ヨーロッパの野良犬の頭数コントロールについての実態調査

ヨーロッパの野良犬の頭数コントロールについての実態調査

街中に住む飼い主のいない犬の扱いは国によって違います。この度ヨーロッパの野良犬の頭数の動向やコントロールについての調査結果が報告されました。

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ヨーロッパの2つの地域の野良犬の実態調査

町の中を歩く野良犬

野良犬という言葉を聞いて、頭に浮かべるイメージは人によって違っているかもしれません。日本国内でも野良犬を見かけることがほとんどない地域もあれば、捨てられて野犬化した犬を見かける地域もあります。

インドやタイのように飼い主のいない犬が、地域の人々とごく自然に共存している地域もあれば、人間から虐められたり捕獲殺処分のために攻撃的な野良犬が多い地域もあるからです。

飼い主のいない犬の頭数や状態を正確に把握しておくことは、犬の福祉と人間の公衆衛生や改善対策のためにも重要です。

ヨーロッパにも野良犬の多い地域がありますが、この度イギリス、オーストリア、イタリア、ベルギーの研究者によって、イタリアとウクライナの特定の地域の野良犬の実態調査が行われ、その結果が報告されました。

野良犬の数や状態をフィールドワークによって観察記録

ウクライナの茶色い野良犬

調査が行われたのは、イタリアのペスカーラとウクライナのリヴィウの2つの地域でした。どちらの地域も、街の中に住んでいる飼い主のいない犬を捕獲/不妊化手術/リリース(元いた場所に返す)と保護施設の組み合わせによって、犬の個体数を継続的に管理していました。

この2つの地域で15ヶ月間にわたって、野良犬の個体数、集団のサイズ、犬の動態、健康状態を調査しました。

イタリアのペスカーラでの調査は人口密度200人未満/㎢の農村地帯で、ウクライナのリヴィウでの調査は人口密度約4,000人/㎢の都市環境が対象となりました。野良犬を見かける確率の時間的な変動を抑えるために、毎日午前7〜9時に街頭でのフィールドワークによってデータが収集されました。

データの収集は事前に設定したルートを徒歩で移動して、目についたすべての野良犬についての情報を記録するという方法です。

野良犬かどうかの判断は次の条件を満たすものとしました。

  • 私有地(家の庭など)ではない場所にいる
  • リードを付けていない
  • 人間と一緒にいない

こうして野良犬と判断された犬たちを体の両サイド、脚、頭、尻尾などを詳細に写真撮影し、専用のアプリに記録して管理されました。

調査から分かった野良犬たちの状態

イタリアの黒い野良犬

フィールドワークの記録から、ペスカーラでは53頭リヴィウでは182頭の犬が個体識別されました。どちらの場合も複数の調査地で観察された個体はいませんでした。つまり犬たちは、移動することなく限られたエリアの中で生活していると考えられます。

性別比はどちらの地域も22〜26%がメス、51〜52%がオス、23〜26%が性別不明でした。またペスカーラでは98%、リヴィウでは95%が成犬で、妊娠中や授乳中のメス犬はほとんど観察されませんでした。

また1ヶ月あたり7%の犬が姿を確認できなくなり、同じく1ヶ月あたり5〜6%の新しい顔ぶれの犬が増えていました。

前述の通り、野良犬たちのほとんどは成犬で繁殖している様子も小さいことから、犬の頭数と顔ぶれの変動は出生ではなく移動によるものと考えられます。これは他の地域の野良犬が移動して来る、新しく捨てられた犬が野良犬になるなどが理由です。

健康状態については皮膚病が観察できたのはペスカラでは7%、リヴィウでは3%と低いものでした。目に見える怪我はぺスカラで12%、リヴィウでは7%でした。両地域とも全体の7割以上の犬が正常な体重の状態で、痩せ過ぎの犬はほとんど観察されませんでした。

これらの結果から、地域内の自治体ごとに取り組んでいる不妊化手術後のリリースなどの対策は功を奏しているが、他地域からの流入や飼育放棄によって自治体の管理努力が阻害されているリスク、またそのリスクを小さくするために地域全体をカバーする対策の重要性が明らかになりました。

まとめ

カメラを見上げる茶色い犬

ヨーロッパの2つの地域で行われた野良犬の実態調査についてご紹介しました。この調査結果から見たところ、イタリア農村部とウクライナ都市部の野良犬たちは、野放しという状態ではなく不妊化手術など行政の管理が行われ、栄養状態などもそれほど悪くはないようです。

またこれだけ詳細な観察ができることから、ことさらに攻撃的な様子は伺えず、地元の人間ともそれなりに共存しているようです。

しかし野良犬同士の繁殖はほとんど見られない様子から、犬たちの多くは飼育放棄された犬であると考えられ、これは犬の福祉にとって大きな問題です。動物福祉と公衆衛生の両方の面から、このような調査が重要であることがよくわかります。

《参考URL》
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.03.25.485772v1.full.pdf

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