを願っています。