私は動物看護師として働いており、家では猫を飼っています。
甘えん坊な性格の愛猫とは子猫の頃に出会いました。猫と同様に、犬の性格も犬種等による生まれつきの先天的要因と、その後の生活環境による後天的要因によって形成されていくといわれています。
仕事上、今までに子犬や成犬をたくさんみてきましたが、その中でも今回は、飼い主さんの生活環境の変化により、攻撃的に性格が変わってしまったトイプードルについて書きたいと思います。
当初はやや臆病な性格だったトイプードル
私が働いている動物病院に、その女性の飼い主さんが飼っているトイプードルが通院していました。
一般的に、トイプードルは明るくて社交的な性格といわれていますが、その一方、警戒心が強い傾向もあります。今回のトイプードルは、もともとやや臆病なところがありましたが、診察中も比較的大人しくいい子でした。
残念なところは、当時はすでに成長期が終わって成犬の年齢でしたが、まだ去勢手術を受けていませんでした。特に去勢していないオス犬は、ホルモンの関係により縄張り意識が強く、警戒心を持つ傾向があるといわれています。
そのため、生殖器関連の病気予防について飼い主さんに説明し、同意を得た上で後日去勢手術をおこなうことになりました。
実際その手術後の経過も良好で、トイプードルに特に行動の変化もなかったため、今後も大きな問題はないだろうと安心していました。
飼い主さんのライフステージの変化により、攻撃的な性格へと変貌
しかしその飼い主さんが結婚、そしてお子さんを出産した頃になって、トイプードルの性格が次第に変わりはじめました。
ある日予防関連で来院した際、今まで一度も怒ったことがなかったその犬がこちらに威嚇し、噛みつこうとしてきました。
動物病院では、飼い主さんを守ろうとする本能により急に攻撃的になることがよくあります。しかしそのトイプードルは私たちだけではなく、自分の飼い主さんに対しても噛みついてきたのです。
「痛~い!」
トイプードルはとっさに抑えようとした飼い主さんの手に噛みつき、怪我をさせてしまいました。あまりにもの性格の変化にとても驚いたと同時に、あんなにいい子で問題が無かったトイプードルが飼い主さんに対して噛みつき怪我させてしまったことにショックを受けてしまいました。
「私が結婚してからかここ最近、愛犬の性格が急に攻撃的で怒りっぽくなってしまったんですよね。家でも噛みついてきたりして…」
飼い主さんのお話から推測すると、結婚・出産を機に引っ越しもされて、生活環境が一気に変わってしまったのが原因と思われました。
元々臆病な性格もあったことも要因かもしれませんが、突然住んでいる場所も人も含め、身の周りの環境全てが変わってしまうことは、犬にとって大きなストレスとなります。当然個体差はありますので、環境の変化に対してすぐに慣れる犬もいれば、今回のように性格がガラリと変わってしまったり、最悪体調を崩してしまうケースも少なくありません。
とにもかくにも、まずは自宅の中で犬にとって安心できるスペースをつくり、ストレスに配慮してあげるように獣医師とともに飼い主さんに伝えました。
ご自宅でのストレスケアによって、少しでも新しい生活環境に慣れ、改善傾向がみられることを期待せずにはいられませんでした。
だんたんと悪化していき、しだいには飼い主さんにも噛みつくように
しかしその後もトイプードルは行動の改善がみられないどころか、ますます悪くなっていきました。少し近づこうとするだけでも歯を剥き出して威嚇し、飛びかかって噛みつこうとしてくるようになりました。
私たち動物病院スタッフだけではなく、自分の飼い主さんに対しても全く言う事を聞かず暴れてしまい、手に負えない状況…。さらには、肛門腺やウンチを撒き散らすようにすらなってしまいました。
「(ストレスケアの環境改善を)一応やっているつもりなんだけど、全然様子が変わらなくて…」
飼い主さんのお話では、前回指導があった内容に沿ってご自宅で色々と工夫はしているが、お子さんの育児などでなかなか丁寧にケアすることが難しく、愛犬にはほとんど変化がみられないとのことでした。
変化のないまま来院していただいても、診察を無理矢理おこなうと人に大怪我を負わせてしまう危険性や更に犬自身にもストレスをあたえてしまうリスクがあります。そのため、様子をみながら「できる範囲」のみおこなうこととなりました。
獣医師とともに飼い主さんにその旨を説明し、ご自宅でのストレスケアをさらに重視してもらえるように伝えました。今後来院した時には、トイプードルが落ち着きを取り戻してくれることを願うばかりです。
まとめ
今回は生活環境の変化がきっかけで性格が変わってしまった犬についてのお話でした。
私たちは人生の中で、就職や引っ越しや出産など、さまざまなライフステージの変化があると思います。その変化に伴い、環境の変化も発生する場合がありますが、共に暮らしている犬たちはその環境の変化にうまく対応できず、今回のように性格や行動が変わってしまうケースも少なくありません。
もちろん元々の生まれつきの性格にもよりますが、今回のような症状が見られた場合には、愛犬の性格を考慮しながら適切なストレスケアをしてあげる必要があります。
また工事の音等の騒音、来客の訪問なども、愛犬にとって大きなストレスとなり体調を崩してしまうことがあります。犬が人間と一緒の生活をしていく以上避けられない難しい問題なのですが、生きていく環境を与えている人間側がきちんと配慮していく必要があります。
愛犬の性格を把握し、日々の生活環境に対してきちんとストレスケアを心がけているか、全ての飼い主さんにまずは一度確認していただきたいと思います。