ペットと薬剤耐性菌についての研究
『薬剤耐性菌』や『耐性菌』という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。薬(抗菌薬、抗生物質)に対して耐性を獲得して、薬が効きにくくなった(または全く効かなくなった)菌のことです。
例えば、大腸菌は人間や動物の腸内などに普通に存在する細菌ですが、中にはO157などのように深刻な感染症を引き起こすものもあります。そのような感染症に対して抗生物質が効かないというのは生命に関わる深刻な問題ですから、薬剤耐性菌に関して世界中の科学者が様々な研究を行っています。
ペットが耐性菌の感染源になることも懸念されており、この度はポルトガルのリスボン大学とイギリスの王立獣医科大学の研究者が、健康な犬や猫が薬剤耐性菌を飼い主と共有する可能性について研究結果を発表しました。
ペットと飼い主は薬剤耐性菌を共有しているだろうか?
薬剤耐性菌の中でも特に問題視されているのは、複数の抗生物質に耐性を持つ高度耐性菌です。この研究では健康なペットの犬や猫と飼い主との間で、耐性菌の拡散や共有が見られるのかどうかを確認することを目的としています。
研究にはポルトガルの41世帯から飼い主58人と犬40匹と猫18匹、イギリスの42世帯から飼い主56人と犬45匹が参加しました。飼い主も動物も研究開始前の3ヶ月間に細菌感染症に罹っておらず、抗生物質を服用していないことが条件となっています。
参加者全員の便サンプルが1ヶ月間隔で計4回採取され、遺伝子配列解析によって各サンプルに含まれる細菌の種類と、薬剤耐性遺伝子の有無が確認されました。
分析の結果、ペットの犬と猫103匹のうち15匹(15%、猫1匹、犬14匹)飼い主114人中15人(13%)が、高度耐性菌であるESBL産生菌とAmpC産生菌を持っていたことが確認されました。
ポルトガルの4世帯ではペットから検出された耐性遺伝子が、飼い主から検出されたものと一致しました。このうち3世帯では耐性遺伝子の一致は一時点のみだったが、1世帯では二時点連続で一致が認められ、菌のコロニー形成が持続していることが示されました。
また4世帯のうち2世帯ではペットと飼い主が同じ細菌を持っていましたが、残り2世帯では細菌の共有は確認されず耐性遺伝子のみが一致していました。
高度耐性菌の拡散を防ぐために大切なこと
上記のように、家庭の中でペットと飼い主が耐性菌を共有している率は低いものの、菌または耐性遺伝子が共有されていることが示されました。
これは保菌者自身には何も症状が出ていなくても、数ヶ月にわたって周囲に細菌を排出している可能性を示しています。家庭内に高齢者や慢性疾患を持つ人がいる場合、その危険度はさらに高くなります。
この調査結果は人々がペットに顔を舐めさせない、ペットと触れ合う前後に石鹸とお湯で手を洗う、ベッドや食器を清潔に保つなどの基本的な衛生管理を徹底し、人間もペットも不必要な抗生物質の使用を減らすことが、人間とペット両方の健康にとって重要であると示しています。
まとめ
ペットの犬と猫と飼い主の便サンプルの分析から、少ない例とは言えペットと人間が高度薬剤耐性菌、または耐性遺伝子を共有していたという研究結果をご紹介しました。
愛犬や愛猫との間で危険な細菌感染のリスクがあることはショッキングですが、人と動物双方を守るための対策を守ることはとても大切です。コロナ禍の教訓を生かして、今後も気を抜かずに衛生管理を徹底したいと思います。
《参考URL》
https://phys.org/news/2022-04-antibiotic-resistant-bacteria-genes-transmitted.html