私は動物看護師として動物病院に働いています。
年々犬の飼育率が増加傾向にありますが、その多くがペットショップや直接ブリーダーからの購入です。
ローンも組めるため、お金さえあれば誰でも犬を飼うことができます。
また私たち人間の寿命が伸びたり高齢化によって、お年寄りの飼い主さんが増えているようにも感じます。
しかし、ひとくちに「犬」といっても、犬種やグループによって性格や特徴が異なるため、きちんと事前に知っておく必要があります。
しかし自分が飼う予定の犬についての情報を一切知らないまま飼い始めた結果、手に負えなくなったケースも少なくありません。
今回は、高齢の飼い主さんとコーギー犬のお話です。
高齢の飼い主、身勝手な飼い方
私が働いている動物病院に、以前、高齢の飼い主さんが飼っているコーギーが通院していました。
最初の頃は、このコーギーは私たちスタッフに対しても人懐っこく、フレンドリーな犬でした。
しかし、その頃から一つ気になっていたことがありました。
それは、避妊手術をしていないことでした。
避妊手術をおこなうことで、犬は性格が穏やかになるだけではなく、子宮蓄膿症を防げたり乳腺腫瘍の発症リスクを下げるメリットがあります。
病院では以前から飼い主さんにこのことを説明し、避妊手術を受けさせるように伝えてはいました。
「はいはい、まあぼちぼち考えてみますわ」
こちらはできるだけ分かりやすく丁寧に説明しましたが、高齢の飼い主さんは返事はするものの、軽くあしらっていました。
来院するたびに何度も避妊手術について説明を試みましたが、彼らの態度は依然として変わることなく、時間だけが過ぎていきました。
胴長短足で可愛いコーギーですが、牧畜犬としての歴史のルーツをもつ犬種であるため、実は攻撃的で警戒心が強く、縄張り意識が高いといわれています。
そのため、犬種特異的な素因と生活環境、そして避妊手術の有無による性ホルモンの影響などによって性格が変わってくるのです。
生殖器系の病気も含め、今後このコーギーの性格が性ホルモンによって豹変しないか、不安な気持ちでいっぱいでした。
しつけは何も・・・話も聞かない
その後も高齢の飼い主さんに説明をしましたが、結局のところは説明しても頑なに拒み、避妊手術を受けようとしませんでした。
それどころか食事管理もだらしなく、コーギーの体重は増える一方で、どうやら好き放題にさせているようでした。
そんな中、飼い主さんの用事により、数日間このコーギーをお預かりすることとなりました。
初日は様子が変わりありませんでしたが、次第にワガママをいうようになり、攻撃的になっていきました。
普段のお家での様子も気になったため、お迎えの時に飼い主さんに聞いてみました。
「いやぁ〜好きなようにさせているんだけども、ここ最近ワガママでね。しつけは特になにも…。」
しつけはなにもしていないと平然と語る飼い主さんに、唖然としてしまいました。
犬が人と一緒に生きていくためには、そのためのマナーを学んだり、社会性を身につける必要があります。
これは、飼い犬にとって、とても大事なことです。
特に子犬の時期の社会化期にしっかり身につけていないと、飼い主さんとの上下関係や信頼関係が崩れてしまい、問題行動へと発展してしまいます。
このままわがままがエスカレートしてしまうと、動物病院への通院やお預かりなどはもちろん、飼育自体が困難になってしまう恐れもあります。
そのため飼い主さんに好き放題にさせるのではなく、しつけの必要性を説明し、飼育環境の見直しをするように伝えました。
「はいはい、でも言うこと聞かないからな」
分かりやすく説明をしましたが、また適当に受け流されてしまいました。
避妊手術同様に、しつけに関しても理解しようともしない飼い主さんの態度が、到底理解できませんでした。
攻撃的に豹変してしまったコーギー
その後も高齢の飼い主さんの都合により、再びコーギーをお預かりすることとなりました。
しかし、前回お預かりした際に攻撃的になっていたため、少々不安でしたが、残念ながらその不安は的中することに…。
掃除や散歩の際、自分からちゃんとケージから出てきてくれましたが、ケージに戻るときに反撃して噛みついてくるようになりました。
今までホテルにて多くのワンちゃんのお世話をしてきましたが、ここまで威圧的に攻撃してくるケースは初めてでした。
また無駄吠えもするようになり、当初と比べてだんだんと我が強く攻撃的になってしまいました。
個体差や犬種などにもよりますが、小型犬でも噛む力は私たち人間の5倍程ともいわれています。
中型犬クラスのコーギーはそれ以上の力があり、万が一本気噛みしてきた場合大怪我をする恐れがあります。
獣医師やスタッフ全員と話し合った結果、危険性が高いと判断し、今後はお預かりはできない方針に決めました。
その旨を高齢の飼い主さんに伝え、一応ご了承はいただけました。
しかし、この問題行動によって、この先日常生活で支障が起きないかどうか、食事管理も含めきちんと飼育してもらえるのか、ただただ不安でしかありませんでした。
犬は飼い主を選べない
その後、このコーギーは一度も来院がなく、今まで受けてきた予防関連も一切おこなっていません。
特に飼い主さんからの連絡も一切なく、元気に過ごしているのか、きちんと飼育しているのかどうか考えてしまいます。
今回は犬の飼育やしつけに関係する内容でした。
「我が家は大丈夫♪」と、一見他人事のように思うかもしれません。
しかし、実は身近なところで似たような問題はいくつも起きており、大きな問題にもなっています。
実際に飼育しつけの不十分さが原因で咬傷事故を起こしたり、身勝手な都合で飼育放棄されたケースも少なくありません。
その背景には、飼い主が衝動的な気持ちからペットショップで購入し、犬という動物を何も知らないまま飼い始めている現実があります。
そのため、飼育してみて思っていたのと違うために犬を手放してしまう悪循環へと繋がっており、今現在も殺処分の問題があります。
また今回のように、飼い主さんが高齢であることからお世話が不十分になってしまう場合も多く、最期まで飼育困難なケースも、大きな課題になっています。
飼われている犬は飼い主さんを選ぶことができません。
また飼い主さんによっては病気になった時の治療や予防などが受けることもできず、苦しい思いをさせてしまっている場合も。
もしこれから犬を飼育するかどうか迷っている場合は、まずは事前に「犬」という動物、飼おうと思っている犬種についてよく調べて学んでいただきたいです。
そして、最期まで責任もって適切に飼育できるか、犬を飼うことで発生するデメリットは受け入れられるかどうか、きちんと考えてほしいと思います。