パンデミックパピーの福祉についての調査、第2章
コロナ禍のパンデミックの中で世界中のあちこちでペットブームが起こり、多くの人が犬や猫を初めて家族に迎えました。
イギリスではパンデミック中に迎えられた犬たちをパンデミックパピーと呼び、2021年秋にはパンデミックパピーの福祉が低下していることが王立獣医科大学によって調査報告されました。(参考:パンデミックパピーの飼い主と犬の福祉低下についての調査結果)
そしてこの度、同じ研究者チームによってパンデミックパピーたちの社会化の経験についての調査結果が発表されました。子犬期に多くの犬や人間と接触して社会や環境に慣れ自信をつけることは「社会化」と呼ばれ、その後の犬の生活や行動に大きく影響します。
パンデミック下においては、ロックダウンや外出の制限などで人に会うこともままならない状態だったのはご存知の通りです。
犬の一生の中で最もたくさんの人や犬と触れ合うべき時期を、家に閉じこもって過ごしたパンデミックパピーたちの動物福祉が心配されたことは、調査につながった理由のひとつでした。
また、社会化の他にもパンデミックパピーを取り巻く環境について、コロナ禍以前に迎えられた犬たちとの違いが浮き彫りにされました。
基本データの時点で福祉低下の影が
調査はイギリス全国の5,517人の犬の飼い主を対象にして、オンラインアンケートの形で実施されました。
集められたデータから、2020年3月23日から12月31日の期間に16週齢未満で迎えた犬(=パンデミックパピー)と、前年の2019年3月23日から12月31日の期間に16週齢未満で迎えた犬について比較分析されました。
犬の基本データでは、取得時の週齢が7〜8週だったパンデミックパピーでは67.3%、2019年の子犬では52.5%でした。
イギリスでは、獣医師団体や動物福祉団体は8週齢未満で母犬から引き離さないよう推奨されていますが、法的な規制は定められていません。取得時の週齢の時点で、子犬の福祉がないがしろにされていることが伺えます。
また、2020年に犬を迎えた飼い主のうち犬を飼うのが初めての人は40.4%で、2019年の33.3%よりも多くなっていました。
明らかに社会化が不足しているパンデミックパピー
今回の調査の焦点である社会化について2020年取得と2019年取得を比較すると、以下のような違いがありました。
1.子犬用トレーニング教室への参加
2020年28.9% 2019年67.9%
パンデミック以前に取得された犬に比べてトレーニング教室への参加が半分以下です。教室はトレーニング自体の他に、他の犬や飼い主に慣れることに大きな意味があります。
このような場を経験していない犬は、飼い主以外の人や他の犬との関わり合い方が分からず、怖がったり攻撃的な行動が出る可能性が高くなります。
2.自宅に訪問者があった
2020年81.8% 2019年91.3%
2020年取得の犬は自宅で訪問者を迎えた経験も少ないですが、他の項目に比べるとパンデミック以前との差はあまり大きくありません。
3.購入前に獣医の健康診断を受けた犬
2020年87.4% 2019年91.3%
これも大きな差ではありませんが、2020年取得の犬の方が福祉が低いという結果になっています。
- 英国外から購入された犬
2020年7.1% 2019年4.1%
この項目が意味するのは、欧州東部の諸国に多いパピーミルから輸入された犬が多いということです。当然、動物福祉についてはたいへん低いことが大半で、犬のメンタルと身体的健康の両方が懸念されます。
- デザイナードッグ(純血種同士のミックス犬)
2020年26.1% 2019年18.8%
犬種クラブがしっかりしているイギリスにおいて純血種同士のミックス犬が意味するのは、正規のブリーダーではない繁殖者によって生まれた犬である可能性の高さです。この場合も動物福祉について期待はできません。
上記のような違いを総合的に考えると、2020年3月以降に取得されたパンデミックパピーたちは健康と行動に関して将来の不安を抱えていると言えます。これは飼育放棄にもつながる重要な問題です。
研究者は対策として次のようなことを呼びかけています。
- かかりつけ獣医師とのこまめな連携を
- 子犬期を過ぎてもトレーニング教室やオンライントレーニングへの参加を
- 行動上の問題が深刻な場合は、獣医師に相談して行動治療の専門家へ
まとめ
2020年3月以降に購入されたパンデミックパピーと呼ばれる犬たちは、パンデミック以前に購入された犬に比べて社会化が不足しており、動物福祉への配慮のない環境で生まれた可能性も高いという調査結果をご紹介しました。
端的に言えば、コロナ禍のロックダウンをきっかけに犬を飼い始めた例では、知識や経験のない飼い主がパピーミルや素人繁殖の犬を購入している割合が高く、犬を迎えた後の社会化の機会もコロナ禍のため少なかったので、将来の病気や問題行動につながる可能性が高いということです。
イギリスでの調査ですが、日本も含めて他の国にも大いに当てはまる結果と言えます。調査を実施した研究者の呼びかけが功を奏して、将来の問題が回避されたり修正できるよう願ってやみません。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12050629